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9話

よろしくお願いします

目覚めたら目の前に沙久羅が覗き込んでいるところだった。

「良かった。何とか掴んできたようね」

 沙久羅はそう言うと長く息を吐き出した。

 耀は近くのソファに寝かされていた。

覗き込んでいた沙久羅はあちらこちらに無数の傷を全身に受けていた。その切り口から出血しているところもあった。

「…何があったんだ?」

 耀は沙久羅と周囲の風景を見比べた。無数の切り傷を持った沙久羅。周囲も(かま)(いたち)にあったように自分がいたであろう所を中心にして切り刻まれていた。そこには沙久羅から流れ出たのだろうか血液の溜まりもあった。

「……俺が、やった、のか?」

 耀は呆然として周囲を見回した。

「不可抗力よ。気にすることではないわ。焦って開放したつけだと思えば良いの」

 沙久羅は耀の傍らに座ったままで答えた。

「でも、沙久羅のその傷…」

「大丈夫だって。どれもかすり傷だから」

 沙久羅は笑顔で答えたが、だんだん顔色が蒼褪めてきているのを耀は見逃さなかった。

「どこで大丈夫なんだよ。そんな顔して…」

「私のことは気にしなくて良いって」

 そう言うが消耗が激しかったのを隠しきれるものではなかった。現に立つことさえ今は全くできず、座り込んでいる。それにも限界が来ているのは沙久羅自身よくわかっていた。

「…でも、帰ってこられて良かった」

 沙久羅は安堵したような柔らかな笑顔でソファに座る耀を見上げた。

「あとは耀なら一人でもできるよ」

 沙久羅はそう言うと限界に来ていた意識を手放した。

「沙久羅!」

 耀は倒れる沙久羅の身体を焦って受け止めた。沙久羅を見やると静かな寝息が聞こえた。

「…お疲れ様」

 耀は聞こえない彼女に微笑を浮かべて言ったのだった。

 改めて部屋を見回して、溜息を吐いた。

「……これを片付けるのは時間かかりそうだな」

 今更、一人でやることもないだろうが明日、彰芳に来てもらうにしても、この状況を茶化されそうで嫌だった。

「沙久羅には明日帰ってもらうか」

 耀の腕の中で静かに眠る沙久羅を見て、一人呟くと抱き上げて寝室へ運んだ。

「こんなことなら泊まれるようにゲストルームつくっておくべきだったな」

 彰芳がたまに遊びに来るが泊まったことはなく、他に誰も来ないこともあり、必要性がなかったので自分のベッドしかない。

「傷を治してやらないと」

 耀は頬や腕に無数につけられた痛々しいその傷に触れた。

 傷は耀が触れただけで消えていく。

「大きな傷がなくてよかった」

 少しホッとして沙久羅の手を握った。沙久羅は握られた手を強く握り返し、そのまま耀を強く自分の方へ引いた。

「おっとっっ」

 焦って手を放そうとするが沙久羅の力は強く、なかなか離れてくれなかった。

「…や…ぃやぁぁ」

 夢を見ているのか手を放そうとすると更に強く握り、小さな子供のように何かを求めるように手を彷徨わせた。

「…明日、怒るなよ」

 仕方なく手を離すことをあきらめて耀は沙久羅の隣に寝ることに決めた。離されないと解ったのか、沙久羅は安心しきった顔で笑みまで浮かべて寝始めたのだった。

ありがとうございました。

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