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Chapter7 アイ ディズィール 理論エリア 特別閉鎖領域

1


「ひどい......」


 自分から思わず漏れた声。


 視覚共有によって特別閉鎖領域に再現された地上の映像。破壊しつくされた街並み。崩れ落ちたコンクリートに串刺しに打ち付けられ、息絶えた人の姿。腹部に開いた大穴。焼け焦げた傷跡は、紛れもなくフロンティア主力機体が持つ触手によって貫かれた証だ。


 この場でつい最近、殺戮が行われたのは明らかだ。


「確かにこれは度が過ぎていると感じます。ですが、艦長はこの地に住むゲリラによって我々のサーバーの一つがダウンした事を知っていますか? 彼等の手によって、それこそ街一つが消えた事を。


 子供を含めた四万の民は一瞬にして消えました。そこには遺品の一つも残っていません。存在した痕跡すらも。


 それに比べれば、彼等の亡骸はそこに在る。花を手向けることもできます」


 冷酷かつ厳しい口調で言い放つザイール。


 フロンティアはその性質上、バックアップを持っていない。それは技術的な問題では無く、倫理的、もしくは哲学的な問題からだ。


 『世界と、そこに生きる人』の複製を作り、有事の時まで何処かに凍結しておくなど出来ようはずがない。だから、サーバーのダウンは街単位の小世界の消滅を意味する。


「これは、その報復?」


 ザイールはゆっくりと首を横に振った。


「いいえ、違います」


 その答えに、アイは何となくホッとする。ザイールの言葉はさらに続いた。


「彼等の掃討作戦は、半年前に終了してます。もっとも彼等のような存在は、次から次へと湧いてきますが。


 それを最後にこの領域では、公式な戦闘は記録されていません。それに、非公式だったにせよ、正規軍が行ったにしては、度が過ぎています。


 そして何より彼等がいかに憎くとも我らには、創始者によってコードに深く刻まれた戒めにより、現実世界との繋がりの全てを断つことが出来ません。我等は彼等に一定の敬意を払っているのです。それは艦長も知っていますね?」


 アイは頷いた。


 父、葛城智也によってフロンティアの『人』と『世界』に刻まれた解除不能のコードはあまりに有名だ。


 それは『世界』を縛る呪縛。この世界の存続には、常に現実世界からの新たな『人』の流入を必要とする


 この呪縛に父のフロンティアに対する思いが込められているのだと強く感じる。


 フロンティアは『流入者』によって現実世界との感情的な繋がりを辛うじて、維持しているのだ。これが無ければフロンティアにとって現実世界の『人』は滅ぼすべき天敵となっていただろう


「――ですから、この状況は私も異常だと感じます。何が起きたのか知るためには、生存者を救出し、情報を得るしかありません。


 そういう意味で、今回、彼等に与えた任務は非常に重要です。


 それに、新型の義体のテストには丁度良い任務だと考えます。あの義体がゲリラに苦しめられるフロンティアの状況を打開するかもしれません。


 少なくとも、『希望』と言う名が与えられたこの船の、動作不明な装置にのみに頼るよりはよっぽど期待できると考えます」


 ザイールの言葉に強い不安を覚える。


「フロンティアは響生に何をさせようとしているの?」

「敵ゲリラ部隊への潜入です。当面は現地ゲリラの仲間としてフロンティアに対する敵対行動をとってもらうことなるでしょう」

アイは目を見開いた。


「何故そんな事を」

「知れたことです。目的はゲリラの殲滅。

 過去の歴史を見てもゲリラの掃討は非常に難しいことは証明されています。それは何故か。ゲリラは、現地人の支持と支援によって活動するからです。見つけ出し駆逐するのは困難を極めます。


 だから、彼にはゲリラを支援する者を含めた、巨大なネットワーク網の洗い出しを行ってもらいます。そして我々は、徹底的に駆逐するのです」


 特別閉鎖領域に映し出された響生。故郷の現状を見たと言うのに、彼は驚くほど冷静だ。普段、必要以上に明るく振る舞う響生。けど、それがより自分を不安にする。


 あの日以来、響生は目に見えて感情表現をしなくなった。特に、喜怒哀楽の『怒哀』を表現しないのだ。おかげで、響生が何を考えているのか分からない。


 響生はフロンティアが彼に望む事を知っているのだろうか?


 居た堪れない感情を感じてアイは大きく首を横に振った。こんな事をやっていては、現実世界とフロンティアの溝は深まるばかりだと感じる。


僅かな決意を込めて、ザイールを見上げる。


 厳しい表情のザイール。自分などが意見をするなど、許されないように思えてしまう。


――けど......

「ゲリラは『統治する側の者』が、『される側の者』に受け入れられるまで繰り返される。次から次へと反旗を翻す者は誕生する。違いますか?

 どれだけ力の差を見せつけようと心までは縛れない。フロンティアが嘗て『世界と人』の半分を失って尚、現実世界との戦いを決意したように。


 今のままで、現実世界の人々がフロンティアによる統治を受け入れるなんて事がありえるのでしょうか?」


 ザイールが片方の眉をピクリとあげた。


「少し、勉強されましたか? 艦長。良い傾向です」。


 言葉とは裏腹に、表情が険しさを増す。


「――艦長の仰りたい事は分かります。ですがそれは綺麗ごとです。


 『今のままで、現実世界の人々がフロンティアによる統治を受け入れるなんて事がありえるのでしょうか?』 答えは『ノー』です。それどころか彼等が我々の統治を受け入れる事は未来永劫ないでしょう。


 彼等にとって我々は『人』ではないのですから。彼等は我々のその物を消し去ろうとした過去があります。そしてその結果我々に残ったものは恐怖と絶望です。ですが我々は遠い昔『葛城 愛』によって希望を手にしました。


 アイ様。貴方はフロンティアと現実世界、どちらにとっての『希望』でありたいと願いますか?」


 突然の質問に戸惑いを感じる。


「......え? それは――」


 出かけた言葉をザイールが遮る。


「艦長。答えは慎重に出さなければなりません。次の貴方の発言は非常に重要なものです。答え次第では私は貴方を拘束しなければなりません。分かりますね? 艦長」


 いつも厳しいザイールではあるが、それでも嘗て見たことの無いほど冷い輝きを宿した瞳を向けられ、たまらず目をそらす。


「私は誰かの希望になんてなれる存在じゃない」


 言った瞬間、ザイールから落胆が強く反映された溜息が返ってくる。


「――私は、響生の側で現実世界を観察しながら育った。だから、純粋なフロンティア育ちの『葛城 愛』とは違う。けど......。


 私は生ながらに肉体をもっていない。だから現実世界の人とも違う。響生達のような『現実世界からの流入者』とも。


 私の立ち位置は酷く中途半端です。感情的にも」


 視線が落ちる。


「立ち位置が中途半端であると言うのであれば、どちらに立つか決めるしかありません。


 もし、どうしても間に立つと言うのであれば、双方とも救って見せて欲しいものです。


ですが艦長。後者は地獄を這うよりも険しき道となるでしょう。今の艦長にそれが出来るとは私には到底思えませんが」


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