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59話

よろしくお願いします

「正義の味方のセリフじゃないよな」

ぼそりと彰人が呟いた。

「まあ、私たちは慈善事業をしているわけではないし、正義の味方でもないもの。それにあいつはこの世界を、人たちを傷つけすぎた。美羅依じゃなくても怒るわよ」

美月が彰人にフォローを入れる。

「無駄に神々しいだけ、威圧感半端ないね」

ため息をついて桔梗が小声で言った。

「そこ、無駄口叩いてるとあいつに逃げられるからな」

祐亨がもっともなことを口にした。

「全部聞こえてるからな、お前ら」

柚耶が美羅依の横で光の剣を携えながらカグエリルを見下ろして威嚇しながらも怒りの表情で眼下にいる自分の仲間に告げた。

最後の最後まで緊張感のない奴らだとため息が零れる。美羅依も自分の発言に「言うんじゃなかった」と表情に一瞬出しながらも、能力の解放は進めていた。

「…仲がよろしいことで。お前たちのその甘さが俺のようなものを残してきたと知るべきだったな」

カグエリルは残る能力をすべて解放して、美月たちの攻撃をすべて跳ね返した。

「私たちも油断していたわけではないのよ」

美月たち全員がカグエリルの抵抗の間にできる隙をついて拘束をより強固にしていく。それに合わせて美羅依がカグエリルを光の帯で巻き込んだ。

「なっ、身動きが…」

カグエリルは今までにない拘束に抗えず、美羅依と柚耶を忌々しげに見上げた。

「選択を与えたわ。あなたはそれでも抗おうとした。審判は下され、この場での消滅を与える」

美羅依は必死に抵抗しようとしているカグエリルを蔑むような目で見下ろした。もう少しで良いから、反省や慈しみを覚えてくれていたら、きっと違う選択をさせてあげられたかもしれない。けれど、それは彼にとってのプライドを傷つける行為のような気がした。

「良いんだな、美羅依?」

柚耶が耳打ちした。

「お願い、彼を救う道はもう残されていないから」

美羅依の言葉に柚耶は一つ頷くだけで答え、光の剣を構え直し、カグエリルに一直線に降下した。カグエリルは抵抗することもできずに、光の刃に身を投じ、貫かれた。


これで、終われる。


自分の矜持に身を投じ、最後まで貫き通し、悪への道を進み続けるしかなかった魔の者は光の中で消え入る刹那に微笑を浮かべ、自分を断罪する者を見上げた。最後に残ったプライドを神の転生した姿の者は気づいていた。それだけは守ってくれた。どこまでも優しく、甘い者達なのだろう。そんなものに負けるのも悪い気がしない。

人と違い、長い時を生き過ぎる魔の者達はいつしかプライドだけが強くなり、妥協することさえできなくなっていた。魔王もその一人だろう。だが、彼の方は見つけてしまった。自分のプライドよりも守らなければならない者を。羨ましいと思っていた。だから、魔王に抵抗し、魔王の慈しむ者を壊したくなった。

だから、魔王を葬ろうとした。自分とは正反対の光ある未来を選んだのは闇を統べる者として許さざるべき行いだと感じたからだった。そんな彼の方に従うことなどできはしなかったのだ。

もし、自分にも守るべきものがあったのならば、もう少し違った先をみられていたのかもしれない。

カグエリルの全てを悟ったかのような最期の微笑が美羅依の目に焼き付いた。

永遠に近い時を生きなければならない魔の者達の苦悩の果ての終末は美羅依に言いしれない苦しさ、辛さを感じさせていた。

「…美羅依」

柚耶の言葉で美羅依は現実に引き戻された。

「…あ、だい…じょう…ぶ」

途切れ途切れにしか言葉が出てこない。呼吸までも止めてしまっていたようだ。

「引き摺られるな。お前はお前なんだからな。あいつにはなれないし、なる必要も、考えることもしなくて良い。お前まで魔に染まることはするな」

柚耶はそういうと美羅依を抱き寄せた。

「終わったんだ。魔界に行ったあいつらの事はまだ残っているけどな」

柚耶は美羅依の耳元で囁いた。

「…そうね。終わったんだね」

美羅依の表情はまだ暗いものだが、微かに見える光を柚耶は感じ取っていた。

ありがとうございました

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