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035.Reunion

 夜半のアキラの学習?は、少しだけ様変わりした。

 その違いは、膝の上に鈍い銀色をしたギターが抱えられている点である。


 時事ニュースを見ながらも、アキラの両手はギターから離れる事は無い。

 アキラが手にしたヴィンテージ・リゾネーターはかなりの音量が特徴だが、女性陣の寝床は防音がしっかりしているので特に問題は無い。時にコピンがアキラのギターを子守唄にして熟睡したりしているので、広いリビングでは喧しいというほどの音量では無いのかもしれない。


「アキラの弾いているオリジナル曲?って、ブルーズでも無いしハワイアンぽくはあるけど、不思議な音楽だよね」


 夜半にやって来たノエルは、アキラのギターをBGMにしてグラスのビールを煽っている。

 アキラがリビングにビールサーバーを導入してから、ノエルは此処で飲む機会が増えているような気がする。


「ほら、僕の故郷の音楽って、誰にも知られてないから。

 平和で穏やかな土地柄が、ハワイぽいかも知れないけどね」


「帰りたいと思う?」


「僕の一族はバステトと同じで、住んでいる惑星がいつでも故郷だからね。

 母星でも里帰りした人って、見たことがないよ」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「次回のセッションに、顔を出してくれると、タケさんが喜んでくれると思うけど」


「いや僕が演奏する側に回るのは、場違いでしょ?」


「いやぜんぜん。最近のアキラの練習風景を聞いたレイさんは、ぜひ出てほしいって言ってるみたいだよ」


「SIDから夜半の練習をストリーミングして大丈夫かと聞かれたけど、まさか本当に聞かれていたとは。ちょっと……考えせさて欲しいかな」


                 ☆



 数日後、アキラの自宅に夜半、シンが訪ねてきた。

 ジャンプ能力を保持していない彼としては、珍しい訪問である。


「いやぁ、リゾネーターの件も放ったらかしで悪かったね」


「いえ、とんでも無い。

 あんなに希少なものを譲っていただいて、感謝しかありません」


 アキラから見れば、シンは自分の師匠の兄貴分に当たる。

 いままで直接のコンタクトは無かったが、やはり丁寧に対応する必要があるだろう。

 時間が遅いので、シンはグラス生ビールと、手早く作ったポキでレイをもてなしている。


「いやぁ、このポキ素晴らしく美味いなぁ。

 アキラの味覚は、音楽の才能と同じで底が見えない素晴らしさだね」


「お褒めいただいて光栄です。

 これ実は、ユウさんから教わったレシピなんですよ」


「ユウ君が言ってたよ。

 アキラはレシピ以上に素晴らしいものを作るって。

 たぶんアイさんと同じような能力があるんだろうね」



「あの不躾な質問かも知れませんけど、あのライブラリの16mmフィルムはもしかしてレイさんご本人が撮影したんじゃないですか?」


「うん、そう。あのライブラリはCongoh部外者には見れないものだから、一般には知られていないけどね」


「もしかして伝説のブルーズの巨匠に、何人も直にお会いしてるんですよね?

 レイさん自身の存在が、本来なら伝説と言っても良いような気が」


「僕がまだ少年で地元のライブハウスに出入りしてる頃で、たくさんの巨匠に可愛がってもらったんだ。

 ギターの演奏を見てもらったり、いろんなミュージシャンを紹介して貰ったりね」


 ここでレイは、めずらしいちょっと遠くを見るような眼差しを浮かべている。


「この容姿のまま、レイ・オールマンとして表舞台に出るのはもはや不可能だけどね。

 こういう話は本当の身内にしか話せないから、アキラ君と話が出来てとっても嬉しいよ」



                 ☆



 数週間後、タケさんが主催するいつものセッション。

 

 基本的にヴェテランミュージシャンしか参加しないこのセッションに、アキラのようなズブの素人が参加するのは珍しい。

 どうやらシンが強く推薦したので、参加要請が入ったらしい。セッションメンバーの多くが知り合いという事もあって、わざわざ反対するメンバーは誰も居なかったのだろう。


「レイさん、タケさん、僕は素人同然ですけど」


「夜半の個人練習を聞いてるかぎりじゃ、素人とは程遠い腕前って誰もが納得してるよ。

 公的な演奏じゃないから、普段どおりやってくれればそれに合わせられるメンバーだから気楽にね」


 レイはいつもの、オフホワイトのストラトを抱えている。

 客席にはアキラのリゾネーターの調整をした、マツさんの姿も見える。


 アキラはバンドメンバーに一礼すると、リゾネーターをスライドバーをつかって弾き始める。

 シンプルなメロディだが、どこか郷愁を感じさせる音色である。


 マツさんによってマウントされたピエゾピックアップは、決してボリュームが大きく無い。

 だがメタルのスライドバーの音色は金属的過ぎずに、心地よい響きに感じられる。

 相当なヴィンテージのリゾネーターだが、アキラの演奏の仕方なのか金属的な音色というよりは、澄んだ音色に聞こえるのが不思議である。


 リズムを刻むヌマさんの表情が、綻んで来た。

 セッション特有の緩い雰囲気が、ライブハウスの空間を満たしていく。

お読みいただきありがとうございます。

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