漂流者
眩しすぎて網膜が焼ききれてしまいそうな経験は始めてだった。実際、白色なんてものじゃない光が数分もの間、目に張り付いていた。
実験、そう実験だ。こんな暴力的な光は発生する予定はなかった。これは失敗したのだろうか。今世紀最大の科学への貢献となるとテレビで言われていたが、残念な結果となってしまったようだ。悔しさが胸を締め上げた。
良かった。なんとか視力を失うことは避けられたようだ。少しずつ回りが見えてくる。だがこの清々しくも感じる風の流れはなんだろうか。研究棟の20階にいたはずなのに……。
目がほとんど回復してみえたのは、古い石で作られた建築物だった。これは恐らく遺跡だろう。しかしなぜこんなとこに遺跡が? それとも何故こんなとこに私が? と悩んだ方が良いのかもしれない。
しかしもっと目立つものが足元にある。最深部が人を垂直に埋められるようなクレーターだった。私はこのクレーターの浅いところに立っていて、最深部には蠢く肉の塊らしきものがあった。
クレーターを見る限り土の表面は湿っていて、これは最近できたものだと思う。そしてクレーターの上に肉の塊と私がいること。これは事故の結果私が飛ばされ、肉の塊ができクレーターが発生したと見て良いだろう。私は肉の塊を調べてみることにした。
肉の塊は八割がた筋肉でできていた。あとは目らしき部分や骨らしき部分、判断がつかない部分で占められていた。大きさは拳2つ分くらいだろうか。何故動いているのは判断に困る。何故栄養も取れないような外見でもぞもぞとしているのか。
スーパーで肉を買うことくらいしかなかった私には、このスプラッタな物体を落ち着いて見続けることなんてできなかったが、それでも観察しなければならなかった。
それはこの肉の塊が私の研究仲間かもしれないからだ。ここにいた動物か何かが巻き込まれ、このような不自然な肉の塊になったのか。それとも研究仲間が私のように完全に飛ばされず、このような形になってしまったのか。あるいはその両方か判断しなければならなかった。
正直判断もつかなかった。人間にだけにみられる特徴もなく、そこらの動物だけが持っている特徴も見られなかった。正直、人間的部分を確認することに恐れもあり、私は移動することにした。どうやら遺跡から道が続いているのでたどれば人に会えるかもしれない。携帯端末に翻訳機もあるのでここが外国でもなんとかなるだろう。私たちがいた場所もどうなっているのか確認しなくては。
遺跡から進む道を踏み出して少し、私は後ろを振り返った。まだ肉の塊はもぞもぞしている。悩んだが持っていくことにした。羽織っている白衣を脱ぎ、袋のようになんとか結ぶ。直接肉の塊に触れるのが恐ろしく、手を触れないよう時間をかけて白衣の袋のなかに入れた。
私はやっと遺跡からの道を歩き始めた。