13話
よろしくお願いします
「…やぁあああ!」
寝室から沙久羅の悲鳴が聞こえ、耀が驚いて駆け付けると沙久羅が光の渦の中に消えようとしているところだった。
「沙久羅!」
耀の声はかき消され、沙久羅には届かなかった。
「父さん、力を貸してくれ」
耀は小さく言うと掌を沙久羅に向けた。
耀の掌に暗い闇の玉が出来上がり、光の渦に吸い込まれるように消えた。
すると、光の渦が急速に縮まり、沙久羅を残して吸い込まれるように消えた。
「おっと」
沙久羅を宙に浮かせていた渦が消え、宙に舞った彼女を耀がすんでのところで抱き上げた。
「良かった、怪我がなくて」
沙久羅は何事もなかったように穏やかな寝顔を見せていた。
「…能力の、暴走?」
沙久羅のような使い手でもあり得るのか疑問だったが、沙久羅の過去を知らない耀はそれでこの場は納得するしかなかった。
沙久羅は夕方に起こったことは知る由もなく、何事もなく夕食も食べ、就寝したのだった。
「…知っているんだろ?」
責めるような口調で携帯を片手に耀は言った。
電話口の人は何も言わない。
「今日、沙久羅の能力が暴走した」
端的に耀は言った。
電話口の人は言葉をさらに失っているようだった。
「あいつは一体…」
『……』
呟くように小声でその人は耀に言った。
「そう、だからあんなに…」
耀はやっと納得したのか、口調を和らげた。
電話口の人はほっとしたように電話を切った。
「電話の相手は結希?」
リビングの入口に沙久羅が立っていた。
「起きてきても大丈夫なのか?」
耀は驚いて沙久羅に駆け寄った。
「少しはね…耀の怒るような声が聞こえたから来たの。あまり結希を責めないでって言おうと思ってって、きゃぁぁっ」
沙久羅の言葉を最後まで聞かず、抱き上げた。
「変な声出すなよな。立ってるのがやっとだろ?ベッドまで連れていくからな」
耀は有無も言わせず、沙久羅を寝室へ連れていった。
ベッドに戻した耀は沙久羅の傍らに腰を下ろした。
「別に結希を責めてたわけじゃないよ。沙久羅の事、聞いたんだ」
「じゃ、私の事知っちゃったんだね」
沙久羅は悲しそうな瞳を向けた。
「私の事、軽蔑するでしょ?友達の命と引き換えた能力を持っているのだから」
「別に、軽蔑なんてしないよ。今の沙久羅があるのは彼女のおかげなんだね。その時に俺がいたらきっと沙久羅をこんなめに合わせたりはしなかったと思うけど、それはかなわないから」
耀は沙久羅の頭を優しく撫でた。
「耀はきっと軽蔑するよ。だって私の中には悪魔の力が入っている。それはあなたでも許せることではないはずよ」
耀は沙久羅が自分を責め続けていることに心を痛めた。結希の言うとおり、この娘は自分自身を全く許せない。
「初めに言ったよな。パートナーは信じることって。俺の言うことが信じられないのか?」
「信じたい、けど…っ」
沙久羅の次の言葉が耀の唇で塞がれた。
「自分をそう責めるな。俺を信じてくれ。信じられないなら沙久羅の能力で俺の思いを聞けばいい」
そう言うと沙久羅の手を強く握った。
能力者同士は接触テレパスだとしても触れただけでは感情を聞くことはできないが、沙久羅の能力はあまりにも高く、殆どの能力者は触れるだけで聴きとれてしまう。沙久羅も分かっているからこそ、あえて触れないようにしていた。
耀は聞こえるように心を開き、沙久羅に聞かせようというのだ。
「やめて、耀」
もう、心を覗くことなんてしたくない。
懇願するように沙久羅は手を離そうともがいた。
「きいてくれ、沙久羅。君を信じている。他の誰よりも、パートナーとして」
耀の言葉に嘘偽りなどなかった。心の奥底から聞こえてくる声がそう告げている。そして、自分をどう思ってくれているのかも、理解してしまった。
「…無茶しなくていいのに。解った。ありがとう」
沙久羅は顔を赤らめて、耀を見上げた。
「聞こえすぎだよ。恥ずかしい。それに、私ファーストキスだったんだよっ」
沙久羅は少し乱暴に耀の手を振り払って言った。まだ顔は赤く火照っている。
「…えっ、あ、うわっごめん。…でも、俺もだよ」
耀は沙久羅の言うことを遅ればせながら理解し、沙久羅よりも赤い顔をして、顔を背けた。
「これで解ってくれただろ?軽蔑なんてしてない。君を大事にしたいとは思っているけどね」
耀は少しだけ沙久羅の方を向いて髪を撫でた。
「うん。解った。もう、何も言わない。疑うことはないよ」
沙久羅は自分の髪を撫でる手を止めて軽く握った。
「…良かった。じゃ、お休み」
「うん、おやすみなさい」
耀の手を離して、沙久羅は言った。
ありがとうございました。




