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23話

よろしくお願いします

翌日の朝、沙久羅は両足を軽くマッサージをしてからベッドを抜け出した。立ち上がることも歩くことも今までは意識することなくできていたものをこれからは意識して動かさなければならない。足の感覚は全くと言って良いほどなく、マッサージしたとしても触っている感覚もなかった。自分がみているから触っているのだと解るくらいである。痺れている感覚は何となくあるが、自分の足としては思えない。

「自分がしたこととはいえ…」

 溜息は零れる。しかし、彼に気づかれることだけは避けたい。

「前向きに考えよう。私にはこの能力がある。だから動けるんだし」

 リビングに入るといつもの朝食の準備に取り掛かった。今日は自分が当番の日だ。


 鼻をくすぐる良い匂いで耀は目を覚ました。

 隣を見ると沙久羅はもういなかった。

「全く」

 少し怒った口調で頭を掻く。

「休んでいれば良いのに」

 昨日の今日で動くなんて、と思う。だが、沙久羅の性格では休んでいることはしないだろうと予想も付いていた。

 何より沙久羅に何もなかったことは耀を安心させた。

 リビングに入ると、いつものように沙久羅が待っていた。

「あ、起きたんだ。おはよう」

 沙久羅は何事もなかったように笑顔で耀に挨拶をした。

「おはよう」

 耀は席について沙久羅の用意した朝食を食べた。

「沙久羅、今日くらい俺が代わるよ。まだ、痛みとかあるんじゃないのか?」

 心配そうに問いかける。

「もう大丈夫よ。何ともないんだから」

 笑顔を向けた沙久羅の表情に少しの違和感を覚えたものの、それが何かまで耀には解らなかった。


 朝食を終え、学園に登校した。

 沙久羅達を待っていたのは宮梛生徒会長だった。

「沙久羅さん、この間の事で聴きたいことがあるの。授業の方は何とかしておくから、来てくれる?」

 美羅依はにこやかに言ったが、その瞳の奥には鋭く鋭利な刃物を突き刺すような視線があった。

「…はい」

「俺も…」

 耀がそう言いかけて、美羅依が制した。

「耀君、今回は良いわ。彼女と話したいことがあるのよ」

 耀に囁くように言って、美羅依は沙久羅を連れて行ってしまった。

 耀は不審に思いながらも従うしかなかった。彼女は曲がりなりにも梛だから従わないわけにはいかなかった。



「連れてきたか」

 そう言うと学園の壁の陰に隠れていた柚耶がひょいと沙久羅を抱き上げた。

「きゃっ何を…」

「沙久羅さん、能力をといて良いわよ。ここから転移するから」

 暴れる沙久羅を制して美羅依は言うと柚耶に頷いて見せた。

「お嬢さん、少しは大人しくしてくれよ。光の精霊はデリケートだから驚くとどこに連れて行かれるかわからないんだ」

 そう前置きして、柚耶はウィンクしてみせた。その顔があまりにも整っているから様になっていて沙久羅でも赤面してしまう。

「柚耶、彼女に変なことしないでね」

 美羅依は少しむっとした表情を向けて、片手をあげた。

「我に従いし精霊よ、我らを連れてゆけ」

 一瞬、美羅依の肩に美しく白い手が乗り、美羅依に頭を垂れ、沙久羅達に笑いかけた。そのあとには白いカーテンが掛かったかと思うと真っ白い空間に連れられて行った。

「あなたは闇の精霊の転移も経験していたのだったわね。あちらは暗い闇の世界。こちらは白い光の世界。違うけれど似た世界なのよ」

 そう言って数歩歩いた先に現実世界が姿を現した。

「連れて来たぞ、桔梗」

 柚耶が声を掛けた人物は校医の雪梛だった。

「おお、お前達でも拉致できたか」

 桔梗は沙久羅を診察台の上に寝かせるように言うと、沙久羅の傍に歩み寄った。

「すまないな。本当は普通に授業を受けさせてやりたかったんだが、事情があってな、早い方が良いと思って連れてきてもらった」

 そこには桔梗のほかに祐希もいた。

「美羅依はわけがあって魔王と接触がある。悪魔の力にもそれなりに詳しい。祐希は闇の精霊魔術師だ。二人に診てもらう」

 桔梗はそう言うと柚耶を伴って部屋を出た。

「ごめんね。こんな勝手なことして。でも、あなたにこんなことを強いている奴は許せない。ただ神経が麻痺しているのなら、闇の精霊魔術師である耀君の治癒でほぼ治っているはず。だけど、今日になってもあなたの足は麻痺したままだわ」

 美羅依はそう言って沙久羅の足を触った。しかし、沙久羅の足はピクリとも動かない。

「腰のところから悪魔の力を感じるわ」

 祐希が溜息交じりに言った。

「それが麻痺の本当の原因」

 美羅依は沙久羅に説明しながら腰に触れた。

「取り出すのは…難しい…か…」

 溜息交じりに美羅依も呟いた。

 何とかしてあげようとする必死な様子が手に取るように分かる。こんな行くあてもないような自分に必死になってくれているだけで嬉しかった。

「そんなに落ち込まないでください。そうやってくれているだけで私は凄くうれしい」

 沙久羅は笑顔で言えた。確かに原因を取り除けないと解った時点でショックではあるが、それ以上に嬉しさが勝っていた。

ありがとうございました。

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