表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/61

38話

よろしくお願いします

 沙久羅は先に目覚めていた。随分、能力を消耗してしまっていた。

「少し、やばいかな」

 まだ眠り続けている目の前の耀を見下ろした。もう、限界かもしれない。指先の感覚が少しずつなくなっていく。

 耀の温かさを忘れたくなくて、そっと触れた。徐々に失われていく感覚に恐怖しながらも、彼を失わなくて良かったと笑みがこぼれる。

「私が囚われても、助けに来てね」

 ふわりと笑う沙久羅の表情は穏やかだった。

『では、参ろうか』

 沙久羅の耳元で囁く声に沙久羅自身は抗うこともできずにいた。声の主は高らかに笑い声を上げた。それに呼応するように黒い幕のようなものが沙久羅を隠すように包み込もうとした。

「沙久羅!」

 目覚めた耀が沙久羅を黒い幕から引き剥がそうと手を掛けた。

「……あ、きら」

 沙久羅が重い瞼をゆっくりと持ちあげた。手を耀の方に伸ばすが届かなかった。

「耀、ごめん」

 沙久羅は一筋の涙を流した。本当は離れたくない。でも、抗う力がないことは自分自身が良く分かっていた。

「待ってる、から」

 それしか言えなかった。

「沙久羅、必ず迎えに行くから」

 耀の言葉に沙久羅は大きく頷いた。

 それを待っていたかのように黒い幕は沙久羅を包み込み、そして、跡形もなく消えたのだった。

「沙久羅」

 離れて行く手を掴んでやることもできなかった。

『…主』

 両手を強く握り締めた耀を気遣うようにイヴァーレが呟くように呼びかけた。

「大丈夫だよ。すぐに彼女を取り戻す。あいつらに渡してやるものか」

 耀はそう言うと立ち上がり、携帯を取り出した。



「やっと手に入れられましたな」

 リスキートがにこやかに傍にいる人物に言った。

「あの時に手に入れていてもこれほどまでにはならなかっただろうよ。良く成長したものだ」

 宝石を愛でるかのように言うその人物は魔王その人である。

「魔王様。この者をいかがなさるおつもりで?」

 リスキートは沙久羅を指して聞いた。

「まずは再会させてやらねばなるまい?私のおもちゃにするのはそのあとでもできる」

 深く眠る沙久羅は目覚める気配さえなかった。

 魔王は自ら沙久羅を抱き上げ、扉に向かった。

 リスキートも後を追う。

「このことはカリスとカグエリルにはくれぐれも気づかれるな」

 リスキートはその言葉に深々と頭を下げた。



 居城に帰りつくとすぐに魔王は美菜のいる部屋に向かった。

「戻った」

 短くそう言うと美菜の前に沙久羅を寝かせた。まだ目覚めない沙久羅は幾分蒼褪(あおざ)めていた。

 沙久羅の姿を見てさすがの美菜も声を出すことも忘れた。

「そなたのかつての親友だ」

 美菜は沙久羅の身体に震える手で触れた。

「そう、この者は死んではいない。この姿のまま連れてきた。私が与えた魔力がこの世界でも生きられるようにしてくれている」

 美菜が気づいたように魔王を見上げた。魔王は誇らしげに美菜に言って聞かせた。

「しばらくはそなたに預けよう。そう思って連れてきた。もうすぐ目覚めるだろう」

 美菜は魔王の言葉にホッとしたように胸を撫でおろし、沙久羅の髪にそっと触れた。

「このことはカリス達には気付かれるなよ。あ奴等はこの娘を殺そうとしている。もちろん、お前の事もだが…まあ、しばらくはこの世界には寄っては来まい」

 魔王はそう言うと部屋を出て行った。

『沙久羅』

 美菜は魔王が出て行ったのを見計らって呼びかけた。

「……」

 うっすらと瞼を上げた沙久羅は見たこともないような部屋に驚いて飛び起きた。

「…うっ」

 衝撃で頭に強い痛みが走る。頭を抱えているとその手に優しく触れてくる人がいた。

「…あ、なたは?…」

 見覚えのある顔立ち、忘れることなんてできなかったあの時の出来事が脳裏を掠める。

「美菜、なの?」

 頭の痛みも忘れて、沙久羅は美菜の手を取った。

「…うう」

 声にならない声を出して、美菜は頷いた。

「美菜なんだね?本当に……」

 沙久羅はこの場所の事を思うより先に美菜が目の前にいることに感激していた。死んだと思っていた少女が今目の前にいる。

『沙久羅、落ち着いて』

 直接頭に響く声は覚えているままの声だった。

「美菜?」

 それにはとても驚いた。どうして声を出さない?

『私は言葉を話せないの』

 美菜は苦笑して沙久羅に語りかけた。

「そんな」

 沙久羅は愕然として美菜の手を握った。

『ここが何処か、沙久羅には解る?』

 美菜の問いかけに気を失う前の事が思い出された。手を伸ばしても届かなかった。迎えに行くと言ったあの言葉を思い出して、笑みが零れた。

「…私、とうとう捕まっちゃったんだね」

 美菜を見つめて答えを出した。美菜はあの時本当に死んだのだ。生きているはずはない。こうしているのは魔王の力なのだと実感した。

『やっぱり沙久羅だね。すぐに受け入れられるのも沙久羅の良い所だよ。でも、本当はここに来て欲しくなかった。沙久羅には向こうの世界で幸せになって欲しかったから、私は魔王様にお願いしていたのだけれど、連れて来てしまったのね。ごめんね、沙久羅』

 美菜は瞳にいっぱいの涙を溜めて沙久羅に謝った。

「美菜は何も悪くないよ。悪いのは私。抗う力さえもなくしてしまったのだから、仕方ないわ」

 苦笑して言う沙久羅は後悔なんてしていないようだった。

『沙久羅、変わったね。私と一緒にいた時はすべてが敵のように思っているような人だったのに、今は違うみたいだね』

 美菜は寂しそうな瞳を向けた。

「美菜も変わったよ。姿はあの時のままだけど、雰囲気が全く違う。あのときは本当に切れてしまいそうな糸のような感じだったけれど、今は違うもの。私達は心が少し成長したって事なのかな?」

 沙久羅はにこやかに言って見せた。

『だったら良いね。…沙久羅、しばらくはここで過ごしてもらうことになるわ。でも必ず、元の世界に戻してあげる。それまで待っていて』

 美菜は沙久羅の手を取って真剣な眼差しで言った。

「…解った。美菜の言うことに従うよ。でも、無理はしないで。二度もあなたを失うことはしたくないの」

 沙久羅は美菜の手を強く握り返した。

『私も二度も死ぬようなことはしたくないわ』

 美菜は笑って大丈夫と言った。

 そんな美菜をみて少しの不安を抱えながらも沙久羅は笑って頷くことしかできなかった。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ