表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/61

16話

よろしくお願いします

 マンションに帰ると、沙久羅が気持ちよさそうにベランダで風を受けていた。

「そこじゃ風が強いだろ?」

 沙久羅に声を掛けると、振り向いて無言で首を横に振る。

「お茶を入れるから、入っておいで」

 茶器を運びながら耀は言うと準備を始めた。

「?…二つ?」

 沙久羅が不思議そうに聞く。しかし、ここには自分と沙久羅しかいない。

「どうしたんだ?」

「あぁ、耀の後ろの人は違うのか」

 何をどう納得したのか、沙久羅はそう一人で納得すると席に着いた。

「俺の後ろ?」

沙久羅の言いように一抹の不安がよぎり、とりあえず聞いてみた。

「あ、気にしなくて、良いよ」

「気になるよ」

 少し向きになって聞く。

「だって、精霊なんでしょ?耀の守護精霊なのかなって思ったんだけど。間違ってた?」

 イヴァーレルストアの居るところを指して、沙久羅が言う。

『ほう、魔術師でありながら我を見ることができるのか?類稀なる才だな』

 紳士的な男精霊は不思議そうに沙久羅を覗き込んだ。

「褒めていただき、嬉しく思います」

 沙久羅は一礼して言った。

『そなたが悪魔の能力を持つものなのか?』

 精霊は特に悪気もなく聞いた。

「…イヴァーレ、それは…!」

耀が慌てて制止したが間に合わなかった。

「大丈夫だよ。精霊が回りくどい言い方や嘘をつくことができないのは知っているから」

沙久羅が苦笑して言った。

「精霊さん、私はあなたの言うとおり悪魔の能力を持っている者よ」

沙久羅はイヴァーレににこやかに答えた。

だが、その瞳が笑っていないことは耀にはわかっていた。

頼む、これ以上彼女を怒らせないでくれ!耀はイヴァーレに心の中で叫んだ。それが聞こえたのか、彼はそれ以上沙久羅に聞くこともなく、黙ってしまった。

「とりあえずお茶でも飲もうよ」

 耀はそう言うと二人分のお茶を用意して、沙久羅に一つを手渡した。

「耀のお茶はいつもおいしいんだよね」

 少し心が落ち着いたのか、沙久羅が感心したように言った。

「ありがとう。これは小さいころから仕えてくれていた執事から教わったんだよ」

 嬉しそうに言うとお茶のお代わりを入れた。

「ふうん。入れ方が普通と違うなぁとは思っていたけど、本物に教わってたんなら、入れ方も一流になるよね」

 更に感心した様子で沙久羅が言った。

 その後は特に沙久羅の機嫌は悪くなることもなく、夕食も食べた。

「お先にお風呂ありがとう。先に部屋に行っているね」

 沙久羅はそう言うとリビングを出て行った。

『ここまでは特に変わった様子もなく、暴走なんてないような感じなのだな』

 イヴァーレが唐突に言った。

「うわっ、びっくりしたぁ。突然話しかけないでよ。まだイヴァーレが居ることに慣れてないんだからさ」

 耀は胸を撫でながら言った。

『そうか。気をつける。それより、これからが危険なのだな?』

 精霊に言われ、耀が頷いた。

「彼女が寝た後が危険なんだ。能力が無意識下で暴走する」

 今までになく、真剣な瞳で彼女のいる寝室を睨むように見た。

『とりあえず、様子を見させてもらうことにする。そなたの近くにいなければならないしな』

 イヴァーレはそう言うと耀の後ろに続いて寝室へ入った。

「…寝たの?」

 小さく呟くように耀が聞くと、沙久羅が閉じていた瞳をうっすらと開いた。

「まだ」

 沙久羅は短くそう答えた。

「寝ていいよ。お休み」

 耀は沙久羅の頭を優しく撫でて言った。

「……ん、お休み」

 本当は何か言いたいことがあるのだろうが、沙久羅は何も言わずに頷いてまた瞼を下ろした。

 それを見届けると耀も布団に潜り込んだ。

 今日は何も起きないかと思いかけていた矢先に、沙久羅の表情が一変した。

「……うぅっ…」

 苦しそうな表情をしたかと思うと唸りだした。それを合図のように光の渦が巻き起こる。

「沙久羅」

 そう言って沙久羅の手を握り、自分の能力を発動する。心の中で収まってくれと願う。

 その願いが通じたのか、沙久羅の表情が幾分和らいだ。それにつられるように沙久羅の周りに起こり始めていた光の渦が消えた。

 耀がそれを確認して、握っていた手の力を緩めた。まだ油断できず、手は離さなかった。

「ふう」

 安堵のため息が漏れる。

『…これがそうか』

 イヴァーレは唸るような声で聞いた。

 耀は無言で頷いた。少し疲れてもいた。

『この娘の能力の高さは生まれついてのものだろう。だが、それを増幅しているのが悪魔に付けられた額のしるしのせいだと思う。これは誰にも解けはしまい。我が妻やそなたの姉、瑪瑙(めのう)の能力を持ってしても難しいと思う』

 イヴァーレが難しい表情で沙久羅を見下ろした。

「このまま能力の暴走を見ていくしかないのか?」

 耀が悔しそうな表情で言った。

『少しの間はそうしてもらうしかないな。手はありそうなのでな、時間がほしい。そなたも(いと)()も共倒れにならぬような方法を見つけてみよう』

 イヴァーレはそう言うと姿を消した。

「…ありがとう」

 耀は今回だけは素直に礼を言えた。その後は耀もゆっくりと寝ることができたのだった。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ