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4話

よろしくお願いします

「…落ち着いた?」

 沙久羅は無言で頷いた。

「実は明日からでも召集がかかるかもしれないんだ。今の事件が結構梃子摺(てこず)ってるらしくて、クラス委員は桜華会として動かなくてはならなくなりそうなんだ」

 頬を掻きながら、沙久羅とは瞳を合わさないようにして言った。

「耀、で良いよね。そんなことになってたんだ。大変だねぇ」

 沙久羅は表情は笑っていたが、瞳は笑っていなかった。

「沙久羅さん、本当に怖いよ」

「コンビネーション練習もないままにやるしかないってことじゃない。本当にどうしようとしてたんだか…今日から特訓組まなきゃ。結希たち、帰っちゃったかな、少しでもアドバイス貰わなきゃ」

 沙久羅は怒りながらも携帯を出したり、今後のことについていろいろ思案しているようだった。それをみて、耀はほっとした気持ちと、沙久羅の態度の変わりように驚いたのと混ざった複雑な表情で見守っていた。

「そんなところで苦笑いしてないで、考えてよ。学年トップの実力者なんでしょ」

 耀に怒りながらも沙久羅は楽しそうにしてその日は過ごした。



 その日の夜。結希は沙久羅の住んでいる寮の部屋にいた。

「そう、全部話してくれたんだね」

 結希は沙久羅の話を聞いて、嬉しそうに言った。

「実習は特に練習なんて必要もないくらいのものがほとんどだったから、耀とは特に何もしてこなかったんだよね。だから、結希に色々聞きたいのよ」

 沙久羅は溜息交じりに言った。

「わっ、呼び方変わってるし」

 結希は変わりようにも驚いていたが、呼び方まで変わっていることに更に驚いていた。

「あぁ、変な所に気づかないでよ。で、どんなことするのよ」

 沙久羅は顔を赤らめながらも重要なことは聞き逃さないようにしようとしていた。

「私たちは主に探査を行うの。そのうちにたまに本命に当たっちゃうこともあって、その時には戦闘になることもあるんだよ。でも、危ないことは少ないかな。本当に危険なのは桜華会ともいわれる生徒会役員の人たち。彼らはかなり危険なことをしているから」

 結希は知っていることを話した。

「危険なこと?」

「そう、桜華会は事件の探索だけじゃなくて解決もするの。もちろん、実戦は避けて通れないよ」

 結希は今まで経験してきたことを思い出しながら言った。

「そうなんだ。来年は私も3年だし、きっと声がかかるかもね」

 沙久羅は生徒会役員のメンバーを思い出しながら言った。

「そう言えば、生徒会の宮梛様たちって、もしかして…」

「そう、だよ。あの人たちは本当に別格。今はあの人たちがこの学園を動かしているっていっても過言じゃないわ。実質、高等部が学園を裏で動かしているんだもの」

 少し眩暈がした。まさか、そんなことになっているなんて、知らなかった。学園は理事などの大人達が動かしているものだと思っていた。確かに表向きは理事が動かしている。子供である高等部の学生が学園そのものを動かしているって…。

「この学園は創立以来、高等部が動かしているんだよ。時間の融通のきく高等部の学生が適任だからっていうことらしいわ。詳しい歴史は知らないけどね。クラス委員総会に今度から沙久羅も出ることになるでしょ?その時に少しは解ることもあるよ」

 結希はそういうと、時間だからと帰って行った。

「耀は、そのこと知ってたんだよね」

 沙久羅は一人呟いた。



「へえ、全部話したんだ」

 耀の家に彰芳が押し掛けてきていた。

「彰芳、なんでお前が俺のお茶飲んでんだよ」

 彰芳は学園都市でもかなり豪勢な作りになっている耀のマンションに時々遊びに来ていた。

「良いじゃないか、どうせもう一つ淹れるんだからさ」

 耀のお茶を飲みながら、彰芳は笑顔で言った。

「俺のカップで飲むなってことだよ。それより、彼女の受け入れの早さには驚いたよ。居場所を守りたいって言ってたけど、きっと結希さんのことを守りたいんだと思ったよ」

「結希は実戦向きじゃないからな。どちらかというと後方支援型。今まで大きなけがをしなかったのが不思議なくらいだよ」

 彰芳はカップを置いて、真剣な表情をしていた。

「ひとえに、お前のフォローのおかげかな」

 耀はもう一つのカップをテーブルに置きながら彰芳のほうを見て言った。

「それ以上に配置が良かったからだと思うよ。本当に実戦になったことが殆どない。桜華会には礼を言いたいくらいだよ」

 彰芳は苦笑して答えた。

「高等部の桜華会か。姉さんも所属してるやつだよな。梛は例外なく呼ばれるから」

 耀は溜息をついた。あまり姉が乗り気のないことを話していたのを思い出していた。

「藤家は闇系の精霊魔術を使うんだよな。耀も例外なく使えるんだろ」

「まぁね。でも、あまり良いものじゃないよ。闇は一つ間違えればあちら側の能力だから」

 耀は彰芳に応えながら、忌まわしい自分の能力に舌打ちした。

「いっそ、その高い能力を黒魔術か白魔術に応用してはどうだろう。闇の精霊魔術は応用がきくんだよな。お前には良い先生がついたことだし」

 彰芳はチラリと耀を覗くように見た。

「良い、先生?」

「そうだよ。黒魔術も白魔術にも精通してて、更に魔法陣なしでかなり実戦向きの彼女だよ」

 耀から視線をそらして、答えた。

「彼女が俺に教えてくれると思うか?」

 噴き出さんばかりにカップを置いて、あり得ないと否定した。

「結希の話じゃ、教え方も一流だって言ってたよ。あれだけ魔術には不向きな結希に上位魔法を教えられるやつってそうそういないと俺はおもうけど」

「…おまえ、それを言いに今日は来たんだな」

 耀は何に思い至ったのか、彰芳を睨んで言った。

「…お前のためでもあるんだよ、耀。お前たちはかなり実戦向きな組み合わせだ。能力値も桁違いだしな。お前たちは来年にでも桜華会に呼ばれるよ、間違いなく。前線に組み込まれるなら、できることは多いほうがいい。彼女は使える、いや、彼女が数年後にはこの学園を動かす存在になる。その時にお前が傍にいなければならないだろ?」

彰芳は手にしたカップを置いて、真剣な面持ちで話した。

「……それは、思わないこともなかったよ。だがな、彼女一人でもやっていけるとは思っているんだ。俺が転入しなければお前が桜華会に引っ張っていただろ?桜華会は彼女を欲しがっていたしな。姉が言ってたよ。一般人であそこまで能力値が高い子は見たことがないって」

 カップに瞳を落として、耀は答えた。

「そうだよ。彼女はあくまで一般人だった。だからこそ、桜華会も迷っていたんじゃないか。俺も藤家の分家だし、結希も(わたり)家の分家だ。今までにいなかったわけでもないが、一般人を巻き込むようなことを桜華会だってしたいわけじゃない。しかし、彼女は強すぎるんだ。誰かが制御してあげないと大変なことになるのは目に見えている」

「だからこそ、俺が呼ばれたわけだけどな」

 耀は姉の命令を受けて、学園に転入した。あまり乗り気でもなかったが、梛の命令は絶対。従わなければならない。

「一般人にまぎれて生活することをずっとしてきたから、俺はそれほど違和感はないけれど、彼女は本当に異質だったよ。姉達、梛の方達を見ているような感覚だった」

 初めて見たときの沙久羅の感想を言った。

「さすがに梛様の弟、能力は高いね。沙久羅さんの能力の高さを見極められる人はそういなかったのにな」

「お前が言うな。俺はそれほど能力が高かったわけじゃないんだ。俺のこの能力は梛である姉に引き出されたんだ。姉はそのままでも良かったが、そうはいかなくなったと言われてね」

 忌々しいものを押しつけられたような表情で耀は言った。

「まだ、根に持ってるのか?それ、本当に言葉のまんまだからな。お前は能力がなかったわけじゃない。元は分家の生まれであるお前は一族の中でも特に強すぎたんだよ。梛様が先に生まれていなかったら、お前が梛に選ばれていただろうと言われるくらいにな。だから梛様が押さえていたんだ。あの事がなければ、梛様はそのままにするつもりだったらしい。知らなかっただろ?」

 彰芳は今だから言うけれど、と前置きして話した。

「…姉さんがそんなことを?」

 耀は驚きを隠さずに聞いた。

「本当だって。梛様が言ってたよ、お前には普通の生活をさせたかったって。でも、あの事件がそうはさせてはくれなかった。まさか分家が梛様やお前達を…」

「それは、もう」

 耀は彰芳の言葉を遮った。

「ごめん。お前は思い出したくないよな」

 彰芳はカップのお茶を飲み干して謝った。

「まあ、姉は無事だったんだし。良かったってことで」

 耀はそう言うと、彰芳のカップに新しいお茶を追加してやった。彰芳はそれ以上はそのことには触れることなく、世間話をしていた。

ありがとうございました。

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