037.In Some Other World
「思ったより希望者が居ないんだよ。
まぁいきなりやってきた、アキラの実績を皆知らないから仕方がないんだけど」
健康トレーナーとして基地在住者への紹介を済ませた司令が、反響の少なさをぼやいている。
「Tokyoオフィスの誰かに、推薦を貰えれば良かったんだけど。
こればっかりはね」
「いや、やることが当面出来たんで別に良いですけど」
ユウやシンからの強い推薦で、アキラは現在厨房のヘルプに入っている。
あっという間にコック達の信頼を得たアキラは、中華料理のメニューについてアドバイスをしている。
特にお手隙にアキラが調理したチャーハンは、口コミで行列ができるほどの人気になっていた。
「炒飯は定期的に注文されるメニューだけど、こんな人気になった事はなかったよ。
それも口コミだけで、この状態だからね」
厨房ではアキラに教えを請おうと、大勢の中華系のコックが集まっている。
アラスカベースの厨房もやはり女性比率が高いので、話しかけやすいアキラは適材と言えるかも知れない。
シフトの休憩時間。
「肩こりですか?」
アキラとシフトが重なる事が多い彼女は、タイワン在住経験もあるヴェテランである。
「ああ、最近は鍋ふりで大量に炒めるのが厳しくなってきてね。
中華担当を暫く外して貰おうかと思って」
「皆さん僕が此処に来た理由を、忘れちゃってるみたいですね。
ちょっと肩を触っても良いですか?」
「おいおい、いきなりセクハラかい?」
「姐さんはとっても綺麗ですけど、僕の奥さんに怒られますから肩以外は触りませんよ。
どうです、少しは楽になりましたか?」
「そんな短時間で効果は……あれっ、肩が痛くない?」
「この効果は一時的なものですから、治療を継続させて貰えば嬉しいですけど。それじゃ食堂のチーフに、チタンの中華鍋を導入するように進言しておきますね。
⁎⁎⁎⁎⁎⁎
翌日。
新しい中華鍋の相談の後、続けてアキラは食堂のチーフと雑談をしている。
「チーフ、冷凍庫に鳥の胸肉がタブついてるみたいですけど、使って良いですか?」
「ああ、構わない。保管を続けて無駄にするよりは、何かのメニューにして貰ったら助かるよ。
それで何を作るんだい?」
「食堂のメニューに無いようなので、タイワン風のフライドチキンを作ろうかと」
「ああ、雞排か。それは良いかも。
人気が出てくれれば、鶏肉の無駄もなくなるし。
でも衣になるキャッサバ粉って、在庫してたっけ?」
「それは師匠が、他の用事のついでに届けてくれるそうです。
それにしても、フライドチキンとかハンバーガーがメニューに無いのが不思議ですよね」
「研究者の高齢化が進んで、このベースで生活している子供もゼロなっているからね。
需要が減ったから、ファストフード系のメニューが、すたれて来ちゃったのかも」
「チーフ、もし雞排がレギュラーメニューに出来ればチキンサンドも出来ますよ。
ボリュームのあるサンドイッチメニューがありませんから、人気が出るかも」
「そうだな。BLTだけだと飽きちゃうから、選択肢が増えるのは良いかも知れないな」
☆
コック達の健康管理から始まったアキラの診療だが、アキラも作る中華と同じで地道にファンを増やしていた。
「チーフ、試食をお願いできますか?」
「おおっ、見事に揚がった雞排だな。
うん!衣もサクサクで旨いっ!」
「問題点はボリュームがありすぎて、食べきれないかも知れません」
「ああ、ハーフで切り分けて出す必要があるかもな。
仕込みの手間は大変なのかな?」
「いいえ。下味の付け方は、ほとんど鶏の唐揚げと同じですから難しく無いと思います。
五香粉控えめの味付けも、師匠から教授されてますので、癖も少ないですし」
「ああ、なるほど。
久しぶりに食べたにしては、味付けが食べやすいと思ったのはその所為か。
アキラ、その顔だと、他にも新メニューの予定がありそうだな」
「ははは、分かりますか?
実はこれもファストフード寄りなんですけど、包子も出せたらなぁって考えています」
「おおっ、それは良いかも知れない。
このベースは通年で寒いから、蒸籠で暖かくした肉まんは食事以外の間食で人気が出そうだな」
「ニホンのコンビニでは肉まんとかをウォーマーケースに入れて売ってるじゃないですか?
中華街みたいに蒸籠で蒸しながら売るのが理想ですけど、販売方法も色々と考えられるので」
「スナック的な食事は力を入れて来なかったから、良いアイデアだな。
アキラはスポーツトレーナーと同じ位、商才があるのかも知れないな」
お読みいただきありがとうございます。