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029.Can't Get Used To Losing You

お読みいただきありがとうございます。

「このボディに入ったまま、亡くなったんですか?」


「そう。フウやユウにも見守られてね。


 このボディごと埋葬するって手もあったんだけど、ゴーストが消滅してもボディは自立稼働していて元気だったからね」


「たしかにその状態では、埋葬できませんよね」


 馬原は海兵隊の同僚が頭を半分吹き飛ばされても、普通に会話をしていたという経験をしている。


 ヒューマノイドの生命力は、想像しているよりもずっと強いのかも知れない。


「それで遺伝子の持ち主である、私に判断が委ねられたわけ」


「コントロールしているAIって、SIDさんですか?」


「そう。彼女の強いリクエストがあってね。


 彼女は生身のボディを操作するのに、強い関心があったみたいで」


「ナナ、喋りすぎです」


 SIDの長年の想いは達成されたのであるが、それを知るものは当事者である2人だけなのであった。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「もしかすると、アヴァターラボディ?で同じように潜入?してる人が居るんですかね?」


「……さぁ。ヒューマノイドなら標準的な外見は変わらないから、わざわざ精神転送してまで入国するのは割に合わないと思うけどね」


「それは味覚を含めた、感覚部分が理由ですよ」


 アキラからマッサージを受けながら、ソラが呟く。


「「???」」




「精神転送だと、その辺りがダイレクトになりますから。たとえば生物学的にほぼ同等であるヒューマノイドでも、消化出来ない物質があったりすると自由に食事は出来ませんから」


「ああ、なるほど。

 多彩な食事というのも、この惑星の大きなエンターテイメントですからね」


 人一倍食欲に流されがちな曽根が、溜息混じりに呟いたのは紛れもない本音なのであろう。



                 ☆



 翌日のTokyoオフィス。


 本日のメイン・イベントは、ソラとユウの組手である。


 アキラの自宅にも大きなリビングがあるので面積的には可能だが、マットを敷き詰めても軽量構造のタワーマンションの床ではかなり心配なのである。


「あのアキラ、組手を見てると、なんかコマ送りの映像を見てるような気がするんですけど?古武術の縮地ってやつですか?」

 海兵隊でマーシャルアーツの経験がある馬原が、アキラに質問する。


「2人の組手は、ちょっと違いますね。

 まぁソラさんは普段使わない機能を、実戦で使えるかどうか試しているみたいですね」


 お互いのバックを取り合いは、フットワークなどという生易しいものでは無く、まるで空中線のドックファイトの様相である。


 「見方によっては、高度な鬼ごっこですね」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎




 組手が一段落した一行は、リビングで短い休憩を取っていた。


 各々がドリップした好きなコーヒーを味わっていたが、ようやく目が冷めたらしいマリーがアキラの姿を見つけて何か言いたそうな表情をしている。もちろんその表情を、ユウが見誤る事はあり得ない。


「アキラ、昼食を作る余裕はあるかな?」


「ええと、ソラさん用の食事は作る予定だったので。ついでに『チャーハンくらい』なら用意しますよ」


「朝ごはんの残りがジャーに沢山あるから、それを使ってくれる?」


了解(ラジャ)


 アキラはまず、ソラ用のチャーハンを調理する。

 卵だけを使い、ネギすら入っていない超シンプルなチャーハンである。


「うわぁ、卵だけのチャーハンにしては、すごく良い香りがするね?」


「良い卵と、美味しい塩、品質の高いごま油が無いと出来ませんけどね。

 出来立てなら、それなりに食べられますよ」



 食べ始めたソラは、認識できる味覚が少ないので無反応である。

 だが幼い子どもが少しづつ味覚を完成させていく過程と同様に、これに関しては地道に続けるしか無いのである。


 ソラに作った分の残りは、平皿に盛られてユウの前に配膳されている。

 物は試しと蓮華で一口頬張ると、ユウの表情が一瞬にして驚きに変わる。


「ねぇアキラ、これほんとうに卵と塩だけ?」


「そうですよ、そんなに不味いですか?」


 大皿にいつものチャーハンを盛り付けて、満面の笑みのマリーの前に配膳する。


「いや、逆!なんでこんなに美味しいのか、意味不明だよ!」


 もちろん同じ材料を使えばユウが同じようなものを作れるのは当然であるが、この味に出来るかどうか全く自信が無い。


(今度母さんを連れてきて、見てもらわないと)

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