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033.Everything I Do Gonna Be Funky

 米帝のゴシップ誌に掲載されても、知り合いからヒーロー認定されてもシンの日常は全く変わらない。

 長身で整った容姿のシンと美少女のエイミーの組み合わせは街中でも人目を惹くが、中華連合の残党が一掃された今となっては二人は単なる学生でしか無いのである。


「えっ、『プライベートシアターの日』って何ですか?」


「Congohは大手映画会社とコネクションがあるから、各拠点でデジタル上映作品を先行して試写させて貰えるんだよ。

 Tokyoオフィスのプライベートシアターは規模は大きくないけど、普通の映画館と違って大きなソファで自由に飲食しながら見れるからとっても快適だよ」


「???」


「そういえば……エイミーを市井(しせい)の映画館に連れてったことが無かったなぁ。

 ポップコーンを頬張りながら映画を見る醍醐味とか、上映中の雰囲気とかも知らなくて当然だよね」


「はい。映像作品は色々と見てますけど、映画館という場所で見たことは無いです」


「通学に使っているイケブクロのあの大通りには、映画館が沢山あるのに盲点だったね」


「看板が沢山あるのが不思議だったんですけど、あれが映画館だったんですか」


「ハナとトーコはどうする?」


「私はシンが参加するなら、同行しますけど」


「作品次第ですね。確かTokyoオフィスの上映会は、ニホン語字幕が無いんですよね?」

 英語が苦手なトーコは、字幕が無い作品は苦手なのである。


「うん。殆どの作品は米帝語版だけど、そんなに難解な文芸作品は上映しないから心配は要らないと思うけど」


                 ☆



 Tokyoオフィスの地階。


 プライベートシアターは小さいとは言っても、200席規模のミニシアターと同じサイズのスクリーンが設置されている。

 ただし席については大きなソファが点在して置かれているだけで、かなり贅沢な空間の使い方である。

 席の後方には飲み物のディスペンサーとポップコーンマシン、スナック類の保温ケースがずらりと並んでいる。


「フウさん、今回はピッザの枚数が大分少ないんですね」

 シンは宅配用ピッザと同じ白箱が、20枚ほど積み重なっているのを目にする。


「ああ、マリーがハンバーガーを大量に作ったから、こっちは枚数を減らしてるんだ。

 あとユウが巻き寿司と、いなり寿司を仕込んでるから、スナック関連はこんな物で良いかなと」

 保温ケースの中には、白地のラッピングペーパーで包まれたハンバーガーとフライドポテトがずらりと並んでいる。


「ああ、このポップコーンマシーンも久々ですね」


「これが無いと、映画館の雰囲気が出ないからな」


 シアターのソファに収まっているのは、Tokyoオフィスの面々と寮生一同、そして入国管理局の別働隊のメンバーである。

 最近姿が見えないベックはフウのコネを使って米帝の海兵隊へ研修に出ているようで、学園にも顔を出していない。

 


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎



「暗くした空間の大画面で見るのは、明るいリビングで見るのと大分印象が違いましたね」

 上映終了したソファで、エイミーが満足そうに呟く。


「映画館だと、さすがにこんなにスナックのバリエーションは無いけどね」

 自分はほとんど食べ物を口にせずに、周囲に気を配っていたシンがエイミーに答える。

 フウがお気に入りである高級ソファに、ドリンクでも(こぼ)されると後始末とクリーニングが大変なのである。 


 ちなみにマリー自作のハンバーガーは大好評で、保温器には僅か数個しか残っていない。


「ねぇユウ、余ったピッザとか、お寿司を持って帰って良い?」


「ああ、いつもの大型クルーザーで来てるなら楽に積めますよね。

 駐車場まで運ぶのを手伝いますけど、できるだけ早く食べて下さいね」


 アサカでケイ達のためにまかないを作ったこともあるユウは、料理が苦手な彼らの食生活がパターン化しているのを知っている。

 間借りしている陸防の隊員食堂は余ったレーションを再利用しているので悲惨な味だし、近所には大手のファミレスが数軒あるがもう全てのメニューは食べつくして飽きてしまっているのだろう。最近はコンビニの弁当が多いとパピがぼやいているのを耳にしているので、とても持ち帰りは遠慮してくれとはユウの口からは言えないのである。


「誰か料理の上手い新人を入れるとか、考えてないんですか?」


「お前がそれを言うか!」

 ケイが苦笑いしながらも、ユウに対して遠慮無い非難の声を上げる。


「……すいません」


「ゴホンッ。

 まぁ最近はシン君も良くしてくれるし、そんなに食生活が悲惨だというほどでは無いが……やっぱり手作りの食事が恋しいというのはあるな」


「ねぇケイ、アサカを引き払って、学園寮に引っ越せば良いんじゃない?」


「……」


「最近はヘリに乗る緊急出動も無くなったし、シンが近くに居れば一人を運搬するだけならヘリよりも速いじゃん。

 それに(防衛隊OBである)管理人さんが居れば、火器とか弾薬の管理も問題ないし良い考えだと思うんだけど」


「シン君、寮の空き部屋ってどの位あるのかな?」

 ケイが真面目な表情でシンに尋ねてくるのは、パピの思い付きを真剣に検討しているのだろうか。


「今はツーフロア分がまるまる空いてますよ。

 セキュリティの問題が出てくるので民間には貸せないし、校長先生も困ってるみたいですけど」


「よし。さっそくキャスパーに話してみようか」


「えっ、マジで?」

 パピは自分のふとした思い付きが検討されると聞いて、驚いた表情である。


「別にシン君の作る食事とか温泉目当てじゃないぞ。

 移転は前から考えていたが、都内で相応しいセキュリティを施した物件となると到底賃料を払えないからな。

 あの寮は現状でもセキュリティが万全で、キャスパーの警護を考えると都内に拠点がある方が合理的だし」



                 ☆



 Tokyoオフィスからの帰路。


「なんか話が急展開してますね」


「うん。ユウさんの話だとアサカの官舎は取り壊し寸前の古い施設だし、不便なのは確かみたいだしね。

 風呂もシャワーすらちゃんと使えない旧式みたいだし、パピさんのボヤキも理解できるかな」


「あの二人が身近に居てくれたら、とっても心強いよね」

 ルーは二人の歩兵としての高いレヴェルを知っているので、客観的な意見を述べる。


「まぁお役所の仕事だから、そんなに急に引越しとかのイベントは起きないと思うけどね」



「……ああそうだ。

 折角メンバーが全員揃ってるから、普段食べないものを外食してから帰ろうか?」


 シンがいつもの寮に向かう帰り道から逸れて、大通りから駅方面へ向かう道を歩き出す。


「ええっ、お留守番のシリウスが可愛そうじゃないですか?」


「シリウスが今一緒に居てもニホンの飲食店では店にすら入れないし、まして一緒に食べるのも絶対に無理でしょ?

 テイクアウトして料理を持って帰ってあげた方が、彼女は喜ぶんじゃないかな」


 雑居ビルの1階に入ってる赤暖簾の店の前で、シンが立ち止まる。


「『お好み焼き』ですか?」

 ニホンで生まれ育ったトーコは、看板に飾られているコテのオブジェを見て声を上げる。


「うん。このメンバーで、トーコ以外に『お好み焼き』を食べたことがある人は?」

 シンは返答が無いのを確認してから、暖簾をくぐって真っ先に店に入っていく。


 入り口が木戸になっているその店舗は、シン一行には馴染みが薄い純和風の店構えである。

 威勢の良いいらっしゃいませの声を聞きながら、一行は大人数用の円卓テーブルに案内される。


「えっと、肉玉そばを2つ、1つはハーフで。あとデラックス焼きを3つ下さい」

 シンはメンバーの希望を聞かずに、先にオーダーを入れてしまう。

 以前に数回この店は利用しているので、メンバーの嫌いな食材が無いのも当然考慮済みである。


 トーコ以外はいかにも外国人という風貌の一行だが、シンの流暢なニホン語の注文を聞いてオーダーを受けている店員さんもほっとしたようだ。

 外国人の観光客が多いイケブクロでも、彼らが食べ慣れないメニューについて説明するのはかなりの負担なのであろう。

 カウンターの大きな鉄板では、早速シン達の注文が手際良く調理開始されている。


「シン、私お腹が空いてるので、一人前でも大丈夫ですよ」


「うん、分かってる。ハーフサイズは小食なトーコの分だから。

 ここのお好み焼きはボリュームがあるけど、ルーは足りないかも知れないから追加で好きなのを頼んでね」


「シン、喉が渇いたから何か軽い飲み物が欲しいな」


 ここが寮ならば間髪を入れずにビールなのであるが、折角の外食なのでシンはルーには馴染みが無いだろう飲み物を注文する。


「すいません!

 生絞りレモンサワーを3つと、ジンジャエールを2つ追加で」

 シンが堂々と行ったアルコール飲料の注文だが、シンが実年齢よりも上に見えるのか注文は何のお咎めも無く席に届けられる。

 寮では欧州の基準で許可されているビールを日常的に飲んでいるので、アルコール飲料に対してのニホンの法律をシンはすっかりと失念していたようである。


「あっ、エイミーそっちはアルコールが入ってるから駄目だって!」

 エイミーは自分の前に置かれたジンジャエールを、いつの間にかシンの目の前のジョッキと入れ替えて美味しそうにグビグビと飲んでいる。


「えっ、そうなんですか?

 絞りたてのレモン果汁が、とっても美味しいですよ!」

 アルコール度数が低いのか、エイミーは全く顔色も変わっていない。


「お待たせしました!」

 円卓のテーブルの上に、保温のための丸いステーキ鉄板に乗せられたお好み焼きが次々と並べられていく。

 シンとトーコはシンプルな肉玉だが、他のメンバーはよりボリュームがあるデラックス焼きである。

 食べやすいようにあらかじめ切り目が入っているのは、鉄板では無くテーブルの上なので食べやすいようにとの配慮なのだろう。


「これが『お好み焼き』っていう食べ物なんですか?」

 米帝育ちのハナには、もちろん生まれて初めて目にするメニューだろう。

 大量のネギとソースが塗りこまれた地味な色合いのパンケーキのようなものに、ハナはかなり戸惑っているように見える。


「うん。これはヒロシマ風お好み焼きっていう、一つのジャンルなんだけどね。

 カンサイ風とは違って、小麦粉の生地を食べるというより焼きそばとキャベツがメインの料理だから」


「あっ、かなり味付けが甘めなんだね!

 このたっぷり塗られてるのは、いつも寮で揚げ物にかけているあの中濃ソースと同じものなの?」

 ニホン食にすっかりと適合しているルーは、なんの躊躇も無く箸を器用に使って食べ始める。


「うん。種類としては同じだけど、これはお好み焼き用に調整されている専用のソースなんだ」


「どろっとしていて、甘みが強いんだね。でも大量のネギがあるから、さっぱり食べられるなぁ」


「シン、これってパスタ・フリッタータみたいですね。

 でも小麦粉とか卵の量が少ないから、焦げ目がついたこの麺も香ばしくて美味しいです!」

 食べ始めたハナは地味な外見はともかく味は気に入ったようで、シンも一安心である。


「ああ、確かに卵と生地でまとめてるから、調理法については近いかも知れないね。

 トーコ、量が少なすぎたかな?」


「いえ、これでも多い位です。

 ボリュームはともかく、味は気に入りました」

 トーコは箸を使わずに配膳された小さなコテを使っているので、何度かお好み焼きを外食した経験があるのだろう。


 オムライスやソース焼きそばが好物であるエイミーは、味に何の違和感を感じずに食べ続けている。

 食べながらもレモンチューハイをしきりと飲んでいるのは、シンにとって唯一の不安材料なのであるが。

 

「ねぇ、シンはこういうお店をどうやって探してるの?

 姉さん(マリー)と良く外食するんだけど、新規のお店はハズレが怖くてなかなか入れないんだよね」


「僕はニホンに来たばかりの頃は、ニホン語を覚える以外には時間を持て余してたからね。

 知っているニホン食はオムライスとか寿司位だったけど、市販のグルメマップを見ながら片っ端から食べ歩きをしてたんだ」


「言葉も出来なかったのに、すごい度胸ですね」

 ほんのり顔が赤くなったエイミーが、関心したように呟く。


「お店の人に変な顔をされる時もあったけど、基本的なマナーとかも失敗しながら学んでいったんだ。

 飛び込みで色んな店の人と話をするようになって、ニホン語もどんどん上達したしね」


「おねえさん、MEGA焼き一枚追加で!」

 ルーが前歯に青のりをしっかりと付けたまま、店員さんに追加注文を入れる。


 文句無しの美少女であるルーのその姿を見て、店員さんは満面の笑顔で注文を受け付ける。

 きっと吹き出しそうなのを、懸命に堪えているのだろう。


「でもルーの適応力には、僕も適わないかも知れないなぁ」

 早々とデラックス焼きを食べ終えたルーを見ながら、シンは感心したように呟いたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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