24話
よろしくお願いします
「…沙久羅ちゃん」
祐希が沙久羅の頭を撫でた。
「一つだけ方法がないわけではないけれど、時間がかかるうえにあなたには酷な宣告になるかも…」
美羅依が苦しい表情をして言った。
「美羅依ちゃん?」
祐希が心配そうに名を呼んだ。
「あなたは先に魔王の力を得ているわ。時間がかかるけれど、それを吸収するの。自分の能力にしてしまうという方法。でも、それをしてしまうと…」
美羅依は俯いた。これ以上言って良いものなのか解らない。
「宮梛会長。言ってください。自分の事は自分が一番知っていたい。どんなに酷なことだとしても…」
沙久羅は美羅依の手を引いて言った。
「解ったわ。…それをしてしまうとあなたの魔力は強まる。その代わり、魔王の花嫁の候補になるの。与えられた魔力が桁違いだわ。それが意味するのは花嫁候補。最初に魔力を与えられた時に言われたはずよね?」
美羅依の問いに頷くしかなかった。今は見逃すと。それが意味するのは、いずれは花嫁候補だと言われていたに等しい。
「あなたが今の花嫁に選ばれてしまったのね」
美羅依は悔しそうに唇を噛んだ。
「美羅依…」
「大丈夫、この子を、こんなに可愛い子をあいつの手に渡したりなんかしない。あのときのように悲しむ人を出したりしないわ」
美羅依が祐希に笑顔で言った。
「沙久羅さん、あなたも関わってしまったこの不運を嘆いて終わりにするか、立ち向かうかはあなた自身が決めて。これからあなたは今以上に悪魔たちに狙われるわ。私達と同じかそれ以上に…。魔力が高まったその時を狙ってあいつも出てくるはず。
この世界を救うため、今の生活を守るために私たちは戦っている。
私達は今度こそあいつをこの世界にこれなくする。いえ、この世から抹殺するために今まで戦ってきたの。あなたを利用することになるかもしれないけれど協力して」
美羅依は告げた。包み隠さずすべてを話した。
沙久羅はその言葉を聞きながら、もう心は決まっているようだった。
「宮梛会長。私は言われなくても、決めていたと思います。私は嘆いて終わりにできるほど平穏な生活をしてきたわけじゃありません。いつでも立ち向かって居場所を見つけてきたんです。これからだって、そうするに決まってるじゃないですか」
沙久羅は起き上がって、二人を交互に見てそう言うと笑顔で答えた。
「吸収するのに時間はかかりますが、あの魔王に立ち向かう術を貰ったと思っておきますよ」
そんな沙久羅を二人は抱きしめた。自分達のように記憶を持って生まれたわけでもなく、ただこの戦いに巻き込まれてしまった不幸な少女に少しでも幸あらんことを望んだ。
「あなたの事は私達もできる限り守るわ」
美羅依がしっかりと手を握った。
「はい、お願いします」
沙久羅はそう言うしかできなかった。
「沙久羅ちゃん、耀をお願い。私ではもう、あの子の力にはなってあげられないから。こんなあなたにお願いすることもないとは思うのだけれど…」
祐希は苦笑しながら言った。
「姉弟なら、心配するのはあたりまえじゃないですか。私でできることは何でもします。私も耀にたくさん貰えたから、返したい」
沙久羅は晴れやかな笑顔で祐希を見上げた。
「本当に良い子なんだね。沙久羅ちゃん」
祐希は沙久羅を労わるように抱きしめた。
「…くっ、苦しいですよ。祐希さん」
沙久羅は苦しそうに言った。美羅依はそんな二人を笑顔で見ていた。
「とりあえず、決まったようだな」
桔梗がいつの間にか入って来ていた。
「はい、危険ではあるのですが、吸収を待ちます。たぶん、それをあいつは待っていると思います」
美羅依が真剣な面持ちで答えた。
「沙久羅、解っているのか?」
「はい、解っているつもりです。私で役に立つのなら、使ってください。私は私の居る場所を守りたい。そのためになら何でもしますよ」
桔梗に聞かれ、沙久羅は笑顔で言った。迷いなど全くと言って良いほどない。
「昨日も言った通り、定期的に私が診るよ。沙久羅、今までは心配する者などいなかったかもしれないが、これからはたくさんの人がお前を心配し、守ろうとする。それだけは忘れるなよ」
沙久羅は桔梗の言葉を心の中で反芻しながら頷いた。
「沙久羅さん、教室の近くまで送るわ」
美羅依がそう言うとまた柚耶が沙久羅を抱き上げた。
「あの、私、歩けますから…」
沙久羅が顔を赤らめて言った。
「できるだけ能力は温存しておいた方が良い。パートナーに知らせないのなら尚更な」
柚耶はそう言うと有無を言わせず、沙久羅を抱いて保健室から出ようとした。
「柚耶、美羅依を何気に攻めるなよ。可哀想じゃないか」
桔梗が意地悪い笑みを浮かべた。
「桔梗、帰ってきたら、覚えてろよ」
美羅依をチラリと見てから、桔梗を睨んでそう言うと、美羅依を連れて沙久羅を送りに行った。
ありがとうございました。




