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016.Glow Like the Moon

 アキラの自宅リビング。


 コピンがTokyoに来て、既に数日が経過していた。


「私は毎日すごく快適だけど、アキラは毎日料理ばかりしていて嫌にならないの?」

 夕食後の団らんに、アキラと打ち解けてきたコピンが本音を呟く。

 家事は殆どが分担制だし、ランドリーはCongohのクリーニングサービスを利用しているので負担は全く無い。だが料理に関してだけは、ほぼ100%アキラの担当なのである。


「……やっぱり僕は、周りにそういう風に思われてるんだね。

 僕は子供の頃から、親が子供の食育に責任を持つ『特殊な環境』で育ってるから。

 この惑星の常識とは、かなり違っているんだろうな」


「ミーナはすごいプロポーションの美人さんだし、ジュンもスリムだけど順調に大きくなってるよね」


「コピン、私は一年前は、本当に針金のような体だったんだよ」


 コピンが首を傾げていると、ミーナは都立高校に通っていた頃のフォトを彼女に見せる。


「えぇっ!これホントにミーナなの?」


「私もアキラのご飯を食べるようになってから、背が急激に伸び始めました」


「僕はミーナやジュンの成長に責任があるし、もちろんコピンも親御さん自ら預かってるから」


「コピンは、何か食べたいものとか大好物は無いのかな?」


「特にリクエストしなくても、アキラの料理は何でも美味しいから。

 あんまり言いたくないけど、うちの母さんは料理に全く関心が無い人だったから。

 子供の頃から、一人での外食が多かったんだ」


「それでニホンの外食に、あれだけ詳しかったんだね」


「ニホン語を覚えてすぐに、一人で食べ物屋さんを巡って鍛えられたからね」



                 ☆



「今日は僕だけが同行希望って、どういうこと?」

 タクシーに乗り込みコピンが指定した行き先は、あまりメジャーでは無い下町である。

 観光地から離れているその住宅地には、ひっそりと佇む一軒の寿司屋があった。

 年季の入った引き戸を開けると、網代天井の年季が入った店内の様子が目に入ってくる。


「ほら数年ぶりの訪問だから、いきなり大勢で行くと相手もビックリするでしょ?

 タイショー、お久しぶり!」


「……おおっ、もしかしてコピンか?

 何年ぶりかなぁ、こんなに大きくなって」

 まるで好々爺のセリフだが、タイショーと呼ばれた男性は初老ではあるが筋骨隆々とした大柄な男性である。


「これから暫くはニホンに居るから、挨拶に来たんだ。

 お世話になってるお兄さんを連れてきたから、おまかせで握ってくれる?」


「おう。

 今日は予約も入って無いから、カウンターの好きな所に座りな。

 好き嫌いは相変わらず無いんだろう?」


「うん!

 タイショーの握る寿司を、ぜひ兄さんにも食べてもらいたくてさ」

 コピンに紹介されたアキラは、小さく会釈をしてカウンターに腰掛ける。


「それで、あの綺麗な母さんは元気か?」


「うん。相変わらず研究馬鹿だから、寝食をわすれて没頭してるよ」


 タイショーが流れるような動きで、ヒラメの握りを付け台に並べている。

 もちろんコピンの口のサイズに合わせて、シャリの大きさは調整されている。

 同じ寿司でも付け台に並んだアキラの分は、シャリの量がだいぶ多い。


 素手で握りを摘んだコピンは、当然の如く一口で口に放り込む。

「うん。やっぱりタイショーの寿司は美味しい!」

 

 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「タイショーは一人でふらりと店に入ってきた私を、追い払わないで優しく接してくれたんだ。

 注文の仕方から、魚のことまで何でも教えてくれたから寿司に詳しくなったんだよ」


「この子はまだ学校に入る前から、ここに通ってくれてるからな。

 まぁ俺にとっては、孫みたいなものだから」


「タイショーから紹介してもらって、いろんな良いお店に一人で行けるようになったんだ。

 だからタイショーは、料理だけじゃなくて私の人生の師匠でもあるんだよ」



「ところで、連れのお兄さんは料理人だろ?」


「いえ。ごく普通の家庭の『主夫』です」


「入店してすぐに赤酢の香りに気がついてただろ?

 それにその手を見てると、毎日包丁を握ってるのが丸わかりだよ」


「はぁ」


「魚の目利きもしっかりしてるみたいだし、相当な腕前なんだろ?」


「ニホン料理はわからないことばかりなので、いつも勉強させてもらっています。

 特に江戸前の技法は、教わるたびに発見がありますね」


「アキラは、色んな人から料理を教わってるんだけど、ニホン料理はおもにユウさんが師匠だよね」


「ユウさん……そのユウさんって、もしかして防衛隊に居た事がある美人さんじゃないか?」


「そうだと聞いてるけど、もしかしてタイショーってユウさんと知り合いなの?」


「ああ、修行先の兄弟子にあたる人が、そのユウちゃんの師匠なんだよ。

 昔米帝に移住して、ユウちゃんがまだ学校に入る前から、修行してたと聞いてる」


「もしかしてユウさんも、お客さんで来てるんですか?」


「ああ。寿司ネタの仕入先とか、相談を受ける事もあるけど。

 ただあの子は料理全般に造詣が深いから、こちらも教えて貰う事も多いかな」

お読みいただきありがとうございます。

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