019.I Wonder What She's Like
パドックでの二人の会話は続く。
「ドリトル先生じゃあるまいし、動物の考えてる事がわかるなんてあり得ないでしょ」
「……馬原さんは、長い期間ペットと一緒に過ごした経験はある?」
「もちろん!私が育った環境は、犬や猫が小さな頃から一緒だったから。
一緒に育ったハスキーが亡くなったときは、本当に辛かったよ」
「その兄弟とは、言葉のやり取りをしなくても、考えてることは分かったんじゃない?」
「……う〜ん、身近過ぎて考えた事も無かったけど、そうだったのかも知れないな。
好き嫌いが多かったけど、鹿肉のステーキが大好物だったなぁ」
「今朝会ったリッキーは普段は肉系のご飯が多くてね、僕の顔を見ると魚のさっぱりした食事が欲しいみたいで。飼い主とはそこまで細かくコミュニケーション出来ないから、僕を経由して文句を言いたいみたい」
「アキラ……それじゃドリトル先生そのものじゃない?」
「僕はペットでも人間でも、友達になったら別け隔て出来ないんだ。
子供の頃からそうやって育ってきたし、パドックに来るのは旧交を温める意味もあるんだよね」
「そういえば、アキラを見てるとまるで馬が立ち止まって、挨拶してるようだよね』
「……まぁどの競走馬とも、友達になれる訳じゃないけどね
彼らは人間より好き嫌いの幅が大きいから」
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「フードコートの牛丼屋さんで、コピン達が待ってるって。
コピンは本当に、食事に好き嫌いが無いんだな」
コミュニケーター経由でメッセージを受けたアキラは、長居したパドックから移動すると馬原に告げる。
「えっ、牛丼一筋80年の味付けが、苦手だっていう人が居るの?
あの甘辛い味って、ニホン人なら嫌いな人は居ないと思うけど」
「僕のニホン料理の師匠は、あの牧草牛のショートプレート肉が苦手みたいだよ。
脂がギトギトして、食べてて気持ち悪いんだって」
「ふ〜ん、そういう人も居るのか」
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「あれっ、みんな新製品の親子丼を食べてるの?」
地下2階のフードコートに到着した二人は、珍しい女子3人組をすぐに見つける。
コピンが居なければ、そのかしましさから白い目で見られてしまう状況かも知れない。
「コピンが牛丼なら米帝でも食べられるから、こっちにしようって」
ジュンは並サイズの親子丼を、レンゲを使ってゆっくりと食べているが他の二人の様子はかなり違っている。
「コピンは大盛りが2杯目か。まぁいつもの食事量から比べると、少ないかな。
野菜サラダとかお新香も、ちゃんと食べてね」
「うん!大根のサラダ、さっぱりしてて美味しいよ」
「曽根、お前そんなに食べる必要があるのか?
朝ごはんのブリオッシュも、山のように食べてただろ」
彼女の目の前には、すでに空き丼が3枚重ねられている。
「ご飯とパンは別腹だから。
それに私も育ち盛りだから、いくら食べてもお腹が空いて!」
「お前はとうの昔に、20歳になってるだろ!
デブまっしぐらだな」
「ふ〜んだ!明日がらアキラと早朝ロードワークするもん!」
☆
夜半。
いつもの夕食の後に、アキラと仕事中?の2人はソファでミーティングをしている。
もっともビール片手に話しているので、どこまでが業務なのか不明なのであるが。
「アキラ、ミーティングなのに、この並んだツマミのボリュームは何?」
「ははは。まぁ夕食の余りモノなので、あまり気にせずに」
「そうそう。細かい事は気にしないで」
冷たくなった焼き餃子や唐揚げを頬張りながら、曽根は昼間のダイエット宣言をすっかり忘れているようである。
「お前は単純に食いすぎだ!
ここ何日間で、ウエストがだぶついて来てるぞ!」
「……」
「それで反省会って、何をするんだい?」
「SID、今日一日のコンタクトリストを表示してくれる?」
リビングの大画面には、分割表示で沢山の人物が表示される。
「これって、競馬場の観客の様子ですよね。
何か不審な点でも?」
『表示している人物は、基本的に入国管理局のリストに載っている人物です』
「へっ???」
「それって、つまり……」
『トーキョーみたいな公営ギャンブルが開催されている大都市には、お二人が想定しているより外惑星から来た観光客が大勢紛れ込んでいるという事になります』
「それって凄いテクノロジーで、ギャンブルでズルをしてるって事ですか?」
『度を越している場合は、『プロヴィデンス』によって排除されるという原則はお二人は知っていますよね?』
「……」
実体験は無いにしても、二人は曖昧に頷く。
というか経験があったら、逆に驚きなのであるが。
『つまり現地住民に実害が無い場合には、干渉を受けないという場合も多いという事になります』
「……」
『それとより注目して欲しいのは、赤い色付きで表示されている数名の人物ですね』
「「???」」
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