表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
410/426

021.Beautiful

「僕が現役の学生なのが、そんなに意外ですか?」


「うん。初対面から人生経験というか、貫禄がにじみ出ていたからね」


「そういえば、この後体術の授業があるんですけど、見学していきます?」

 校長(ジー)との一瞬のアイコンタクトの後、アキラが馬原に申し出る。

 部外者には軍事色が強いので、普段は見学を断っている授業なのである。


「もしかして、アキラが教えるの?」


「いいえ。

 自分はあくまでもトレーナーで、講師はユウさんですね」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 校内のトレーニングルーム。


 リング形式にはなっていないが、格闘技専用のエリアはマット敷きの本格的なものである。

 そこで授業を受けている生徒は、さまざまなテーマにそって組手を行っている。


「高校の授業にしては、かなり高度な内容だよね。

 ハイスクールの軍事教練より、実戦的かな」


 米帝の教育環境で育ったのか、馬原は事も無げに呟く。

 実はカリキュラムがより実戦的になったのは、一時期に誘拐未遂が多発した影響なのであるが、その点をわざわざ説明する必要も無いであろう。


「学園の生徒は、義勇軍のブートキャンプに参加済みの子も大勢いますから」


「ああアキラ、ちょうど良かった。

 この子捻挫みたいだから、状態を見てくれる?」


「了解です」


 先に授業に参加していたミーナは、ジムで怪我の対処に慣れているので、氷嚢で患部を冷やしていた。

 氷嚢で冷やす役を交代したアキラが触診すると、うめき声を出して痛がっていた子が急に静かになった。


「すごい!

 これって、校長(ジー)先生と同じ?」


「とんでも無い。患部の状態がわかるだけで、僕はああいう治癒能力(奇跡?)は持っていませんよ」


 数分アキラがマッサージを行うと、痛みはかなり改善したようだ。


「アキラ、だいぶ楽になったよ。

 いつもありがとう!」


 顔馴染みであろう少女は、アキラに感謝の笑顔を見せている。


「ああ貴方が、噂の馬原さんだよね?

 せっかくだから、私と手合わせしてみない?」


 治療の様子を見ていたユウが、馬原に声を掛けてくる。


「はいっ?」


「最近運動不足だって、顔してるよ?

 それにここの格闘技は軍隊格闘技に近いから、馴染み深いんじゃない?」


「……」


「馬原さん、ウエアとプロテクターは在庫してますよ」

 顔見知りのミーナから声が掛かってしまったので、なりゆきで彼女は組手に参加する事になった。

 レガースやグローブは総合格闘技用の薄手のもので、動きを阻害しない程度の防御力である。


「好きに攻撃して来て大丈夫だよ」

 同じレガースとグローブを着用したユウは、ヘッドギアを付けていない。


「それじゃ……遠慮無く行きます!」


 普段から徒手空拳での組手には慣れていないのか、馬原は連続して打撃技を繰り出して来る。

 マーシャル・アーツの技術が入った蹴りやパンチは、大ぶりでは無く実戦的で無駄がない。

 ユウは打撃技を軽々とさばきながら、あっという間に相手を倒しグラウンド技を繰り出していく。


 馬原が我慢の限界でタップする直前に、ユウは上腕から脚、首から手首と関節技を連続して決めている。

 馬原は切り返しのバリエーションが少ないので、体力を削がれ息も絶え絶えの状態である。力任せに切り替えそうとするが、細身に見えるユウの筋力は常人とは全く違う。数分後にはマットの上で大の字になった馬原は、全く動けなくなっていた。



「海兵隊には、どのくらいいたの?」


「えっ……私の経歴を何でご存知なんですか?」


「ううん。経歴は知らないけど、君の立ち姿は海兵隊員そのものだもの。

 関節を決められても、簡単にタップして来ないしね」


「……参りました!

 あの、ユウさんは空防出身と伺いましたけど。

 この高度な体術は、どこで習得されたのですか?」


「体術はすべて自分の母親から。

 防衛隊に入隊するまで、他人とスパーリングする事も無かったからね」


「ユウさんの母君は、もしかして有名な格闘家なんですか?」


「ううん、予備役ではあるけど、単なる軍人だよ。

 今は料理研究家だけどね」



                 ☆


 夜半、アキラ宅のリビング。

 珍しくユウがお手隙状態なので、親睦会が開かれていた。


「ベック!ベックだよな!」


 普段は冷静で物静かな馬原が、いきなり大声を出す。

 リビングに、アラスカベース所属のベックが姿を見せた瞬間である。


「あ、あぁ」


「久しぶり!何年ぶりだろ。

 オワフのスナイパースクール以来かな」


 武者修行として海兵隊に分遣されていたベックは、様々な部隊を経験している。

 特に実戦部隊に配属される女性は数が少ないので、個人的に親交がある場合も多いのであろう。

 

「お前生きてたのか!作戦中にMIAになったから、諦めてたんだぞ!」


「さっき雑談で馬原さんの名前が出てさ、出張でTokyoオフィスに来てるベックが知り合いだと判明して連れて来たんだよ」

 ここでユウが、簡単に経緯を説明する。


「義勇軍の仲間が事故後にすぐに見つけてくれて、校長(ジー)先生に運良く治療してもらえてね。

 全身の骨折を繋いで貰って、なんとか生き延びる事ができたんだ」


 先程校長(ジー)治癒能力(奇跡?)を目にしていた馬原は、全身の骨折という言葉を大袈裟と受け取れなかった。ヘリコプターが撃墜されて部隊が全滅したのは、紛れもない事実なのである。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ