027.Get Out Of My Life, Woman
閑職部署?での内緒話は続く。
「懸案事項が一気に解決して、良かったとも言えるが。
ところでいつも疑問に思っていたんだけど、SIDさんって本当にAIなのかな?」
「会話を聞いていても、ほんの僅かのAIっぽさが無いんですよね」
「そうそう。行動パターンがAI離れしてるというか……」
「それでTokyoオフィスの責任者のフウさんに聞いたら、父親が今居るから、直接聞いてみたらと言われて」
「おおっ、それで?」
「レイさんの居室にお邪魔したら、なんかすっごい綺麗な秘書の人が同席してて」
「Tokyoオフィスの人で、秘書が居るのは珍しいな」
「ええ。それで色々と質問させて貰ったんですけど、その秘書の人の当たりが強くて」
「はぁっ?お前なにかその人が気に触る事を、聞いたんじゃないか?」
「いや、当たりが強いのはレイさんに対してで、私に対してじゃないんですよ」
「う〜ん、ますます分からないなぁ。その人、もしかしてレイさんの奥さんとか彼女とか?
もしかして娘さんという可能性もあるかな」
「そうそう……まるで思春期の娘さんがお父さんに反抗してるというか、そんな雰囲気かと。
それにその娘さんって、どことなくレイさんに似てるんですよね」
ソラがアヴァターラボディであるのも、遺伝子を提供したナナがレイの実母であるのも、二人は全く知らない。
☆
上司との面談を終えた2人は、アキラのバイト先のジムに来ていた。
朝のロードワークをしっかりとこなしている馬原には毎日のジムワークは必要ないが、曽根は朝が弱いのをまだ矯正出来ていないのである。
「あれっ、珍しくアキラが一般会員?につきっきりですね。
ミーナちゃん、あの綺麗な人誰?」
「Tokyoオフィスのソラさんです。
定期的にアキラに身体を診てもらってるので、今週はメンテナンス・ウィークですね」
「あっ、あの人がさっき言ってたレイさんの秘書?さんですよ」
施術が終わったようで、アキラと彼女は和やかに会話をしている。
馬原は彼女と面識が無いので挨拶をしようとするが、ここで笑顔の彼女にやんわりと遮られる。
「私はお二人の事を良く知っていますので、その話は後ほどアキラの家でしましょう。
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アキラの自宅での夕食。
「あれっ、いつもと何かメニューが違いますよね」
「今日はソラさん用のメニューがメインです。専用リハビリメニューですが、どれも普通に美味しく調理されてますので、気にする必要はありませんよ」
「ああ使ってる野菜の種類が、いつもより少ないんですね。
味付けも薄めで、野菜の素材の味が強調されてる。言うならば中華風の精進料理?」
「ソネはいつもながら味覚が鋭いよね。
マリーが褒めるだけのことはあるよね」
「アキラさん、こいつを褒めると調子にのるので、ほどほどに」
「皆さん、すいません。私の嗜好を押し付けてるみたいで」
「ううん、ぜんぜん。アキラの作る料理が、まずいわけはないから。
それに、どれもすごく美味しいよ!」
マイラはいつも通り、元気いっぱいモリモリ食べている。
「もしかして、味覚に何か問題をお持ちなんですか?」
海兵隊時代の同僚が味覚障害を起こした実例を数多く見ている馬原は、深刻そうな表情になっている。
「ええ。この身体はまだ生後間もないので、味覚が育ってないんですよ」
「「????」」
意味不明の返答に、2人はアキラに助けを求めるように視線を投げかけるが、アキラは珍しく首を振って説明を拒否している。
☆
夜半。
CNNが流れるリビングで、パイントグラスを持ったメンバーが寛いでいる。
年少3人組は既に就寝済みであるが、他のメンバーは宵っ張りのショートスリーパーが多いので最近では当たり前の光景になりつつある。
ビールの消費量(空き瓶や空き缶)があまりにも多くなってしまったので、ユウが出入りの業者と交渉してアキラの自宅にも業務用ビアサーバーを設置して貰ったのは先日である。
「ビールの味が、いちばん馴染んでいるみたいですね」
「苦味っていうのは、子供が最初に認識する味覚だと聞いています。
他の味よりはしっかりと判別できように、なってきたみたいですね」
「この自家製コンビーフ?すっごい美味しい!」
「ああそれは、師匠に教わったレシピなんだ。
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