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022.Searchin' for Understanding

 エイミーとの欧州巡りは、多忙なスケジュールの合間を縫って続いていた。

 彼女はユウの格闘技と料理の一番弟子になっているのでそれらが最優先なのは勿論だが、半日でも空いた時間を有効に使えるのはシンのジャンプのお陰である。

 だがシンが寮の他のメンバーを放置しているかと言えば、そんな事は無い。

 朝食や夕食はエイミーの手も借りながらだが相変わらずシンが作っているし、深夜のリビングでルーやハナとビールを飲みながら話し込んでいる事も多い。


                 ☆


「ルーは、欧州では色んな場所に行ったことがあるんだよね?」


「うん。まぁ傭兵仕事(ダーティーワーク)が殆どだったけど、長期滞在した国も結構あるよ」

 シンが彼女専用の夜食に作った割包(グーパオ)風サンドイッチを頬張りながら、ルーは幸せそうな表情で答える。


 ちょっと前の事だが、作りすぎて余っていた東坡肉(トンポーロー)を思いつきでサンドイッチの具材に流用した所、脂身の旨さが分かるルー一人だけがその味を絶賛してくれた。

 煮汁を甘辛く煮詰めたソースとマヨネーズを組み合わせた味付けは、ローストビーフやBLTのサンドイッチとは一味違う美味しさがあるとシンは密かに自信があったのだが。

 それ以来、日持ちする東坡肉(トンポーロー)はルーお気に入りの常備菜として、冷蔵庫に絶えずストックするようにシンは心掛けているのである。


「何処か行ってみたい場所ってある?」


「それなら、ニホン国内をもっと旅行したい!

 特に食事が美味しい温泉旅館とかに泊まって、ずらりと並んだ珍しい料理を堪能してみたいな」

 何杯目かのパイントグラスを空にしながらも、相変わらずルーは全く酔った様子が無い。

 ちなみに大量にあった平皿の上のサンドイッチは、ルーが既に完食している。


「ああ、温泉はいいね!空いた時間で一緒に行ってみる?」


「えっ、エイミーに怒られないの?」


「逆だよ。寮のメンバーをほったらかしにするとエイミーに叱られちゃうからね」


「じゃぁガイドブックを見てチェックしておくよ!

 楽しみだなぁ、シンと一緒に温泉に入るの!」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「行ってみたい場所ですか?

 この間テキサスは一緒に行きましたから……国内でシンと二人でキャンプなんて良いですね!」


「ああ、でもキャンプ好きなメンバーが多いから気がついたら大人数になりそうな気がするなぁ」


「ニホンのシュウガクリョコウみたいで、それも楽しそうですよね!」


「ああそうだ!Congohトーキョーには改造した大型のツアーバスがあるんだよ。

 あれなら10人位のメンバーで、バス旅行が楽しめるよ!」


「それは良いですね!

 それに温泉も皆で入れたら、楽しいでしょうね」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「トーコは気分転換に、どこか行ってみたい場所ってある?」

 コーディングの締め切りで部屋にこもりきりの彼女へ、夜食のフレンチトーストを運んで来たシンが声を掛ける。

 作業に煮詰まって天井を見つめながら足をぶらぶらさせていた彼女は、シンがサイドテーブルに置いたフレンチトーストを見て目を輝かせる。


「私が外出を嫌いだって、知ってて言ってますか?

 でもシンと二人きりで行けるなら……モゴモゴッ」

 あっという間に皿を手に取ったトーコは、黄金色の焼き色がついたフランスパンを大きく口に頬張る。

 牛乳ではなく生クリームと卵で作ったフレンチトーストは、彼女の大好物なのである。

 口に広がる柔らかい触感とたっぷりかかったメープルシロップの甘味で、トーコの険しかった表情も蕩けるように柔らかくなっている。


「ああ、ジャンプで行く場合は同行できるのは一人だけだから、当然二人きりだけどね」


「二人きりでシンと旅行……ふたりきりで……ふぐっ!」


「ああ、トーコまた鼻血が出てるよ!」



                 ☆


 寮の早朝。


 今朝も習慣になっているトレッドミルで、シンとエイミー、そしてシリウスは走っている。

 エイミーは体が急速に出来つつあるので、膝を傷めないように気をつけながらも今やシンと同じ距離をこなしている。

 シリウスのトレッドミルの設定は、シンよりも高速でありそして距離も長い。


 タオルで汗をぬぐいながらエレベーターに乗り込むシンに、エイミーはプリントアウトしてあった目的地の書かれている小さなメモを渡す。


「シン、至急行ってみたい場所があるんですが」


「バスク地方のスペイン国境の近く……ずいぶんと田舎だね。周りに観光できそうなものは無さそうだけど」


「小さい修道院跡があります。滞在時間は短くて良いですから、できるだけ急いで行きたいんです」


「了解。今日の午後は空いてるよね?」

 エイミーの真剣な表情を見て、シンはすぐに同意をする。

 彼女は決して誇張や大袈裟な表現は使わないので、本当に急を要するのだろう。


「はい!大丈夫です」


                 ☆



 午後。


 シンの亜空間ジャンプは移動中はレーダーに捕捉されないが、スローダウンした重力制御での移動はレーダーに映る可能性がゼロでは無い。

 欧州の防空圏は入り組んでいて複雑なので、国境付近でスクランブルがかかるとかなり厄介な事になるだろう。

 出来るだけ目的地まで接近した後に、レーダーを避ける為に高度を下げて移動した二人は目的地である場所にようやく到着する。


「建物が荒れ果ててるね。

 フランス側だから、この辺りで内戦とかは無かったと思うけど……」


 年期の入った建物は、すでに廃墟の段階を通り越して崩れ落ちる寸前である。

 礼拝堂があったと思われる部分は、すでに天井も崩れていて近寄るのも危険な状態だ。


「シン、こっちです」


「これは……すごいな」

 敷き詰められている石畳が、ある地点からまるで巨大な石材カッターが使われたように放射状に綺麗に削られている。

 大規模な爆発ではこういう状態にはならないので、既存の兵器では無い『何か』が使われたのだろう。


(あれっ、こういう光景を最近みた事があるような……そうだ!あの時の建物の跡と同じだな)

 シンは最近マリーと行った、夜間作戦の光景を鮮明に思い出していた。

 エフリクトで排除された雑居ビルの跡は、こんな感じにコンクリートの地肌を晒していたような気がする。


「シン、こっちです!この辺りの地中に、探しているものがあると思います」


「品物の大きさは?」


「5cm位の楕円で平べったい物だと思います」


「エイミー、ちょっとホコリっぽくなるから、口をハンカチで押さえていて」


 シンは重力制御を使って、5メートル四方の土を地中から持ち上げる。

 持ち上げた粘土質の土塊は、少し離れた場所に静かに下した後に細かく粉砕していく。

 細かくなった土塊の中には石礫や樹木の腐った根が大量に含まれているが、シンはその中に小さな人工物の存在を確認する。


「何か光るものがあるね」


 シンは制御を止めると、土片から白っぽい物体を拾い上げてエイミーに手渡す。

「カメオ?泥だらけで細部が見えないけど、かなり古そうなものだね」


「これです!

 良かった、無事に見つかって」


「これは一体?」


「これはマリーさん(ゆかり)の物です。

 なぜかこの間ボナさんにお目にかかってから、より明確に『これ』の存在が見えてきたんです」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 Tokyoオフィス近隣の商店街。


「へぇっ、これはヨーロッパ産のかなり古いものだね。

 さすがエイミーちゃんだけあって、持ち込んで来る品物もハイクラスだなぁ」


 エイミーが贔屓にしているアンティークショップの店主は、持参したカメオを見ると迷うことなく出自を言い当てる。

 商店街のはずれに位置するこの店は、こじんまりとした店構えから想像できないほど大量の骨董品が並んでいる。


 エイミーがこの店を頻繁に利用するようになったのは、商品を眺めてみて店主の目利きが信用できるのがすぐに分かったからである。

 見るだけで物の来歴が分かってしまうエイミーにとって、イミテーションやフェイクが見当たらないこの店はとても居心地が良く興味深い場所なのである。


「枠とチェーンを付けて、ブローチに加工したいんですけど出来ますか?」


「ああ、勿論出来るよ。素材はシルバーで良いのかな?」


「いいえ、できれば頑丈な方が良いのでプラチナで出来ませんか?」


「プラチナだと、かなり高額になるけど大丈夫?

 もっともこのカメオの希少価値から言って、相応しいとは思うけどね」


「ええ、大丈夫です。

 チェーンも細目で頑丈なプラチナでお願いします。長さは短めで大丈夫ですから」



                 ☆


 数日後のTokyoオフィス。

 いつものように報告に訪れていたシンとエイミーだが、マリーの姿をリビングに見つけたエイミーが彼女に近寄っていく。


「マリーさん、これ」


「なあに?」

 マリーより小柄なエイミーは、彼女にとって特に可愛がっている妹分2号でもある。

 他のメンバーには突っ慳貪(つっけんどん)な口調の彼女も、エイミーに対しては当たりが自然と柔らかくなるのである。


「マリーさんが昔、失くした物です」


「?」

 マリーは手渡されたビロード地の宝飾ケースを開く。

 そこにはプラチナの台座で固定された、カメオのブローチが収まっていた。

 大理石素材のカメオには、見事な意匠で柔らかく微笑む女性の顔が刻まれている。


「…………」

 怪訝な表情でエイミーを一瞬見たマリーだが、ブローチをじっと見つめながら何か考え込んでいる様子である。

 首を傾げながらじっとブローチを凝視する様子は、普段の彼女には見られない真剣な表情だ。


 思い出せそうなのに、思い出せない。

 もどかしそうな葛藤の感情が表れているマリーの顔から、涙が一滴流れ落ちる。

 涙はカメオの表面にぽつりと流れ落ち、刻まれている女性の顔を潤ませる。


「あれっ?……」

 自分で意識せずに零れ落ちる涙に、マリーが戸惑った表情を浮かべる。


「マリーさん、ちょっとの間動かないで下さいね」

 彼女に近づいたエイミーが、その小さな掌をマリーの額に近づける。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「エイミー、さっきは何をしたの?」


「あのカメオに『残っていた記憶』を、エイミーさんに戻しました」


「『残っていた記憶』って何?」


「持ち主の強い思いが込められた品物には、記憶が刻み込まれて残るんですよ」


「えっ、エイミーにはそれが分かるの?」


「はい。見たくないものが見えてしまう場合もありますから、普段は封印している能力ですけど」


「古い品物にはそういう事があるんだ……あれっ、もしかしてレイさんから譲ってもらったあのギターにも記憶が残ってたりして」


「いいえ。あのギターには、何も残っていませんね。

 デッドストックだとレイさんが言われてた通り、殆ど弾かれていませんし」


「じゃぁマツさんの所にあった、あの古いギターは?」


「……シン、世の中には知らなかった方が良かったと後悔する場合もありますけど。

 それでも、聞きたいですか?」

 意識して出した低い声で、エイミーがまるで怪談を語るような口調でシンに答える。


「う、ううん、やっぱり遠慮しておくよ」

 日常で怪現象に触れることが多いシンであっても、呪いのギター?に秘められた来歴を聞くのは流石に躊躇いがあるのだろう。


「え~そうですか」

 ニッコリと満面の笑みで答える彼女の表情から、今のは冗談だったのかまるで判別できなかったシンなのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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