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18話

よろしくお願いします

夜中に沙久羅が突然起き上がった。

「動いた」

 沙久羅は一言そう言うと素早く着替え、出て行ってしまった。

 耀はそれに続いてすぐに後を追う。

 耀は道すがら沙久羅に聞いた。

「昼間に水晶を一つ置いてきたでしょ?あれに引っかかったのよ」

 公園にいたのは人ではなかった。人の二倍以上はあるかと思うような巨体を持つ明らかに人ならざる獣のようだった。

「…犬みたいな化け物ね」

沙久羅は一言ぼそりと言った。

「大きな犬だなぁ」

耀は溜息を吐いた。木の影がなければきっとその巨体は目立っていただろう。林のようになっているからこそこの場所を選んだように思えた。

 口から液体が零れ落ちる。黒ずんでいて良くは見えないが食事をしてきたのは言うまでもないことだろう。

「また、被害者が出たんだね」

 小さく悔しそうに沙久羅は呟いた。唇を噛みしめる。こうならないために早く事をすませたかったのにと拳を強く握り締めた。

「沙久羅、このままもう少しだけ待ってくれないか。俺達だけでは手に余る。こういうのは慣れてる人たちとやるのが一番だ」

 そう耀が言っているうちにその慣れていると言われた人たちは集まっているようだった。

「良くやったわ」

 そう短く二人を褒めたのは耀の姉の祐希だった。

「祐希姉さん」

 耀がその姿を認めて呼んだ。

「あなた達は今回は見ていなさい。実戦というものは確かにその場でしか覚えられないけれど、見ることも勉強になることがあるわ。あれは悪魔の一種、逸れ悪魔のようなもの。悪魔は人の恐怖心などを糧に生きる者。その食事の仕方は様々だけれど、あれは恐怖に駆り立てられた人をそのまま食すもののようね。身体も大きくて、手強そうだけれど、どんなものにも弱点はあるものなのよ」

 祐希が解説しているうちに影に隠れていた人影が動きだした。

 どんっ

 大きな地響きと共に竜巻が巨大な犬の化け物を取り囲んだ。

「いつも派手よね。美羅依ちゃんはさぁ」

 祐希の後ろから少女の声が聞こえた。

「美月。こんなところにいていいの?」

 祐希が驚いて聞いた。

「ああ、今回はサポートだからここでも問題ないでしょ?耀君の嫁も見たかったしぃ」

 楽しそうに耀と沙久羅を交互に見て言った。

「…嫁って…からかわないであげてよ。今日が初仕事なんだからね」

 呆れたように美月と言われた少女に祐希は少し怒った口調で抗議した。

「ごめん、ごめん。それより、柚耶君が仕掛けるよ」

 美月がいうその先でもう一つの人影が何か光るものを振るうところだった。

「あれが柚耶君の十八番、光と水の精霊からつくりだした剣。あれに突かれたら一溜りもないよ。大抵の悪魔はそれで霧散する」

 美月が言うと、まさしくその通りに光が悪魔を貫いているところだった。

「今回はこれで終わりだったら良いんだけどね。たぶん、これは一端にすぎないと思うよ。あっけなさすぎ。それに黒幕が居ない」

 美月が溜息交じりに言った。

「…そう、ね。逸れ悪魔なんて本当にいるわけないと思う。召喚した誰かが居るような気がする」

 祐希も頷いた。

「でも、あなた達の探査能力は凄いわ。投入して殆ど時間が経っていないというのに実行犯を見つけることができるのだもの。もう少し早く投入しても良かったかしらね」

 祐希はフムフムと頷きながら言った。

「…姉さん。沙久羅が困ってるよ」

 申し訳程度に耀が祐希達を止めた。

 当の沙久羅は顔を赤らめて俯いてしまっていた。

「あらあら、いつものノリで喋っちゃったわねぇ。沙久羅さん、とりあえず、終わったから帰って良いわよ。耀に後で色々聞いて良いから、呆れないでまたお仕事よろしくね」

 沙久羅の頭を撫でて祐希はそう言うと立ち上がった。

「今回のお手柄、唯衣 沙久羅さんだよ。美羅依、柚耶」

 近づいてくる人影に祐希が手を振りながら声を掛けた。

「…へえ、良くこの短期間に見つけられたな。まだ、真犯人には辿りつけてはいないけれど、とりあえず、ひと段落ってところだな。お疲れ様」

 柚耶と言われた少年の方が感心したように言った。

「…沙久羅さんだっけ、本当はこんなことに巻き込みたくなかったんだけど、やっぱりあなたのその能力、行動力、判断力は見張るものがあるわ。これからもよろしくね。そして、祐希の弟の耀君、久しぶり。祐希が耀君に嫁ができたって喜んでたよ」

 美羅依が耀に耳打ちした。

「…へっ、あ、その……姉さんっ!」

 顔を真っ赤にして姉を振り返る。姉は素知らぬふりで隣の美月と話をしているようだった。

「あら、呼んだ?」

 悪気の全くない笑顔で振り返った姉をみて、何も言えなくなってしまった耀だった。

「…耀、悪いことは言わない、あまり逆らわないことだ。女は怖い」

 唯一、味方になってくれそうな柚耶もそのやり取りを見ていて溜息を盛大に付いてそうアドバイスをするだけだった。

「……高椰先輩」

 耀も少しは当てにしていた先輩の言葉に項垂れるしかなかった。

「今日はもう遅いんだから、帰って寝なおせ。今日の授業はとりあえず欠席で良いから」

 後から来た教師が呆れ顔で言った。

「桔梗、珍しく来たんだ?」

 柚耶が物珍しそうに聞いた。

「当たり前だろ、新人が探索に成功したなんて聞いたら尚更な。それにその探索に加わっているのが祐希の弟の嫁だって言うしなぁ」

 桔梗と呼ばれた教師は綺麗な顔に似合わず男のような口調で楽しそうに言ってきた。

「校医のあなたまでそんなことを言わなくても良いじゃないですか」

 耀が沙久羅を庇うようにして、言った。

「お、耀、久しぶり。じゃぁ、そっちの()が唯衣 沙久羅?写真より可愛いじゃないか」

 値踏みするように桔梗は一通りみて、満足したのか、美羅依達と話し始めてしまった。

「……あれって、校医の雪梛先生?なんで?」

 沙久羅が混乱したように聞いた。

「沙久羅、良く名字を思い出してみればわかるよ。あの先生も梛様の一人だよ。そして、桜華会の顧問でもあるんだよ」

 耀ははぁと息を吐き出した。もう、ここにいても話のタネにされるだけだと思った。

「帰ろう。せっかくくれた休みだし。俺もさすがに眠い」

 耀はそう言うと沙久羅の手を引いて歩きだした。

「ちょっと、良いの?」

 沙久羅はまだ何か話し込んでいるらしい人たちを振り返って聞いた。

「ああ、大丈夫。必要なら呼びとめるだろ?俺達は新人だし、下っ端だから、上の考えることに口出しすることもないさ」

 耀はそう言うと今度こそ立ち止らずに歩き去った。

 確かにそうかも、しれないけど…凄く、恥ずかしかったな。

 沙久羅は耀に手を引かれながら先ほどまでの梛達の会話を思い出していた。嫁って…私の事?

 沙久羅は今になってようやく話の内容に顔から火が出るような恥ずかしさを覚えた。耀に握られた手にも汗をかいてしまいそうになる。

「どうしたの、沙久羅?」

 急に立ち止った沙久羅に驚いて耀が問いかけた。

「あの、嫁って…」

「ああ、ごめん。姉が勝手に言ってるだけだから気にしないで」

 耀は平然とそういうとまた歩き出した。沙久羅の手を離すことはなく、マンションまでそのまま繋いで帰ったのだった。

ありがとうございました。

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