第十五話 進撃
事件発生から一週間がたった。帝国軍は体勢を立て直すために学校に集まってきていて、すごく物々しい。
学校は実質休校となりあれから夜は先生と帝国軍が順番に外を警戒している。
件のドラゴンは今のところ学校の反対側に進路を取っているらしい。
僕は食堂で夕食を食べてから談話室でイグナーツ君とエーミル君と自主的に勉強をしていた。
魔法理論と魔法の種類を主にエーミル君に見てもらいながら教科書をめくって紙にメモを書いていると突然振動が伝わってきた。
地震かと一瞬思ったけど、違う。地震とは違う揺れ方だ。警告の鐘が寮内に響いている。
五分くらいたって寮母さんが大声で学校に集まるように叫んで回っている。
僕は二人と目を合わせて勉強道具を放置して学校へと走る。
怒号と混乱で学校への道は人であふれ混沌と化していた。
僕は二人とはぐれないように頭に乗っているエンゲを落ちないよう押さえながらついていくのが精いっぱいなくらいの人混みをかき分けて進む。
担任の先生が八メートルくらいの悪魔の彫像のような生物――ガーゴイルの手のひらの上に立っていた。
そこを目指して進む。
近くにまで行くと先生に顔を見られて短く紙に何かを記入している。
しばらくしてクラス全員が集まったと思われた頃、先生が叫ぶ。
「例のドラゴンが進撃してきている。我々教師と帝国軍、そして三年生が前線に立ってドラゴンを止める。倒せれば良いが厳しいだろう。二年生は前線の支援を担当する」
「一年生は後方支援だ。運搬力があり行動力のある召喚獣の主は二年生から負傷者を受け取り後方に連れて来るように。その他は負傷者を治療する事になるだろう。医師の言う事を必ず聞くように。状況は今学校にいる全員を駆り出しても厳しい。それでも我々は生き残るために全力を出さなければならない。」
以上だと先生は言うとガーゴイルに指示を出し、前線へと向かっていく。
「オレとエーミルは負傷者を運ぶ事になるだろうな」
イグナーツ君がそう言った。確かにサーベルタイガーのヴァルディとグリフォンのクラレは人を運ぶのに十分な大きさでぴったりだ。
そういえば三年生ってファウストさんも前線に立つという事になるんだ。
「兄貴は大丈夫だ。強いから大丈夫だ」
僕の表情から読み取ったのだろうか。イグナーツ君は自分に言い聞かせるかのように目をつむり言った。
イグナーツ君の言った通り二人は二年生の後方付近で負傷者を運ぶ係りになった。添え木と包帯や三角巾などの道具を持たせられていた。
僕はエンゲと共に負傷者の手当てをする事になり、一年生全員が医務室の先生に簡単な手当ての講義を受ける。
数時間は時々大きな音がするだけで負傷者は運ばれてくる様子はなかった。
しかし時間がたつにつれ戦いが激しくなっていっている事が振動でわかる。それと同時に負傷者が一人、二人と増えていく。
それからさらに時間がたつと重傷者の割合が増えてくる。まだ死者が出ていないのが幸いという状況になった。
僕は他の人の手伝いに忙しく走り回り疲れている暇はなかった。
そしてエンゲの回復魔法をフルに使わなくてはならなくなっていきエンゲに疲労が見える。
しかしそれは他の人も一緒だった。エンゲだけを特別扱いする事はできない。
例のドラゴンと思われる咆哮がビリビリと響いてきた。
前線にいる人たちは大丈夫なんだろうか。
最前線に立っているであろうファウストさんは怪我をしていないだろうか。
心配で見に行きたい。だけど僕にはここで負傷者の手当てをする役目がある。
空を見上げると今日は新月だった。願いを星に託せる日。
――どうか、みんな無事でありますように。
今は魔石しか持っていない。魔法陣はこの状況でのんきに用意できない。
だけどこの絶望的な状況では願わずにはいられなかった。
零話はいらないと判断して消しました。