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8話

よろしくお願いします

「もう少し」

 ぱたぱたとフローリングの床の上に雫が落ちた。沙久羅の右腕は無数の切り傷ができていた。落ちた雫の色は血液の赤。

 溢れだす能力の奔流は(かま)(いたち)のように周りを切り刻んだ。すぐ近くにいる沙久羅もその能力を避けることができずにいた。耀の潜在能力が高いことが沙久羅の能力を上回り、身体を傷つけることになってしまった。

「結希はこんなに強くなかったからな」

 一人で愚痴を言う。

 後悔しているのだろうか。自分よりも能力が高い人はたくさんいるとは思っていた。しかし、こんなに近くにいたとなると、少しジェラシーを感じてしまう。

「家族にも恵まれている耀が羨ましいよ」

 闇の力に少し引きこまれてしまいそうになる。

魔術や超能力は施行する者の感情に反応する。負の感情を強く引きだし、魔術や超能力を使う者もいる。しかし、負の感情だけでは爆発的な能力の発動はできても持続性がない。ましてやこれからの戦いにおいて一瞬の能力より持続する安定した能力が必要になる。

闇の能力は爆発的な負の感情に流されてしまいがちだが、使い方によっては強力な武器になる。耀は潜在的にそれを持っていたわけだが、いかんせん使い道がわかっていなかった。それを自覚すれば、強力な術師にも能力者にもなり得る。

「私まで闇に近くなってはいけないわね」

 もう一度強く精神を指先に集中した。今は耀の能力を限界まで引き出さなくてはならない。

「危険な賭けだよねぇ」

 滴り落ちる血を拭うこともできない状況だった。

 もし、いま気を抜いてしまったら、本当に危ないのは沙久羅自身だった。術が跳ね返ってくるだけでなく、耀の闇の能力をまともに受けてしまう。消耗しきっているこの状態で耀の能力をまともに食らってしまったらどうなってしまうのだろう。背筋が凍るような寒気を感じた。

「今は耀の能力に期待するしかないんだよね」

 溜息をついて一人、呟いた。



『お前は本当に良いのか』

 手を取ったその人は耀に話しかけてきた。

「良いのかって」

 何を言われているのか解らなかった。

暗闇の中、探していたら突然開けた場所にその人と一緒にいた。草原がどこまでも続いているような風景の中で二人はぽつんと立っていた。

 表情がなぜかうすぼんやりとしていて、輪郭をつかめなかった。しかし、いつかどこかで会ったような気がする。

『この力を手にすることの意味をお前は知っているのだろう?』

 その人は一体何を言おうとしているのかさっぱりわからない。

 応えなければならないような気がして、耀は頷いた。

『それでもなお、求めるのか?』

 繰り返し聞いてくる。

「俺は守るために能力を手に入れたい。どんなに恐ろしいと言われている能力でも制御できれば、使えるようになれば守る力に変えられると思う」

 耀は今までとは考えが変わったことを感じていた。少し前まで、疎ましく思っていたこの能力を今は心の底から必要としていた。姉を守りたい、仲間を守りたい。そして彼女を、能力を同じように一度は憎んでいたであろう魔術の使い手の彼女を守りたかった。

『良いのだな、耀?』

 頭に手を乗せられ、いつか置かれた手を思い出していた。そして目の前にいるのがだれかを理解した。

「はい」

 大きく頷いて耀はその人物を見上げた。その人は嬉しそうに口元を綻ばせた。

『成長したんだな、我が息子』

 耀の頭を少し乱暴に撫でる。

「だからもう、大丈夫です」

 耀はそう言って見上げた人物の手を強く握った。

『では返そう』

 その人は力強く言うと耀の手を一度強く握り返した。

『強くなったな。お前のこれからの成長を近くで見られないのが残念だ』

 悲しそうな表情をして、今まさに帰ろうとしている耀に言った。

「心配しないでください。父さん」

 耀は笑顔だったが、頬を一滴の涙が伝った。

『お前達のことをいつも見ているよ』

最後にはっきりと表情が見て取れた。懐かしい記憶のままの父。本来ならば姉の代わりに本家を取り仕切っていたはずだった。五年前、あの裏切りがなければ……

その表情は穏やかで、力強いものだった。帰っていく耀を見上げ、期待を込めた笑顔を向けていた。

「父さん、見ていてください」

 耀はそれしか言うことができなかった。

ありがとうございました。

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