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Chapter 61 響生

挿絵(By みてみん)


1 響生


 急激に強さを増す赤い輝き。ネメシスの集積光の出力なら、この偽りの身体をいとも容易く貫くだろう。


――それでいい――


 この瞬間を自分はフロンティアに渡った時から覚悟してきたのだから。


 そしてそれを行うのがヒロであり、対価が穂乃果の命であるのなら、決して悪くは無い選択だ。


 瞳を閉じる。だが、尚も閉ざされない視界。多量の警告ウィンドウの向こう側で、ヒロが唇を噛みしめ拳を震わせていた。


――穂乃果、アイ、美玲…… すまない。俺は……


 構造物に映り込んだ赤い光が爆発するかの如く光量を増す。


 が、次の瞬間、視界に映り込んだ影に目を見開く。途端に跳ね上がる思考レート。


――サラ!?


 構造物の陰に隠れていたはずの彼女が何故そこにいるのか。あの位置では彼女までもが集積光に巻き込まれてしまう。


 混乱する思考の中、視界が光に飲み込まれていく。


 


2  サラ




――何をやってるのだろう? 私は――


 随分とらしくない行動を取ってしまった。思い返してみれば、今日の自分の行動は逐一らしくない。挙句の果て、これでは……


 視界に映る景色の全てを飲み込むかの如き強烈な光の中で、感じたのは恐怖とは別の感情だった。それは虚無感、もしくは脱力感に類似した感情だ。


 構造物の陰で周りの状況を把握するために、極限まで強制拡張した五感。その結果、聞こえてしまった響生と『彼の友人であった者』との会話。


 居た堪れない感情に支配された。自分が気に留める必要など無い者達の会話のはずなのに。


 構造物の陰から僅かに顔を出し、彼等の様子を伺った。


 響生の背後でゆっくりと持ち上がった触手の先端に赤い輝きが宿る。その瞬間、思考に割り込んだ少女の声。


――いや…… こんなの駄目だよ……――


 だが、それは方向感の無い思考伝達とは明らかに違う。幻聴とでも表現するべき、聴覚に直接干渉するものだ。


――あの、ネメシス!?――


 混乱する思考の中。触手に燈った光が光量を増す。


――いや、お願い! やめて! いや、いや!――


 光が強さを増すほどに、頭の中に響き渡る声も強さを増す。そしてそれは光が弾ける刹那、ついに絶叫とも言える叫びとなった。


――いやあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!――


 何かに突き動かされる様にして動いてしまった身体。決して彼女に集積光を放たせてはいけないと感じてしまったのだ。彼女に響生を殺させてはいけないと。


――こんなの、余りに悲しすぎる―― 


 気づけば自分は構造物の陰から飛び出し、響生に向かい駆け出していた。


 急激に膨れ上がる光。到底間に合う訳がない。自分の命は此処で尽きるだろう。何一つ出来ずに。


――何をやってるのだろう? 本当に、らしくない――


 不思議と飛び出してしまった事に後悔は感じない。けど、結果が変えられなかったことに感じる悔い。


 そして何故か頭に浮かんでしまった『一人の死霊』の横顔。


――貴方が行動した結果、見て見たかったな……――


 視界の全てが、光に飲み込まれて行く。次の瞬間、全身を襲った衝撃。身体中が焼けるように痛い。



   3




 激しさを増すばかりの苦痛。それが続くのは『僅かな間だけ』と思い込んでいただけに深い絶望が襲う。


 やがて感じた違和感。全身に広がる痺れを伴う痛みの発生源が、何処なのかが分かり始める。少なくとも一か所では無い。


 けど、何かが明らかにおかしい。


 全身の痛みに耐えかねて、漏れてしまった悲鳴。その事実に驚く。


――まだ、生きてる……!?


 けど、何故。


「馬鹿か!」


 至近距離から浴びせられた罵声。ただでさえ、こんな状況なのに余りに酷いと感じた。


 痛みに逆らい重い瞼を開ける。その瞬間、視界に入り込んだ物の悍ましさに、息が詰まる。


 左半分が焼け爛れた響生の顔。しかもその一部が剥がれ落ち、本来見えるはずの無い奥歯が剝き出しになっているのだ。あまりの恐怖に瞳を逸らすことが出来ない。


 が、目が合った瞬間、極限状態だった恐怖が嘘のように引いていく。左目は瞼すらも失い、赤い光を宿す金属製の眼球が露出していた。けど、残された右目には明らかな『人』の感情が宿っている。


 自分は彼に助けられたのだ。同時に自身の行動が無駄ではなかった事を知る。彼もまたこうして生きているのだから。


「馬鹿は…… 貴方よ。妹に自分を殺させようとするなんて…… それで生き残ったとしても、死ぬより遥かに地獄だわ……」


 その言葉に見開かれた彼の右目。けど、それは直ぐ自分から逸らされてしまった。露出した左目に宿る光までもが弱まったように感じる。


「俺は……」


 その言葉を遮る。伝えるべきことは伝えたのだ。


「聞きたくない。何を聞いても私には関係ないから。それに、全身痛いし、疲れたし、眠い」


 そう言い切ってしまってから、何もかもを拒むかの様に瞳を閉じた。その瞬間、急激に遠のいていく意識。


 それが途切れる刹那、滑り込んだ声。


「すまない。有難う……」


 その言葉に感じた僅かな苛立ち。


――止めてよ! 聞きたいのはそれじゃない!――


 けど、もうそれを口に出せる体力が残っていない。


 次に目覚める事が出来たなら、もし、その時『彼等』が目的を果たし、自分を此処から連れ出していたのなら、その時は今まで言えなかった不満の全てを盛大にぶちまけよう。


 きっと彼等なら何を言っても真剣に聞いてくれる。今まで自分が出会った誰よりも。


――だから……


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