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15話

今回は少し長めです。

よろしくお願いします

翌日には沙久羅の体力も戻り、痛みも殆どなくなっていた。

「歩けるのがこんなに素晴らしいことだとは思わなかったわよ」

 沙久羅は上機嫌でリビングを歩いている。

「寮に荷物取りに一度戻るんだろ?」

 耀はそっけなくカップを口にして聞いた。

「そうね、しばらく泊めてもらわなきゃならないもん」

 沙久羅は頷きながら必要なものをリストアップしているようだった。

「あのね、耀。……昨日の夜、さ。やっぱりやったよね?」

 沙久羅は思い出したように耀を覗き込むようにして聞いた。

「ああ、でもすぐに防ぐことはできたよ。心配するなって。で、ベッドの事なんだけど、しばらくこのままの方がよさそうなんだよ。俺、結界張るの凄く苦手で…寮のような強固なやつなんてつくれないし……」

 溜息を吐いて耀は言った。

「寮に戻った方が良い?」

 心配そうに沙久羅は聞いた。

「こっちが頼みこんできてもらってるから、っていうか、帰したくないし」

 最後のほうはぼそぼそと呟くように耀は言った。

「いても、良いの?」

 沙久羅は期待を込めるような眼差しで聞いた。

「ああ」

 耀は恥ずかしそうに沙久羅から瞳を逸らして頷いた。

「そう、なら荷物は持ってこないとね」

 沙久羅は機嫌良くそう言って、テーブルに置いてあるカップに口をつけた。



 荷物を運び込んだ沙久羅は荷物整理にいそしんでいた。耀は用事があると言って出て行ってしまった。

 その耀は城のような門構えのある家の前に立っていた。

「俺、姉さんいる?」

 耀はそっけなくそう言うと、門が突然開き、中の人が一礼した。

「耀様。お帰りなさいませ」

「俺、出て行った身だから、様付けしなくて良いよ。それより、姉さん、いや、梛様は御在宅か?」

「本日はこちらにいらっしゃいます」

 違う人が屋敷の方から姿を現した。

「…彰芳…」

「耀様、ご案内するように承っております」

 深々と頭を垂れる彰芳にあからさまに嫌な顔をして、耀はその言葉に従った。

「なんでお前がいんだよ」

 耀はかなり怒っている。

「俺だって藤家の分家なんだって。梛様の護衛もしてるんだよ」

 彰芳は仕方ないと言いながら溜息を吐いた。

「姉さんには殆どいらないだろ?」

 姉の周囲にいつもいる梛の人たちを思い出していた。

「ああ、外にいればな。問題はこの中にいるときなんだよ。お前だって忘れたわけじゃないだろ?」

 忘れるはずもないことを彰芳は聞いて来た。

「…悪かった。お前を責める資格はないんだったな」

 苦笑して耀は謝った。そう、責める資格も権利もない。自分は姉を守ることもできずに家を出た身だ。

「でも、そのうち戻ってくることになるんだろ?護衛が増えることは良いことだ」

「だが、そうもいかなくなりそうなんだよ」

 耀は溜息を吐いた。今回はそのことについて姉と話すつもりでいた。

「梛様はきっと解ってる」

 苦笑して耀の背を叩いて、彰芳は部屋をノックした。

「耀様、ご到着しました」

「…はい、どうぞ」

 中からすんだ声が聞こえてくる。

「失礼します」

 耀は礼に則って頭を下げた。

「彰芳、人払いを。しばらくは姉弟の会話をしたいわ」

「かしこまりました」

 彰芳はそう言うと礼をして、出て行った。その他の人の気配も消える。

「さすがに厳重だな」

「仕方ないことよ。この家の中では私一人だから。まだ守ってもらえるだけ良いかもしれないわね」

 祐希は笑顔で言ったが少し寂しそうだった。本当はすぐにでも姉を守りたい。だが…

「唯衣さんの事で来たのでしょう?」

 祐希は察していたように聞いた。

「ああ、沙久羅の能力の暴走はいつもなのか?」

「そうね、彼女はほぼ毎日のように暴走を繰り返しているわ。私の闇の精霊魔術に近いものがあるから、私が主に彼女の結界を強化していたもの」

 思い出したように言った。

「昨日もあったんだ。俺が抑えられたから良かったけど、これからもあるかと思うとさすがにやばいかなとか思ってね」

 頬をポリポリと掻きながら耀は言った。

「傍にいたの?じゃぁ、驚いたでしょ?一気に放出される量は半端じゃなかったでしょう?私の強固に掛けた結界も難なく破った能力だったから」

 祐希はそれを止めたのかと頷きながら聞いた。

「どうやったの?普通ではまず無理よね?」

 祐希は興味深々と言った感じで更に聞いてくる。仕方なく、昨日の事を説明することになった。

「…へえ、それだけで抑えられるなんて、さすがね。私は防御専門だからそんなこと思いつかないわよ。とにかく外に出さないようにすることが先決って考えちゃう。だから、包むことは考えるけど、抑えこむことまでは考えないな。…確かに彼女の場合、抑え込むことが必要だったのかも…」

 フムフムと頷きながら祐希は何か考えているようだった。

「で、これからもしばらくは一緒なんでしょう?」

「俺はなるべくなら、その…帰したくは…」

 耀が赤面して俯くのをみて、姉は不敵な笑みを浮かべた。

「確かにあの広い所に一人で住むのは結構勇気いるわよね。ただ広いだけだし、あなただからきっと何も置いてなんかないだろうし…って、そう言えば……ベッドは…一緒か……やるね、弟」

 だんだんと地が出てきたのか、口調が砕けてきている。昔のようだ。

だが、嬉しがっていられない。俺が弄られ始めている…!耀は目の前の姉に事の次第を打ち明けたのを少し後悔した。

「仕方ないだろ?不可抗力だ」

 顔を赤らめているのを隠そうと顔を逸らせて、面白くなさそうに反論した。

「狙ったとしか私には思えないわよぉ~って、虐めるのはこれくらいにして…」

 姉は少し真剣なまなざしで俯いて何やら考えているようだった。

「あなた、沙久羅さんの事、どう思っているの?」

 あまりに真剣に聞くので、答えには詰まったが真面目に答えた。

「…好きだよ」

「なら、話は早いわ」

 祐希は闇の精霊と会話をしているようだった。耀には見えているが何を話しているかまでは解らなかった。

「あなたの持っている闇の精霊は結構強い。私と同じくらい強い精霊が付いている。今からそれを見せてあげるから、彼女の暴走を抑える方法を自分で見つけなさい」

 祐希はそう言うと耀の目の前で片手を広げた。

「我に従うもの、我が契約に従い、かの者にその麗しき姿を見せよ」

 祐希の言葉に従い、頭を(もた)げるように出てきた者がいた。

姿はがっしりとした胸板、腕や足。肩におざなり程度に掛けられた黒い布が腰の方に流れ、腰でスカートのように巻きつけられた布をベルトで抑えている姿をした男が立っていた。容姿は言うに及ばず端正で紳士的な感じを受けた。髪も瞳も漆黒のその容姿は日本人を思わせるようないでたちだった。

「私の精霊の夫に当たる精霊だよ。本当の姿を見るのは初めてだよね。私の精霊は精霊神ハスティア。耀の精霊は精霊王イヴァーレルストア。ハスティアの夫になったことによって昇格した精霊。他の精霊と少し違うのはその容貌かしら。男性らしい精霊。でも、綺麗だよね。私は彼の事好きだよ。女の子は大切にするから」

 姉の後ろでしきりに頷く精霊が見て取れた。それに気づいて姉が自慢げに目を細めた。

「あ、やっとわかった?彼女が私の精霊ハスティア。彼女も力を貸すって。沙久羅さんの力の暴走は悪魔の能力がトラウマによって増幅されているらしいの。抑えるのは簡単じゃないわ。あなたのやり方で間違ってはいないと思うのだけど、少し足りないわよね。そう、決定的に足りないのよ」

 なんだったかなぁと姉は思いだそうとしたが今は思い出せないようだった。

「とりあえず、彼の力をまず試してみなさい。精霊魔術の基礎くらいは覚えているでしょ?あなたが制御できなければ、彼女は助けられないわよ」

 祐希は意地悪そうにそう言った。

「わかったよ。彼女を助けて見せる」

「その意気よ、弟。それができたら、帰ってらっしゃい。彼女と一緒にね」

 祐希はウィンクして楽しそうに言った。

「姉さん、なんで彼女と一緒に…」

「あなたを虐めるために決まってるじゃない。弟とは虐められるためにいるものよ」

 うんざりとした表情で聞く耀をよそに、祐希は楽しそうに言ってのけた。

 確かに昔からそうだった。

 耀は昔の姉にされた数々の悪戯や虐めを思い出していた。

「じゃ、いつかね」

 耀はそう言うと部屋を出て行こうとした。

「あ、耀、…もうすぐ、始まるわ。だから、私はあなたの事まで構っていられないかもしれない。沙久羅さんはあなたがしっかり守りなさい」

 姉はそう言うと手を振って耀を送り出した。耀には良く分からなかった。何が始まるというのだろうか。太古(いにしえ)の大戦でもはじまるというのだろうか…考えても仕方ないことに気づいて、耀はマンションに帰ったのだった。

ありがとうございました。

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