20話
よろしくお願いします
夜になり、耀に来客があった。友人の彰芳だが、二人だけで話がしたいということで、付いて来た結希と共に沙久羅は近くの公園に来ていた。
「話って、なんだろうね」
沙久羅はあまりにも真剣な面持ちだった彰芳を思い出して結希に聞いた。
「私からは、言えないの」
結希も苦しそうな表情をして近くのブランコに座った。夜の公園は人もおらず、とても寂しい感じがした。
「時々、結希も彰芳君も耀でさえ私に何も言ってくれなくなるよね。やっぱり、私が異質な能力を持っているから?悪魔に魅入られたものだからなの?」
涙声になりながら沙久羅は問いかけた。
「沙久羅、これだけは知っておいて。沙久羅の能力のせいじゃないの。あなたを救うための事をやろうとしているのよ。それだけは間違わないで。藤梛君は沙久羅を不幸なままにしたくないから沙久羅を選んだんだよ」
結希は必死に縋るように沙久羅の肩を強く掴んで言った。
「それって、間違ってるよ。当事者の私が知らない事があって良いわけないじゃない!」
「それは、私も思うけど……違うの。藤梛君は時を待っているんだと思う。今は言えないだけだよ。これ以上、沙久羅に深く入り込ませないための事だと思う」
結希は静かに答えた。
その声に沙久羅も取り乱していたことを謝った。
「沙久羅、この学園にはもう一つ秘密があるんだよ。でもね、沙久羅は知ってはいけないの。知ったらきっと本当に不幸になる。やっと居場所を見つけられたのに、沙久羅はまた見失ってしまうかもしれない。耀君はそれだけはしたくないんだと思う」
解ってと結希は懇願するように告げる。
ここまで、関わらせておいて、と沙久羅も思うが、結希の必死の懇願にこれ以上何も言えなくなってしまった。
「今は解らないふりをしておくわ。時が来れば、否応なく私は関わらなければならなくなるんだよね。できれば、今のままでいられると、良いんだけどな」
苦笑して、言う沙久羅の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。
「沙久羅…ごめんね」
結希が沙久羅に抱きついて謝った。沙久羅はただ、結希の髪を優しく撫でてやることしかできなかった。
同じ頃、耀の部屋では彰芳が今までになく真剣な面持ちでいた。
「会長に食って掛かったらしいな」
呆れたように言う彰芳は耀を睨んでいた。
「あの人はいつも余計なことを言うからだよ」
耀は彰芳から瞳を逸らして返した。
「それは良いとして、耀、本当にあんな奴を相手にしようって言うのか?危険すぎる。大体、諸悪の根源だぞ。それに立ち向かうことが何を意味するかくらい、解らないお前じゃないだろ?」
彰芳は必死に止めようとしていた。
「お前も同じことを言うんだな。不空会長にも同じことを言われたよ。危険すぎるってね。でも、沙久羅を本当の意味で救うにはそうするしかないと思うんだよ」
耀は静かに微笑を湛えて答えた。一つの迷いもない。
「どうして、そこまで……」
耀のその様子に戦慄を覚えた。
「きっと、お前になら解るよ。高梛先輩もきっと解る」
苦笑して彰芳を見た。
「…でも、彼女がそれを望むとは限らないだろ?」
「これは俺が決めた戦い(こと)だ。沙久羅は関係ない」
そういうやつだよな。と心の中で彰芳は納得はした。しかし、彼は大切な自分が守らなければならない主人だ。危険から守るのも、自分の役目の一つだ。たとえ、それを主人が望まないとしても……
「お前は藤梛の人間であることを忘れている。梛様を守るのは弟のお前しかいないだろう?それをお前は放棄するというのか?」
最後の切り札。これだけは言いたくなかった。梛の事を持ちだして良いはずがない。わかってはいるが、耀を止めることを自分はしなければならない。今は梛様自身が最後の戦いをしなければならないときに来ている。余計なことに気を回させるわけにはいかなかった。
「……!」
彰芳を耀は強く睨み返した。
今は自分を恨んでも良い。
「彰芳。お前は何か知っているのか?」
責めるような口調で詰め寄った。
「梛様には止められてるんだけどな」
彰芳は思案したがどうせ解ることと思い、続けた。
「…本当は、お前にも言って良いものかわからないけど、……梛様達はもうすぐ人知の及ばないような戦いに挑まなければならない。その戦いは人がこの世に生を受けた時から始まっていた戦いだ。
俺も詳しくは知らないが、梛様達はそんな戦いの記憶をすべて背負っている。そして、今回もその果てしない戦いが始まろうとしているらしい。お前にはその梛様の邪魔をして欲しくないんだ。この世界の運命を左右する戦いになるから…」
彰芳の話を聞きながら、思い出していた。姉は言ってなかったか、もうすぐ始まると。それがこのことだとしたら……
「俺が追おうとしているものって、梛様達が追っている者と一緒なんじゃ……」
一つの答えが出て、耀は彰芳を見た。
彰芳はただ、無言で小さく頷く。
「だったら、俺は梛の補佐としてつく」
耀は今すぐにでも向かっていきそうな勢いだった。
「まて、お前には沙久羅さんがいるだろう?彼女を守ることがお前の役目だよ。悪魔たちは間違いなく魔王の魅了した彼女を欲して集まるだろう。梛様が心配していたのはそのことだよ。梛様達は魔王との戦いのために、こちらまでを見る余裕はない。だからこそ、お前をつけたんだ。一番信用置けるのは耀、お前しかいないって、梛様は仰っていたよ」
彰芳は耀を宥めるように言った。
「お前は本当に損な役回りだよな、彰芳?」
少し気持ちが落ち着いたのか、耀は息を吐き出して、彰芳を見下ろした。
「仕方ないよ。それが分家の役目だし。主に使えるということだからな」
苦笑して彰芳は言った。本来なら、耀も同じことをしていたのかと思う。姉が梛にならなければ、自分の能力が高くなければ、自分は分家の一人の者にすぎなかったのだから……
「そんな顔をするなよ。お前は立派な本家の主の一人だ。誇って良い。沙久羅さんを不幸にはしたくないんだろ?だったら、梛様の命令には従った方が良い。彼女を守り抜くことが耀、お前の使命だよ」
彰芳は笑顔で言った。
「…解った。姉さんに伝えてくれ。使命を全うします、ってな」
耀は苦笑して言った。
「彰芳、お前も本当に大変かもしれないが、姉さんを頼む」
「ま、任せておけ。梛様には敵わないが身辺を守るくらいはできるからな」
彰芳は立ちあがって玄関に出た。
「あ、そうだ」
彰芳は思い出したように振り返った。
「耀、キスしたことあるか?」
彰芳の突然の質問に耀は戸惑い、顔を真っ赤にした。
「……」
「精霊魔術師のキスは直接、相手の身体に精霊の加護を吹き込むんだ。結構強力だから吹き込む人も、その相手の許容量も大きくないとできないけど、お前たちならできるんじゃないか?」
彰芳は思い出したと言いながら教えた。
「この間、梛様との会話、少し聞いちまってな。そう言えばそんなことを以前梛様が言っていたのを思い出したよ」
彰芳はそれだけ言い残して、帰って行った。
それと入れ違いに沙久羅が帰って来た。
「ただいま」
沙久羅はいつものようににっこりと笑って帰って来たのだった。
「お帰り」
先程の彰芳との会話を少し思い出して、赤くなった顔を見られたくなくて、耀はすぐにリビングに行ってしまった。
そんな行動を不思議に思いながら、沙久羅は耀に続いてリビングに入り、お茶を飲んだ。
ありがとうございました。




