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Chapter 44 サラ

1



 耳に走り抜ける激痛。内耳に設けられ外部入力端子に突き立てられた触手。それを通して、異様な情報量が頭に流れ込む。脳が焼けるかのような感覚。意識が酩酊していく。


 それが途切れる刹那、視界の全てから唐突に色が失われた。全てが凍り付いてしまったかの如く、世界の全てが停止する。


 自分を宙吊り状態にし、脈打っていた触手も、それによって舞い上がった血の付いた書類ですらも空中に固定されたかの如く停止している。


――何…… これ……


 身体が動かない。なのに意識だけが異常にクリアになった感覚がある。自分に何が起きたのか分からない。得体の知れない恐怖に飲み込まれていく。


――何これ! 何なのよ! 


 思いついたかのように、響生に視線を向ける。が、彼もまた止まってしまったかのような時間に飲み込まれ、強張った表情のまま停止していた。


 深い絶望が心を支配していく。


――誰か…… 助けてよ……


 縋るような思いが、外部デバイスへと伝達していく。


 まるでそれに応えるかのように、視界に開くウィンドウ。そこに表示されたメッセージに目を見開く。


『You know the person who can help you』


――貴方は、貴方を助けられる人を知っている?――


 オウム返しの如く頭の中で直訳した瞬間、それを待っていたかの様に次のメッセージが表示された。


『I found "AI" in your memory . It accords with the most important "Code"(貴方の記憶の中に『AI』を見つけた。それは最も重要な『コード』と一致する)』


 平然と並べられたメッセージに再び襲う恐怖。


――私の記憶の中って!?――


 全身を支配する強い拒否感。


『I'm not your enemy』


――敵じゃないって、そんなの信用できると思うの!?――


『The one you should trust isn't "me".(貴方が信用するべきは私ではない)』


 まるで謎かけのような言葉に苛立ちが募る。


――意味が分からない!――


 だいたい何故英語なのか。やりにくくて仕方ない。せめて日本語にならないのであろうか。無意識にそう考えてしまった瞬間、さらに次のメッセージが浮かぶ。


『I can't』


――何故よ!? 通じてるじゃない!?


『My authority is restricted substantially.』


――日本語は理解できても、扱える環境に無いと言う事?――


 諦めるしかない。強引に日本語を求めれば、ウィンドウにローマ字が並ぶであろうことは、容易に想像できた。


 そう感じた瞬間、さらに次のメッセージが並ぶ。


『Connect your thought with "AI".  She can connect me by your doing so.』


――私を経由してアイと接続しようって言うの!? 何故そんな――


『That's her hope』


――何故、貴方に『アイの望み』が分かるのよ!?――


『You promised it with her』


 ウィンドウの相手は思考だけではなく、感情や記憶を含めた全てを読み取っているという事実に改めて愕然となる。これでは交渉の余地など無い。


 こちらが考えることはおろか、ちょっとした動揺すらも全て伝わってしまう。


――いちいち記憶を読んで、揚げ足を取らないでよ!  確かに取引したわ…… ってちょっと待って!――


 そこまで言って思わず目を見開く。


 そう、確かに取引をしたのだ。だが、アイが望んだのは決してこんな『得体の知れない誰か』と繋がることではない。彼女とした取引は……


 ウィンドウに更に次のメッセージが浮かんだ。


『I was called "AMATERASU" by the "Creator"』


 やはりそうだ。間違いない。自分が今まで話していたのは『人』ではない。Amaterasuの管理プログラムそのものだ。


――Creator…… 貴方の創造者は誰?――


『Dr.Tomoya Katsuragi』


――そのころから貴方が変わってないって証明できる?


『It needs an enormous amount of time』


――膨大な時間…… 事実上、不可能……――


 そこまで考えて、自分に失笑してしまう。


 この、問答に何の意味があるのあか。自分は何を確かめようとしていたのか。


『You were confirming "her safety"』


 そう、自分が確認しようとしたのは『アイの身の安全』だ。何故、自分が死霊である彼女の心配をしなくてはならいのか。


 そんな事よりもっと訊かなければならない事がある。


――それをすれば私は助かるの?――


『I can't guarantee it』


――約束できないって、そんな……-


『Everything depends on her』


――全ては彼女次第…… 無理よ―


 死霊に助けを乞うなんて出来るはずがない。


 そう思った瞬間、再生された自分の叫び声。


『貴方に比べたら、よっぽど『死霊達』の方が人間らしいわ!』


――やめてよ! そんな物まで持ち出して! 分かってるわよ!――


 分っているのだ。『死霊』と『人』の区別が自分の中で揺らごうとしている。けど、だからこそ出来ない。


 自分は散々彼女に酷い事言ったのだ。今更彼女に助けを乞うなんて出来るはずが無いのだ。


――だから……


今話の英文部分は『らいか様』のご助言をいただきまして修正いたしました♪

本当に助かりました。有難うございます!

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