12話
沙久羅が他人を拒む理由がわかります。
よろしくお願いします
二年前、沙久羅は中学校までは普通の公立の学校に通っていた。
そこではたった一人、沙久羅の友人だけが彼女の特殊能力を知っていた。触れることでその人の思考が解ってしまう接触テレパス。独学で覚え始めていた黒魔術の事も知っていた。
沙久羅と一緒に彼女も魔術を覚えていった。彼女の方が自分よりも才能があったのか覚えるのも早かった。
まだ幼い二人の魔術師は限界を知ることもなく、色々なものを試していった。
沙久羅はだんだんと彼女の能力の開花に恐怖を覚えていった。特にめざましかったのは召喚術。精霊召喚や小さな悪魔召喚はお手のものだった。
「沙久羅、今度悪魔召喚をやるの。来てくれるよね」
彼女は有無を言わせない迫力を持っていた。研究に研究を重ね、学校にもぎりぎりしか来なくなった彼女はしばらくぶりに会って一言沙久羅に言うとまたいなくなってしまった。
携帯に詳細が送られてきて、いつものように沙久羅が行くと、召喚は始まっていた。
「遅いじゃない。もうすぐ来るわ」
彼女はちょっと沙久羅を見ただけでそう言うとまた魔法陣に向かった。遅まきながらその魔法陣をみて沙久羅が驚愕した。
「ちょっと、その魔法陣は…!」
「あら、沙久羅にはわかっちゃうんだね。私は沙久羅のように黒魔術には能力がなかったから、召喚に頼ることにしたの。だから、もっと強いものが必要なんだよ。沙久羅の友達でいるためにはね」
沙久羅が気づいたことに嬉しそうに言う彼女は何処かおかしくなっているような陶酔した表情をしていた。
「契約するの。小悪魔じゃ、あなたとは対等でいられない。だから悪魔の中の悪魔、サタンとね」
「馬鹿なことを。美菜、やめて。サタンは普通の人間が御せる者じゃないわ」
沙久羅は何とか止めようとした。
「駄目よ。高位の悪魔じゃなきゃいけないの。契約して、あなたと対等になるの。邪魔しないで」
少女は聞く耳も持たず、続けた。
『我を求めるのは汝か?』
そうこうするうちに召喚されたものは現れた。
「私よ。美菜が命じます。我が力とならん」
『ほう、そなたの求めに来てみたが面白いものがいたな』
悪魔とはいえ美しすぎるその容貌に美菜も沙久羅も気を取られてしまっていた。
『契約してやろう。そなたの命と引き換えにな』
悪魔はそう言うと美菜に襲いかかった。
「なっ…なんで?」
信じられないものを見る目で美菜は聞いた。
『我は我が力よりも弱きものを許せぬ。そなたもまた然り。まあ、我を召喚するまでの力はあったのだからそれは褒めてしんぜよう?』
悪魔は楽しそうに答えた。
「逃げて、沙久羅」
美菜は思い出したように後ろにいた沙久羅を突き飛ばした。
「美菜?」
「ごめん、こんな言葉で沙久羅に許してもらえるなんて思えないけど、私は自分の力を見誤っていた。これがつけね」
美菜は苦笑して沙久羅を見下ろした。
『別れの言葉はすんだか?』
悪魔はにやにやと笑って言った。
「待っててくれたの?ずいぶんお優しい悪魔なんだね」
美菜は不敵な笑みを向けた。
『良い顔をするではないか。そなた、我の花嫁に加えてやっても良い』
「ご遠慮願うわ。あなたにこの心を渡すわけにはいかないもの。私の命と引き換えにあなたをこの世界から還してあげる」
美菜はそう言うと呪文の詠唱に入った。
『ほう、度胸もなかなか。まあ、ここは大人しく従ってやろう』
悪魔は美菜の詠唱を受け入れ、消えた。
「美菜!」
詠唱が終わると美菜は力尽きて倒れた。
「怖い思いをさせて、ごめんね。私はこのまま命をあの悪魔に渡さなくちゃならない。あなたは幸せになって、私の分まで」
美菜は沙久羅の頬を精いっぱいの力で手を挙げて撫でた。急速に奪われていく体温が沙久羅にも分った。
「やだ、逝かないでよ、美菜」
沙久羅は叫んだが美菜は首を横に振った。
「彼が迎えに来たわ。もう、逃れられない」
そう言うと美菜は力尽きた。
「美菜!」
『そなたも見目麗しい。我が嫁に相応しいが、いかんせん新しい嫁がうるさそうでな、そなたは諦めようぞ。だが、あやつの願いを一つだけかなえてやろう。力強き魔術師の能力を分けよう。友の死と引き換えに与えようぞ』
悪魔はそう言うと有無を言わせず沙久羅の額に触れた。
「やだぁ」
沙久羅はできる限りの抵抗をしてみせたが、相手はあまりにも強大な能力の持ち主だった。
『そなたは友の死と引き換えにその力を手に入れたのだ。努々(ゆめゆめ)忘れるでないぞ』
悪魔は嬉しそうにそう言うと消えていった。
ありがとうございました。




