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Chapter 56 響生 現実世界・地下施設

1


 独特の目眩。首を横に激しく振って、意識の少しでも早い復帰を促したいが、身体が鉛のように重く動かない。加速されたままの思考レートに現実の身体がついてこない独特の現象。


 視界を覆いつくす大量のウィンドウの大半で記号の羅列が凄まじい勢いで流れていく。


 ディズィールとのコネクトが復帰したことにより、失われたシステムの再構築作業が、行われているようだ。


 理解不能なそれらを視界の隅に追いやり周りの状況を確認する。最初に目に飛び込んできたのは荒木の触手によって宙づりにされ、微動だにしないサラの姿。身体にピタリと張り付いたびしょ濡れの衣服は所々引きちぎられ、見るに堪えない。


 Amaterasu:01内部での出来事と重なって、荒木への激しい憎悪が湧き上がる。自分の役目は、現実世界で奴の本体を叩くことだ。


 まるでその意思に反応するかの如く、散乱物の奥に浮かび上がる人型の熱源。だが、本来なら同時に起動されるはずのターゲットスコープが立ち上がらない。


 至近距離とはいえ、戦闘支援システムの完全復帰が行われていないこの状況で、どれほどの射撃精度が得られるのか。普通の武器ならまだしも、自分が扱う武器は異常な反動を伴うのだ。


 けど、それでもやらなければならない。


 異常に重い身体に力を入れ、ハンドガンを引き抜こうと試みる。その瞬間頭に響き渡った声。


――無駄よ。それは荒木の本体じゃない――


 予想すらしなかったそれに、思わず宙吊り状態のサラに再び意識を集中する。と、同時に言葉の意味の重大さに愕然となった。


――どういうことだ?――

――それは貴方達が使う義体の様なものだって、荒木が言ってた。それも生身の人間をベースに荒木が作り上げたものだって――


 あまりの悍ましさに瞬間的に混乱する思考。


――けど――

――荒木が言った事は恐らく本当よ。サーバーとのデータ往復量が希薄すぎるのよ。これが本体だとするならね――


 彼女の言葉に強い不安に駆られる。


――美玲!――


 漏れてしまった思考。


――彼女なら恐らく大丈夫。現状では優勢に見えなくもない――

――サラにはサーバー内と現実世界の両方が同時に見えてるのか!?――

――見えてるわ。って言ってもサーバー内の様子はウィンドウ越しにだけど――

――中はどうなってる!?――

――良くわからないけど、彼女が何かとんでも無い物を呼び出したみたい。動きが速すぎて目で追えないのよ――


 一体どういうことなのか。


――だから貴方は貴方の目的を果たして。でないと、彼女がサーバーに残った意味がない――


 さらに付け加えられた言葉に目を見開く。次の言葉が出てこない。巡り始める思考。がそれは唐突に思考伝達に割り込んだ声によって遮られてしまう。


――うるさいね。イライラするよ。うん、本当にイライラする。こちらも忙しくなってきたと言うのに――


 その声に全身を駆け上がる悪寒。


――僕は確かに君をAmaterasu:01に繋ごうとしたけど、そこから逃れただけではなく、逆に情報操作に抜け殻になった僕の身体が使われていたとはね。うん、驚いた。けど流石にこれは不愉快だね。うん、本当に不愉快だ。


 偽装を行ったのはAmaterasuかな? それとも君なのかな? どちらにしてもお仕置きが必要だね――


 不気味な言葉を残し、途切れる思考伝達。


 次の瞬間、サラの断末魔の如き悲鳴が頭に響き渡った。と同時に自身も脳が焼かれるかの如き尋常ではない苦痛に襲われる。


――何だこれ!?――


 強制展開された警告表示と共に強制切断されるネットワーク。と同時に同じく防御機構によって強制的に落とされてしまった思考レート。


 圧縮されていた時間が弾けるように動き出す。荒木の触手を伝う青い帯電光。


 通常状態戻った視界の向こうで、サラが激しく身体を痙攣させる。


「サラ!」


 考えるより先に身体が動いた。背に従えた大剣を引き抜くと同時に跳躍し、そのままサラを拘束する触手に向かって振り下ろす。途端に右肩に走り抜ける激しい痛み。肩部を損傷していた事実を今更ながらに思い出す。


 切断面から血の色をした流体液を噴出し、生き物の様にのたうち回る触手。


 その場に崩れ落ちようとするサラを左腕で支えた。


「貴様ぁぁ!」


 次の瞬間、後方から聞こえた怒鳴り声。咄嗟に振り返ったその先で義手の男が自動小銃を構え直す。再度跳ね上がる思考レート。


 銃口から吹き上がる炎と共に連続射出された弾丸が、衝撃波の渦を従え多量に迫る。このままでは、自分はともかくとしてサラが無事では済まない。けど、思考ばかりが加速し、身体がそれについてこない。


 襲われる激しい頭痛。瞬間的にフィードバックされた傷ついた穂乃果、そして伊織の姿。血が沸騰するような感覚。


――俺はもう二度と――


 同じ過ちは繰り返さないと誓ったのだ。


――だから――


――Release all restriction(全制限解除・生態部放棄)――


 瞬間的に限界まで跳ね上がる思考レートと共に枷から解放された偽りの身体が、意思に追従して動き出す。サラの身体を可能な限り動かさない様にしつつ、彼女を抱えこむようにして弾丸に背を向ける。開放状態の義体の速度でサラを動かせば、それだけで彼女に致命傷を耐えかねない。


 たったこれだけの動作だと言うのに、視界に並び始める準警告メッセージ。装甲ジャケット内側で、複数の関節を覆う生態部が激しい損傷を負った事を意味していた。


 さらに異様な速度で減り始めた行動可能時間。ここでその全てを使い果たす訳にはいかない。


 通常状態へと移行させた義体の背に大量の弾丸を受ける衝撃が走り抜ける。


 ついに完全復帰を果たした戦闘支援システムによって、視界角に表示された簡易マップ。


そこに表示された多くの熱源がこの場所に集おうとしていた。


――まずい……――


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