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42話

よろしくお願いします

「では、まず先にご飯にしちゃいましょう?結構いい時間だものね」

 そう言って女性陣は立ちあがった。

 美月が焦ったように寮の門限~っ。と叫んでいるのがキッチンの方から聞こえてきたのはその場にいた全員が苦笑して顔を見合わせた後、聞かなかったことにした。

「お前達、巻き込まれちまったな」

 祐亨が耀の頭に手を置いて苦笑して言った。

「巻き込まれたわけではないですよ。先輩達とは目的が違います。俺は俺を助けてくれた奴を取り戻したいだけですから」

 耀は真っすぐに祐亨を見上げた。迷いのない、自分の行く道を決めた者の瞳だった。

「…良い瞳(め)だ。沙久羅を取り戻しても迷うなよ」

 祐亨はそう言うと柚耶の方に行ってしまった。

 この七家の当主達の中にいると自分はなんて子供なのだろうと思う。片や数え切れないほどの時間を転生という手段を使ってこの世に留まっている人たち。自分はたかだか十数年の時間しか経っていない。

自分の姉、祐希もその一人。いつも遠い存在だった。姉とは言っても他人のような感覚もあった。決定づけたのは五年前の分家の襲撃事件の時だった。それまでは姉とも普通に接する事も出来ていたし、楽しく過ごしていたと思う。

しかしあの時は全く違っていた。本家ではすべての者が姉一人を守っていた。姉はそんな家の者を守ろうと必死になっていた。その凄まじくも哀しい能力は弟である自分にまで及び、眠っていた能力を開放させた。

分家の襲撃に関わった者達はすべて二人の前に屍を曝した。

そのあとの事は、自分は良く覚えていない。両親は二人の子供達を残してこの世を去り、姉は当主として一族を率いて行くようになった。それからたった二人の姉弟であっても他人のように疎遠になってしまった。本当は姉を支えるべきであったのに、できなかった。怖かった。自分の能力が人を傷つけてしまうのではないかと。姉も両親のようになってしまわないか、自分がそうしてしまうのではないかと不安だった。

だから、使わなかった。いや、使えなかった。

それを使うきっかけをくれたのが沙久羅だった。

姉の命令に従い、仕方なく転校した。普通の学校なら能力を使う事はない。だが、姉の居る学園に行くと言う事は能力を使うことが前提になる。それを恐れて、普通学校に行っていたと言うのに。

 だが、彼女は自分と同じに自分の能力を恐れていた。なるべくなら使わないようにしていた。しかし、その能力の高さによってコントロールができていないのも事実だが、それ以上に別の能力を見つけ、自分の強みにしていた。それから気になって仕方ない存在になっていった。

「…沙久羅」

 もうこんなにも自分の心の中に入り込んでしまっている彼女を失う事は自分の半身を失ったも同然だった。

 今、彼女はどうしているだろうか。安全といっても囚われの身だ。無茶をしていなければ良いが……。

 そう思って、遠くを見ているうちに彼女が黙って囚われていないだろう事を思い出した。今頃、トレーニングをしながら抜け出す算段でもしているのではないだろうか。

 沙久羅ならありえると言うか、やっていそうで怖い。

 違う意味で少し焦ってしまう自分が可笑しくて笑えた。

「沙久羅、君の事を考えるだけで俺は笑えるようになったよ。だから、無茶はしないで待っていてくれよ」

 窓から覗く、抜けるような青空を見上げて、耀は小さく囁いた。



 魔王に見捨てられた。

 どうして自分ばかりがこんな目に合わなければならないのか。


 物心ついた時から魔王に忠誠を誓ってきた。自分には魔王だけ。だから人間を殺めることなどなんとも思ってこなかった。人など虫けら同然。

 その虫けらが自分の愛する人に近づくのは許せなかった。ただ玩具にされているうちは良かった。いつからだろうか、魔王が人に興味を引き始めたのは……。

 五十年前の人の中でも魔王に盾突く者どもが仲間割れをした時に魔王は一人の女を連れて来た。最初は玩具にしていた。だが、それに興味を引き始めていたのを自分は知っていた。危険だと思った。魔王が人に興味を引いてしまえば自分に更に向いてくれなくなってしまう。恐怖が背中を押す。

 女は上手く魔王が本格的に興味を示す前に逃げ出し、自分から人柱となった。だが、今は違う女が魔王の近くにいる。それには本当に興味だけではない自分にも解らない感情を抱いているように見えた。

 魔王が気づかなければ良いと思っていた。だが、気づき始めていた。だから、あの忌まわしい小娘を殺そうとしたのだ。

「あの、忌々しい小娘め」

 苦虫を噛み殺すように表情を曇らせて女将軍は奥歯を強く噛みしめた。

「この状況に私も些(いささ)か焦っていたようです」

 一時は魔王の腹心として名を馳せたこの将軍はカグエリル。今は人の中に巣食い、人の世界で隙を窺う者となっていた。

「カグエリル将軍、何か策は見つかったのか」

 カリスは特に興味もないように聞いた。どうせ、碌な話ではないのだろうと思っていた。

「なに、簡単な事ですよ。この世界にいる人柱を殺せばいいんです。七家といわれる梛を持つ者達をすべて殺せば、道は開ける。いや、あの神の力を特に強く持つあの二人を殺せばあるいは道はすぐに開けるかもしれませんよ」

 楽しそうにカグエリルは言った。魔界に帰るにはそれ相応の戦果を出せば良いのだ。そして、道を塞いでいる人柱の能力を弱めれば良い。

 魔王の息の根を止めるためにも。

 カグエリルの野望を知らないカリスはただその考えに乗ってきた。

「楽しそうな話ね」

 双方の思惑を乗せて、計画は進行していった。

ありがとうございました。

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