40話
よろしくお願いします
沙久羅が連れてこられて一週間があっという間に過ぎてしまった。
「今日も特に進展なしね」
沙久羅は暗い闇の空を見上げて言った。
『そう言う割には落ち着いているわね』
美菜は感心したように言った。
「慣れてくるとそんなに不自由ないしね。私的にはまだ思うように足が動かないからここでの生活はリハビリになるし」
沙久羅はこちらに来てから歩く練習を毎日行っていた。能力が思うように使えない分、自分の体力をつける訓練もできたし、やることが少ないから集中することが大いにできた。
『沙久羅は本当に頑張っているものね』
美菜が苦笑して言った。自分はやろうとも思っていなかった。ただ、されるがままの生活。どうする事も出来ない無力感だけで毎日を送っていた。沙久羅は違う。悲嘆するのはすぐにやめて今できる事を判断しておこなえている。
その行動力には嫉妬すら覚える。
「美菜。美菜はそのままで良いんだよ。今の美菜があの人を支えている事を忘れちゃいけないわ」
沙久羅はにこやかに言う。
数回しかあった事はないが、言われていたよりも人らしい性格の持ち主だという事が解ってきた。
「美菜様、沙久羅様。お食事をお持ちいたしました」
深々と頭を下げて美菜のメイドが入ってきた。
「いつもありがとう、ラティアさん」
汗をぬぐいながら礼を言った。
「まぁ、沙久羅様、またそんなに汗をかかれて、お食事の後は入浴ですわね」
近くに置いてあったタオルを急いで沙久羅に掛けると、まだ拭きとられていなかった汗を綺麗に拭き取った。
「…ごめんなさい」
あははは、と笑って沙久羅は謝った。
「もう慣れましたから、大丈夫です。美菜様もよろしいですか?」
ラティアに促され、美菜は大きく頷いた。
「では、お食事にしてしまいましょう」
ラティアはそう言うと運んできた食事を並べ始めたのだった。
沙久羅が連れ去られて一週間があっという間に過ぎてしまった。
「…あれから、一週間か…」
桜華会と不空会が夜を徹して動いていた。一週間前、沙久羅を異世界に連れ去られただけでなく、多くの犠牲者が出てしまった。
「公園での事は爆発事故として処理させてもらったよ」
不空会の会長である彰人がそこに集まった人々に言い放った。
「情報処理は彰人君にお願いするしかないからね」
犠牲者があまりにも多く出てしまった今回の事件は公にならざるを得なかった。
「まさか、魔族に操られていた者がいたなんて…」
事実を知って、少なからずその場にいた者達は動揺を隠せなかった。
「でも、今までの奴のやり方ではないような気がする」
ずっと考え込んでいた柚耶が口を開いた。
「どういう事?」
祐希が不思議そうに聞いた。
「私も柚耶の意見に同感なの。私達の知っている魔王のやり方は直接私達を攻撃してくるものだったわ。たぶん、そのやり方だと沙久羅ちゃんが攫われたのは紛れもなく魔王のやり方だと思う。けれど、公園の事件は違う気がする」
美羅依が思い至ったように告げた。
「魔族に派閥が存在するって事?」
美月が解らないと言いながら聞くように言った。
「たぶん、そうだと思う。それに、魔王が私達の知っている魔王ではなくなっているかもしれない。そんな気がするの」
美羅依が考え込むように俯いて言った。
前世での事を忘れているわけではない。だが、あの時に感じた魔王の波長と最近感じていた魔王の波長が少し違っている気がした。
「美羅依が感じているものを俺も感じた。そこに俺達が潜り込める隙を見つけられるかもしれない」
柚耶が確信に似た表情で言った。
「お前達はいつも掛けに出るんだな」
呆れたように桔梗が言った。どうせ止めても無駄だと解っているような表情で笑っていた。
「解っていますね、桔梗先生?」
美羅依が笑顔で桔梗を見上げた。
絶対確信犯だ。
その場にいる誰もが思わずにはいられない晴れやかな笑顔だった。
「付き合うよ。一体足掛け何千年の付き合いだと思ってるんだよ」
祐亨も呆れた様子で見守っていたが承諾した。
「それもそうよね。私達が掛けに出なかった時があったかしら」
笑顔で祐希も承諾していた。
「皆、性格知りつくしちゃっているから、反対意見なんて出やしないね」
諦めたように言うのは美月だった。
「俺は美月が良いと言うならそれに従うだけだし」
彰人も意見はないようだった。
「…皆、それで良いの?」
「言っただろ?俺達がどれだけの時代を生きてきたと思うんだよ。お前達の性格も、この後如何していくかさえも手に取るようにわかるって」
呆れたように祐亨に言われ、美羅依は他に言う言葉がなかった。
「魔王にコンタクト取るのは美羅依の役割で良いか?」
確認するように柚耶が言った。
「柚耶がそう言うなら何も言わないよ。確かに適任であるしな」
祐亨が頷いて同意した。
「じゃあ、決まったことだし、耀君も呼ぶことにしましょうか」
美月が思い出したように言った。
ありがとうございました。




