21話
よろしくお願いします
数日後、事件は思いがけない方向に進展していた。
「耀、どういうこと?」
高等部の屋上で誰もいない事を確認してから、沙久羅が切りだした。
「俺だって解らない。大学部の桜華会が事件を操作していたなんて、今日のクラス委員の集まりで聞くまで知らなかったんだ」
現在、取り調べが行われている。耀はそこから少しだけ抜け出して、沙久羅に話していた。
「会長が言うには何かしら原因があるようだとは言っていたけれど…」
耀は沙久羅に会う前に彰芳にも会っていた。不空会の情報も欲しいところだった。
耀が思案に暮れていたときに屋上のドアが勢いよく開かれた。
「耀」
ドアのところには彰芳が結希を連れて来ていた。
「大学部の桜華会は魔王の手下に牛耳られていたらしい」
耀の耳元に口を寄せ、囁くように彰芳は報告した。
「なんで、またこんな時に……」
耀は両手を強く握り締めて言った。
「気をつけろよ。俺達も動いてはいるが、何せ情報が乏しすぎる。それに、魔王配下のそいつは詳細を話す前に何者かに消されたらしい。依代になった生徒ごと」
彰芳は情報が錯綜する中で何とかかき集められたことだけ、知らせた。
「沙久羅、今は私達の言うことだけを信じて。詳細を説明している時間は無いの。私も彰芳君も沙久羅に護衛としてつくわけにいかなくなったの。頼れるのは、沙久羅の能力と耀君だけ」
結希は沙久羅の肩を強く握って言った。
「どういうこと?」
沙久羅は護衛ということさえも聞かされていなかった。
「沙久羅は今回の事件に無関係では決していられなくなったってことなの。危険が常に付き纏うと思う。こんなときにどうしてって私も思うよ。けれど、如何しても沙久羅を危険から守るための事を私たちはしなくちゃならなくなったのよ。それだけは解って」
必死の様子で語る結希は切羽詰まった様子だった。
「大丈夫だよ、結希。私は自分のこの能力があるし、信じられるパートナーもできたから。そんなに必死にならなくても、大丈夫だよ。結希こそ無理しないで。時間が来れば否応なく私は知らなければならなくなるのはこの前解ったから、もう、迷ったりしない」
沙久羅は微笑を結希に向けた。
「沙久羅…」
結希はただ眩しそうに沙久羅をみた。
「結希、今回の件だけど、解ったことあるの?」
「耀君から言われると思うけど、事件の中核にいた生徒が一人殺されたの。だから、私達が焦ってここに来たんだよ」
沙久羅の問いに結希は真剣な面持ちで答えた。
その時にふと耀の方に目をやると精霊の様ないでたちの者が耀の後ろに立っていた。
「…イヴァーレ…?」
沙久羅が驚いた表情でその名を口にした。耀が呼びだしたにしてはおかしい。
「どうしたの?」
不思議そうに結希が聞いた。結希には精霊が見えていないようだった。
「違う!耀っ、逃げてっ!」
似たような精霊が耀を後ろから大剣で襲うように見えた沙久羅は結希の前からすり抜けるように走りだし、耀を庇った。
「沙久……?」
名を呼ばれ、沙久羅の名を口にしようとしたときに初めて敵の存在に気付いたらしい耀が、沙久羅を振り返る。
その瞬間に沙久羅の背中から腰に掛けて鈍い衝撃が走る。それでも、沙久羅は身体を器用に捻り、手にしていた3個の水晶をその精霊に向けて投げつけ、三角になった中心目掛けて手を翳した。
「焼き尽くせ」
痛みに耐えながら口にした言葉は正確にその精霊を直撃し、炎に包まれて沙久羅が作り出した炎が消える頃には跡形もなく灰になった。それを見届けると、沙久羅は意識を手放した。
耀は沙久羅を抱くような格好で屋上に転がった。居合わせた二人は何が起きたのか解らず、反応もできていなかった。
「沙久羅!」
意識を失っている沙久羅を抱き起し、耀は名を呼んだ。
「………あ、」
沙久羅がうっすらと瞼をあげ、声を出そうとしたが、痛みに耐えられず表情を苦痛に歪ませた。
「沙久羅、血が…」
駆け付けた結希が背中から滴り落ちる血液を見咎めた。
「どうして、俺を庇ったんだ」
「だって、……パー、トナー…でしょ?」
苦痛に耐えながら沙久羅は微笑して答えた。
「イヴァーレっ、力を貸せっ」
耀は沙久羅を強く抱きしめて叫んだ。
『主の心のままに』
イヴァーレはそう言うと沙久羅と耀を闇に包みこんだ。
彰芳と結希には二人が忽然と姿を消したように見えた。
『空間を切除し、時間を止めております』
イヴァーレはそう言うと耀の前から姿を消す。
「沙久羅、痛みは?」
耀は沙久羅に優しく語りかける。
「結構、痛い…かな」
沙久羅は苦痛に呻きながら答えた。
「全く、馬鹿だよ、俺なんかを庇うから背中を切られるんだ」
耀はそう言うと沙久羅をうつ伏せに寝かせた。
「…どう、するの?」
「俺の治癒魔法でどれだけ治せるかわからないけど、傷は塞げるからな。だから、怒るなよ」
そう言うと、沙久羅の背中の傷に唇をあてた。
「へっ…ひゃうっ」
その感触に沙久羅は声をあげる。恥ずかしさに顔が赤くなるのがわかった。今は闇の中だから解らないが…
耀は沙久羅の傷が治っていくのを確認して、唇を離した。
「なっ…何をしたの?」
「だから、傷を治療したんだよ。今回のはかなり深いから、表の傷は治せたけど…痛みは?」
「さっきよりは良くなったかな。手足の痺れが少し残ってる程度よ」
沙久羅は両手を握ったり、開いたりを繰り返しながら言った。
「イヴァーレ、空間を渡れるか?」
耀は何かを思い出したように聞いた。
『主が望むなら、叶えましょう』
イヴァーレは耀の眼前に姿を現して言った。
「校医のところまですぐに運んでくれ」
耀は沙久羅を抱き上げるとそう言った。
『御意』
イヴァーレは言われるままに空間を開いた。
ありがとうございました。




