26話
よろしくお願いします
魔法科の授業は特殊だった。一年生、三年生は午前中、二年生は午後に特殊なプログラムが組まれている。
二年生の沙久羅達は午後になると学園を出て、地下訓練場に集まる。そこで様々な訓練を行う。もちろんパートナーが居る者はパートナー同士で組んでの練習もある。
文系の者は学園に残り、特殊科目の授業、体育系の者は校庭や学園内の施設での得意科目のトレーニングに充てられていた。
「沙久羅、今日はどうするの?」
結希が聞いてくる。最近は色々とあって授業自体を休んでいることが多かった。
「どうするって言っても今日は訓練の日でしょ。地下行くよ」
当たり前のように言った。
「休んでいることが多かったから、聞いちゃった。今日は実習訓練だって。私達は魔法陣組んでの実習。耀君は精霊魔術の実習をするらしいよ」
どこから仕入れたのか、結希がにこやかに言った。
「相変わらず、情報は早いね」
二人の会話に割って入ったのは耀だった。
「情報収集は任せてね」
結希はにこやかにそう答えると、彰芳が待っているからと沙久羅に手を振って出て行った。
「そろそろ行かないと間に合わなくなっちゃうね。私達も行こう?」
沙久羅は立ちあがって耀の手を引いた。
「…そうだな」
耀は沙久羅に手を引かれて、地下訓練場に共に向かったのだった。
地下訓練場は魔術の教師、精霊魔術の教師など数人が待っていた。
「今日の訓練は実習訓練だ。得意なものを選択して実習するように」
桔梗がそう言うといくつかにわかれて実習が始まった。
桔梗が担当するのはもちろん精霊魔術。耀以外の生徒はあと二人。二人共に可愛らしい小さな精霊を呼び出すことには成功しているものの、それ以上には至っていなかった。
「耀、自分の精霊を出してみろ」
言われるままに耀はイヴァーレを呼び出した。
「本当に綺麗だね」
仲間の一人が溜息と共に呟いた。いつかはこんな精霊を呼び出してみたいという。
「耀、今までできたのはなんだ?」
桔梗に問われ、いくつか思い出しながら実践した。
「だいぶ使えるようになってきたじゃないか」
桔梗に褒められる頃には少し息が上がっていた。
「…これで良いですか?」
桔梗に頷かれ、ようやくイヴァーレを開放した。
やっと耀はほっと胸を撫で下ろした。やはり緊張する。
「見てもらった通り精霊を使役するというのは……」
桔梗の説明が始まり、他の二人はそちらに集中する。耀はそれを聴きながら少し離れたところにいる沙久羅を見ていた。
沙久羅達は思い思いの魔法陣を形成する。
「唯衣、別に書かなくても良いぞ」
沙久羅の方をみて、教師が言った。
「…はい」
皆が書いている魔法陣を横目に沙久羅は水晶を片手にカチカチと鳴らした。
「まずはじめに邑久、得意な術をやってみろ」
教師に言われ、魔術専攻の生徒が詠唱を始める。詠唱はスムーズに行われ、炎が形成される。
「だいぶうまくできるようになったな」
教師に言われ、少年は少し照れたように頭を掻いた。
「次、山路」
呼ばれて、彰芳は光の矢を放った。
「良く訓練しているようだな」
「まあ、ぼちぼち」
はははっと笑って返す。
「今日はこっちにいるんだな、美路城。お前は白魔術がメインだったな。始めてみろ」
「はい」
教師に指名されて、結希が立ちあがると白魔術の上位魔術を披露した。
「ほほう、良く訓練しているな。体力も以前よりだいぶ付いているようだしな。この調子で頑張ってみろ」
教師は感心したように言い、結希は元気に返事を返した。
「では次……」
次々と生徒達は呼ばれ自分の術を披露した。
「最後に唯衣、今日は光の上位魔術を頼んで良いか?」
「はい」
沙久羅は言われたとおりに水晶を一つ取りだして自分の目の前に掲げると横に一閃した。
光は強く、大きな塊となって中空に浮いて停止した。
「光というのは……」
教師が解説に入り、沙久羅は光を維持した。そのうち、話しが終わると、光のかけらが散る様に消した。
「沙久羅の魔術はいつも凄いよね」
感心したように結希が言った。
「…そんなに凄いものじゃないって。精霊魔術にはやっぱり敵わないところもあるしね」
沙久羅がそう言うとそれを聴いていた教師が二コリと笑った。
「良く知ってるな、唯衣」
この教師は時々脱線することがあり、話しは面白いのだが授業が長くなることに不評もあった。
今日もその言葉で長くなることを悟った生徒達は小さく溜息を漏らした。
沙久羅もそれがわかり皆に教師に解らないように謝った。今まではそれで皆は教師の話に向いてしまっていたが今日は違っていた。
「気にしない。あの先生は話し好きだからね」
隣にいた生徒が沙久羅の背を軽く叩いて言った。
「あとで魔術のコツを教えてくれよ。俺、小さい炎しか出せなくてさ」
後ろにいた男子生徒も話しかけてきた。
「…あ、うん」
驚きながら沙久羅は頷いた。
「沙久羅、驚くことないよ。沙久羅に話しかけたがってたんだよ。ただ、いつも辛そうな沙久羅をみてて、声掛けられなかったんだって」
結希が皆の変わりように驚いている沙久羅に解るように話した。
「そう、だったんだ」
沙久羅は嬉しそうに微笑んだ。それを見かけた数人の生徒が顔を赤くする。
「その顔だよ。沙久羅、本当はかなり人気あるんだよ。最近は笑うようになった沙久羅目当てで教室に見に来る生徒が後を絶たないんだから」
結希がこそこそと耳打ちする。
そんな事実、知らない。自分は皆に避けられているものだとばかり思っていた。
「能力を使って他人を陥れたり、邪魔したりするような人はここにはいない。多かれ少なかれこの力で嫌な思いをしている人たちだもの。妬むことなんてきっと知らないよ」
確かに自分も妬み、嫉みには覚えが多かった。無自覚に使ってしまったがために辛い思いもした。皆そうなのだろうか。
そう考えていると周りの仲間が笑いかけてくれていた。結希だけじゃなかった。また嬉しくなって俯きながら微笑んでいた。
ありがとうございました。




