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48話

よろしくお願いします

「何をしようというの?一人ではたいして能力を使うこともできないのでしょう?」

 カリスは勝利を確信していた。自分の周りにいるこの者達だけでも十分だが、自分が手を出すのだ。転生というものを繰り返しているというが、一昔前の能力を現在持っていることはまずあり得ないのだ。魔王様もそう言っていた。現在のこの女はかつての半分以下しか能力を扱うことができないのだと。

「…可哀そう。早く解放してあげるわね」

 美羅依はそう小さく呟く。カリスの言葉は聞いていない。聞く気もないのだ。60年前にされた屈辱を忘れたわけではない。魔王にもその配下にも同情する気は一欠片もなかった。

「聞きなさいよ!」

 怒りに任せてカリスが黒い塊を美羅依へ解き放った。

 美羅依は事もなげにその塊を差し向けていた右手で軽く払った。ただ煩いとでも言いたげにハエや蚊を払うように払ったのだった。

「そんな能力では私は倒せないわ」

 美羅依は構え直すと静かに短く言葉を紡ぐ。美羅依の両手には小さな風が今にも暴れたそうに渦を巻いていた。

「風の精霊たちはすごく怒っているわ。この世界が住みやすかったのに、あなた達のせいでいくつもの血が流れた。精霊たちは血を忌み嫌うものよ。あなた達と違ってね」

美羅依は最後には力強く答えた。

「もう、話は終わったのかしら」

カリスは聞く気もなかったかのように言った。

「そうね、話をしてもあなたの宿主には聞こえはしないのだったわね」

美羅依はため息をついた。

「此方から行かせてもらうわ」

カリスはそう言うと体を数センチ浮き上がらせ、一歩を踏み出すように右足を出した。そのまま美羅依のそばまで一瞬のうちに移動する。

美羅依はそのわずかな動きに反応して、手にしていた風の球を地面に叩きつけた。

「どこに目をつけている」

カリスは意地の悪い笑みを浮かべ、自分の拳が美羅依に当たると思っていた。

「別に」

美羅依は何もなかったように立ち上がる。カリスの拳は美羅依に掠りもしない。カリスの体が光の糸に拘束されていた。

「この糸が何でできているかは縛られている貴女ならわかるわよね」

美羅依は氷のように冷たい口調で見下ろした。

「わかるよ。我らの苦手な光の糸だろう?だが、そんなもの、私を縛るものにはならない」

カリスは言うと光の糸を引き千切った。

「ふぅん、将軍の称号は伊達ではなかったんだね。見縊(みくび)っちゃいけないわ」

美羅依はひとり呟くと風を纏うように両手を振るい、風を起こした。カリスは巻き込まれないように後ろに飛び退く。

「ひとつ教えておいてあげるわ。あなたの敗因はね、私がこの世界に転生をする前の神の能力(ちから)を今は持っているということなのよ」

美羅依はそういうと右手をカリスの方に向けて掲げた。

「はっ、そんなことあり得るはずが…」

カリスが馬鹿にしたような笑みを浮かべたときに今までにない強烈な光の刃が体中を突き刺したのを自覚した。

「かはっ」

口腔内に血液の鉄の味が広がり、自分が吐血したことを自覚する。

「あり得ないと思っているあなたの方が間違っているの。今まで何度この世界からあの魔王を退けたと思っているの?」

美羅依は冷たく言い放った。

「お前が…こんなに非情な奴、だとは…思わなかったよ」

カリスは自分の存在がこの世界から消えていくような感覚を覚えた。


ああ、消えるのだな。


自分は何のためにいたのだろう。

そう思うと自然と涙があふれた。

魔王の役に立つことを思い、これまで尽くしてきたというのに、愛しい魔王には見向きもされず、戦う日々。

六十年前、この者は魔王に気に入られ、慰み物になった。自分はそれにもなれなかったというのに……。


「私たちは所詮相容れないのよ。この世界もあなた達の世界も交わることがないように、私たちは分かり合えることはない」

美羅依はカリスの傍に立ち、そういうと光の錫杖をカリスに突き刺した。

「今度生まれ変われるのなら、私は貴女ともっと話し合いたいわ。こんな形ではなく、友として」

美羅依の頬を幾筋も雫が流れる。

これまで多くの犠牲を払ってきた。だが、もう戻ることはない。この世界はやり直しのきかないところ。せめて、次の世に希望を持つくらいは許されてもいいと思う。

「私は、お前とは…きっと、友にはなれない……な」

苦笑するカリスはそう言い残して、光の中に消えて行った。

ありがとうございました。

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