第十二話 友達
エンゲを送還し終わり教室に戻ると話した事がないクラスメイト達にも温かく迎えられた。
チャールズのあの行為は誰が見てもひどかったから同情されたのだろう。
イグナーツ君とエーミル君がクラスメイト達を落ち着かせて近くまできた。
「本当は試合が終わったらすぐに言おうと思っていたのだが、それどころではなかったからな。よくやった!」
イグナーツ君に思いっきり背中をばしばしたたかれて倒れそうになるのをなんとかこらえられた。
あの時想像していた時は吹き飛ぶんじゃないかと思っていたけど吹き飛ばなかった。鍛錬の成果かもしれない。
「おいイグナ、疲れているだろうからゆっくりさせてやろうと言ったやつが何やっているんだよ」
エーミル君が止めてくれて助かった。さすがに筋肉がぷるぷると震えている。背中はきっと赤くなっているだろう。
「む、そうだったな。それにしても勝ってよかったな。いろいろやった甲斐がある。もちろん全力を出して負けたらそれでもいいと思っていたがな」
僕は嬉しかった。負けたら失望されるんじゃないかと心の片隅にあったから。
「だがこれで師弟の関係は終わるな。それはそれで寂しくもある」
師弟が終わるっていう事は彼らとのつながりも消えるという事だろうか。それはあまりにも寂しい。たった二週間だけの付き合いでも彼らと一緒にいるのが楽しかったしそれに慣れてしまった。
僕がよっぽど悲壮な顔をしていたからだろう。イグナーツ君があわてて言葉をつけたした。
「そんなに悲しまなくったっていいだろう。その、なんだ。これからは友になろうという事だ!」
イグナーツ君は言いにくそうに頭を指でかきながら言ったそれに僕が驚いているとエーミル君が笑った。
「イグナおまえ、言葉が足りないし何友達になるのに恥ずかしがっているんだよ」
イグナーツ君がエーミル君に食いつくように反論する。
「こんな事言わなくったって自然と友になっていってきたんだ!仕方がないだろう!」
逆切れのような釈明にエーミル君はますます笑う。
エーミル君にむすっとしながらイグナーツ君は僕に向き合った。
「その、よろしくな」
イグナーツ君が差し出してきた手を握り握手をしながら僕は嬉しくて何回もうなずく。
「俺もこれからもよろしく」
エーミル君とも続いて握手をする。
ああ、願いが叶ったよ。
――良い友達ができますように。
小さい時からの願いが今やっと叶った。気弱な僕は今まで星が教えてくれていたけど行動できなかった。
でもエンゲと出会って僕は少し強くなった。星の教えに従う事ができたんだ。
自分の成長を実感する。こんなに気持ちいいなんて知らなかった。
エンゲの事を思い出すと会いたくなってくる。明日までの辛抱なのに待ちきれない。
せっかくかっこよくエンゲを送り出したのに。
僕はもう君がいないとだめみたいだ。
次の日、朝から落ち着かなくて二人に笑われたけど、いつエンゲが戻ってこられるのか。わかるという感覚がどんなものかわからないから仕方ない。
昼の休憩が終わり五つ目の授業の途中で感じた。エンゲがもう大丈夫だと言っている。そう思った。
先生に許可を急いで取ろうと授業をさえぎって言うと先生はため息を吐いて仕方ないと許可を出してくれた。
僕は早足で魔法陣室に向かう。管理している先生に許可を取り、召喚の魔法陣を設置する。
エンゲ、僕は君に早く会いたい。
送り出す時にゆっくりしておいでなんて言ったけど、早く帰ってきてほしいんだ。
エンゲの名前を心の中で呼び続けると魔法陣が強い光を放つ。
「ぷぅ」
エンゲが元気な声を出して現れた。
「エンゲ!」
とても会いたかった。
エンゲをそっと寄せて頬ずりする。
楽しそうな声をあげるエンゲに僕も笑う。
一章完
この後一話幕間がありますがこれにて一章は終わりです。ここまで執筆できたのは読者の皆様のおかげです。ありがとうございます。まだまだ物語は続きますのでこれからもよろしくおねがいします。