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Chapter 36 ヒロ

1



 戦闘によって舞い上がった多量の粉塵が、空間に存在する僅かな気流によって流されて行く。


 それが薄れるにつれ、徐々に浮かび上がる響生の異様な姿。装甲ジャケットだけではなく首から上の露出部までもが赤熱し、悍ましいまでの輝きを放っていた。


 その表面を脈打つように青いエネルギーラインの光が伝う様は、ヒトではない全く別の『生物』、もしくは『存在』を連想させる。


 赤熱した身体が光を失うにつれて、その異様な外観は薄れるどころか更に際立った。黒色に変化した装甲ジャケットと裏腹に、露出部が髪の一本に至るまで、その全てが金属で作られているかの如く、周辺の風景を映し込み始めたのだ。


 あまりに悍ましいその姿に思わず生唾を飲み込む。


 銀一色のそれが、染みが広がる様にして急激に色

を取り戻し始めた。


 響生がヒトとしての容姿を取り戻して尚、精神を掻き毟られるような強烈な拒否感が消えない。


 訪れた驚くほどの静寂。


 未だ無傷で行動が可能なはずの鉄鬼兵群ですらも、動きを止め、呆然と立ちつくしていた。


 その中で空間だけが劇的に変化して行く。ドーム状の空間に唐突に空が広がり、無機質なフロアーの床が装飾の施された石畳へと変わって行く。真っ赤な果実を宿した街路樹が出現し、多量のノイズを伴いながら、『そこには居なかったはずの人々』が出現し始めた。


「そうか…… 量子場干渉をしてた機体が、落ちたから…… けど……」


 不意に間近に聞こえた声に目を見開き、本能的にそちらを向く。そこにはサソリからヒトの姿を取り戻した飯島が在った。


 飯島の視線の先を追って気付く、どんなに拡張現実が復帰しても、無残になぎ倒されたテントや陳列してあった品々までは元にはもどらない事に。


 静寂が支配した空間が僅かに騒めき始める。そしてそれは直ぐに人々の歓声に変わった。


 名前も知らないであろう響生を称賛する声や、ベルイードへ向けた怒りをぶちまける声が其処かしこで湧き上がる。


 一際巨大なウィンドウの向こう側で、血走った目を見開き、身体を震わせていたベルイードが、拳をデスクへと叩き付けた。 


「何をしている! そんな人型の義体すら捕獲できないのか! 無能どもめ!」


 感情剥き出しのベルイードの声が響き渡る。それに反応して数機の鉄鬼兵が一斉に跳躍した。


 激しい帯電光をまき散らす鋭く尖った脚部が、空中で一斉に響生へと向けられる。そしてその先端が弾丸の如き勢いで射出された。


 それを僅かな動作で躱した響生。機体本体へと続くワイヤーを従えた先端が地面へと突き刺さる。


 激しい帯電光をまき散らすワイヤーの一つを躊躇なく掴んだ響生が、再び呪いを込めるかの如き咆哮を上げた。


 それに呼応するかの如くワイヤーを掴む響生の腕が膨れ上がる。次の瞬間、彼の数倍はある鉄鬼兵の巨体が振り回され始める。


 制御不能に落ちいった機体が轟音と共に他の機体を巻き込み地に叩き付けられる。


 自重を遥かに超える物体を地に叩き付けた反動で、弾き飛ばされたかのような勢いで宙に舞った響生の身体。


 その方向は狙っていたかの如く、壁面に突き刺さる自身の大剣へと向かう。


 宙刷り状態のムカデ型機に、真横から垂直に着地したかの如き姿勢で、大剣の柄を掴んだ響生が、一気にそれを引き抜いた。


 固定する物を失った巨体が激しい衝撃音と共に粉塵を巻き上げ地に沈む。


 遅れて着地した響生の手に握られた大剣が、再び高エネルギー粒子の反応光をまき散らし始めた。


 額にはち切れんばかり血管を浮かび上がらせ、更に指示を行おうとしたベルイード。それに被せるようにして飯島が口を開く。


「もう止めといた方が良いんじゃないの? 人型でも響生の義体は軍用なんだよ? しかも専用装備を含めると戦闘パフォーマンスはネメシスとほぼ同等。民間企業が生産した対人用警備兵なんかが相手に出来るわけがないじゃん」


 飯島の言葉に、小ばかにする様な笑みを口元に浮かべたベルイード。だがその目は笑っておらず、明らかに先のような余裕を失っている。


「ネメシスと同等だと? そんなフザケタことがあってたまるものか! 人型、しかもそのサイズの機体に、そんな出力が再現できる訳がない! 仮に出来た所で、そんなフザケタ装備を扱い切れるはずがない!」


 言葉の後半でベルイードが声を荒らげた。


 大剣を引き摺る様にして、ウィンドウの方へと歩き始めた響生。その進路上に居た鉄鬼兵が怯えた様に後ずさりをしながら道を開ける。


「扱い切れるはずがない…… か。けど、訓練用の仮想義体にネメシスと同等のパラメーターを仕込んんだのは、お前じゃ無かったか? ベルイード」

「何を言っている?」


 ベルイードの表情が目に見えて強張った。


「この装備に見覚えがあるだろう? ベルイード」

「私が知る訳ないだろう! ましてそんなフザケタ装備……」


 言葉の途中で、目を見開き口を開けたまま停止したベルイード。赤い光を放つ響生の瞳が強い憎悪を宿して細められる。


「思い出したか? そうだよな…… お前が忘れるはずが無い……


 時代錯誤も甚だしい巨大な大剣。お前はこれに異常な攻撃力パラメーターを仕込んだ。おかげでこいつは、自然界に存在しないほどの高密度物質となり、使用者の自重を遥かに超える物としてシミュレートされた。


 ハンドガンの有り得ない弾丸スピードパラメーターもそうだ。それに伴う異常な反動は撃った者が後方に吹っ飛ぶほどだった。


 質量に見合わない異様な耐久値が与えられた装甲ジャケットは未だに現実世界に再現すら出来ない。


 全ての装備に実用性の欠片もない。まして技術的に現実世界に産み落とせるかも怪しい。それ以前に俺等はゲリラ役だった。彼等はそのような武器を持ってはいない。


 けど、そんな事はお前にとってはどうでもよかったんだろう?


 全てはお前が、俺達を…… 『感染者』を『見せ物』として弄ぶためだけに作り上げた玩具だ。そうだろう? ベルイード」


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