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Chapter 76 アイ エクスガーデン周辺域

1



 サラの意識が自身から遠ざかっていくのを感じる。量子場干渉のために彼女との間に一方通行に自動構築された精神リンクが切れようとしているのだ。


 ただそれだけのはずなのに、自身の中から何かがごっそり欠落していくような強い拒否感を伴った感覚に襲われた。


 つい先ほどまで『真の意味』もしくは『異常とも言える感覚』で完全に理解していた彼女が成そうとしていたこと。それが簡単な概要を残して、それに伴うプロセスや彼女の持っていた知識が全てごっそり自分から抜け落ちる。


 それは自己の認識すら揺らぐような感覚だった。


 瞳を閉じ、自身の思いを届くはずのない思考伝達に乗せサラへと送る。


――有難う――


 彼女は自分にとって初めて、親友と呼べるような存在なのかもしれない。これほどまでに境遇が違うのに何故そうなったのかは分からない。ただ言えるのは彼女ほど自分の思いを素直に話せる者は響生を除けばいなかった。


 彼女は目的を成してくれるだろう。だからこそ自分も成すべきことを成さなければならない。


 『システムに頼り過ぎている』と美玲が指摘した。それを行う事の危険性についても、美玲だけではなく、ザイールにも指摘された。


 そんな事は解っている。たった一人がリンクから外れるだけで、これほどまでの喪失感を感じるのだ。


 けどこれしか出来ない。自分はただの葛城愛と同コードを持つだけで、経験も何も無い小娘に過ぎないのだから。


 だからこそやるべきことはシンプルだった。それしか出来ないのなら、それをやるだけだ。


 例え誰がそれを危険だと言っても。例えその先に何が待っていたしても。もし自分を失うような事態になったとしてもだ。


 自分にはそれしか出来ないのだから。


 『自分がいかに他人の築いた物、他人の能力を借りているだけの存在』なのか思い知ることで、今にも揺らいでしまいそうな自己を再認識する。


――それでも――


 それを選択したのは紛れもない自分自身だと言える。あの日、ディズィールのシステムに眠る存在と契約した日、自分が決めたのだ。何をしてでも自分の大切な全てを守り通すと。


 右手薬指でことさら温かい光を湛える指輪を静かに見つめる。


 その瞬間、胸を締め付けるような狂おしい程の思いが、自分の中に溢れだすのを感じた。


――響生…… 貴方を何処へ送り出すことになっても、必ず私が無事に連れ戻してみせる――


 唐突に視界の全てを覆うが如く、出現する敵の巨体。


――クッ! 早い!――


 ナイトメアのシステムを通じてリンクされた美玲の思考が頭の中に響く。


 目の前で起きた現象が、どれほど常識を逸脱しているのか、彼女と繋がっている今の自分には分かる。


 何故あの巨体であそこまで早く動けるのか。いったいどれほどの出力の動力を内包しているのか。


 視界上で蠢く敵機を示した無数のマーキング。さらに至る方向から集積光が雨の如く降り注ぐ。


 浮遊ユニットがせわしなく動き回り、致命的なダメージを及ぼすリスクが高い集積光から遮って行くと同時に反撃に転じ、敵の浮遊ユニットを撃墜する。


 敵の触手の先端の集積光の出力は恐らくネメシスのそれを超えている。更にナイトメアと同様、防御攻撃を半自動的に行うユニット群まで従えているのだ。


 この攻撃手段を持った浮遊ユニット群の存在が、異様な数の集積光を空間に散乱させる。


 この世で絶対的な最速を誇る光学兵器。躱すという意味では、どんなに思考レートを加速しようとも意味を成さない。輝きを視認もしくはセンサーが捉えると同時に命中している事を意味するのだから。


 躱すためには、エネルギー照射の兆候を捉え、撃たれる前に射線上から逃れる必要がある。


 だが、ディズィールとのリンクが途絶えている今、膨大な演算処理を必要とする多重未来予測によるリスク回避は不可能だ。つまりは全ての集積光をこの方法によって躱すのは絶望的だった。


 身体の至る所にピンポイントで焼かれるような鋭い痛みが走る。それはナイトメアのダメージセンサーを通し、美玲を経由して自分へと伝わった痛みだ。


 けれどそれは苦痛ではあっても我慢の限界を超えるようなものでは無かった。


 質量弾頭とは違い、集積光の命中自体が瞬時に致命的なダメージを意味する訳ではない。当たっていたとしても、こちらの装甲が溶融し始める前に逃れられれば良いのだ。


 幸いにして天候は猛吹雪であり、距離に対するエネルギー損失が著しい状況である。至近距離からの命中を避ければ、瞬間的に装甲が消失すると言う事はない。


 それでもネットワーク化された攻撃システムを備えた集積光は、執拗に装甲の一点を継続加熱するべく、空間の至る所から打ち込まれて来る。一つが途絶えても他のユニットが間髪いれずに引き継ぎ攻撃をしてくるのだ。


 敵の数が多すぎる。それでも、戦えているのは美玲のランナーとしての技量に他ならない。


 集積光の雨の中を、前方に集結した浮遊ユニット群を盾に突き抜け、大きく薙ぎ払われた高エネルギー粒子の刃が、すれ違いざまに敵を叩き切った。


 触手の大半が千切れ飛び、胴体を大きく抉られた敵機が血の色をした流体液を大量にばらまきながら、尚も空中に留まり続ける。


――あれで落ちないのか!?――


 美玲の愕然とした思考が頭に響き渡る。


 それをきっかけに、システムによって拡張された空間認識の中で、敵の動きが明らかに変わった。


 親機数機分の浮遊ユニット群が集まり、まるで何かを造形するかのように配置されていく。


 それに、言いようの無い胸騒ぎを感じた。


――あれは、まさか……――


 それはディズィールが主砲である超電磁加速粒子砲を放つ前動作としておこなうユニット配置に酷似しているのだ。


 まるで配置された浮遊ユニット群同士を繋ぐかのように迸る稲光。それが空間に舞う雪に乱反射し、空間そのものを青白く染め上げる。


 浮遊ユニット群によって構成された構造体内部に超流体化した高エネルギー粒子が悍ましい程の光をまき散らしながら蓄積されて行く。


 そして次の瞬間、迸った衝撃波。放たれた光が視界の全てを飲み込み、急速に広がった。


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