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015.Your Strength

「あなた、アキラ君が差し入れを持ってきてくれたわよ」


「あの子は義理堅いなぁ。それで何を持って来てくれたのかな?」


「それが握り寿司なのよ。

 なんでも握り寿司の練習中で、ネタが余ったみたいで」

 アキラが持参した寿司桶は3人前相当でバランも飾られており、普通の出前ずしと見分けが付かない出来栄えである。


「いくら天才肌のアキラでも、握りの技術はそんなに簡単に習得できるものでも無いだろう。

 どれどれ」


「ねぇ、凄いと思わない?

 半分は師匠格の親方が握ったらしいけど、漬けマグロや穴子はアキラ君が握ったんですって」


「ほうっ!お前も食べてみなさい。

 これは銀座の一流店にも、負けてないと思うぞ」


「あら、美味しい!

 これって昔ながらの江戸前寿司って言うのかしら」


「教わってるのは、かなりヴェテランの職人さんなんだろうな」


「それが私達とも面識がある、あのユウさんなんですって。

 学校に入る前からニホン料理の修行をしていて、凄い腕前らしいのよね」


「防衛隊に居たパイロットだとは聞いていたけど、そういう特技があるとはなぁ。

 この煮穴子も美味いなぁ」



                 ☆


 数日後。

 やっとアリゾナとの時差が解消されたコピンが、Tokyoに来ていた。

 歓迎会は大使館員が総出で出席する、いつもの焼き鳥屋である。


「コピンは、こういう店に来た事があるの?」

 ニホン滞在経験が長いと聞いていたので、ユウは遠慮せずにニホン語で尋ねる。

 プロメテウスの公用語はどこの国へ行っても、現地の主要言語なので当たり前なのであるが。


「あるけど、ジュースとかコーラと一緒に焼き鳥を食べても、美味しくないんだよね」


「今日はチューハイとビール迄なら、何を飲んでも良いよ。

 学園生は保護者と一緒なら、強いお酒以外を飲んでも良い規則だからね」

 学園の教師でもあるユウが、引率としていつものお墨付きを出している。

 ちなみに店内はほぼ貸し切り状態で、コピンとジュンは大テーブルのマリーの両隣に座っている。


「それはラッキー!ねぇマリ姐、飲み物はどれが美味しい?」

 コピンはなぜか、マリーと以前より面識があるようだ。

 面立ちも似ているので、実は彼女とも濃い血縁関係があるのかも知れない。


「果汁を使ってる生チューハイなら、どれも美味しい!

 私はグレープフルーツがオススメ」


「お姉さん、すいません。生グレープフルーツ酎ハイを追加で」

 注文を受けた接客担当の彼女はTokyoオフィスの面々と既に知り合いなので、コピンの注文を咎める事も無い。大使館関係者は、静かに飲んで大量に注文してくれる特別な上客なのである。


 大テーブルに運ばれているのは、焼き鳥各種の大量の盛り合わせである。

 各種の塩やタレの串が並んでいるが、一種類だけ他の焼き鳥と違って大量に盛られている串があった。


「この細長いのがすっごく美味しい!

 外側カリカリで、中はふんわりで鶏肉の旨味がじゅわじゅわ。

 マリ姉、これって何なの?」


「ハカタ風とりかわ。

 仕込みにすごく手間が掛かっていて、トーキョーではここでしか食べれないと思う」


「うわぁ、ニホンって食べたことが無い美味しいものがまだまだ沢山ありそう。

 この店って鶏肉自体の味がぜんぜん違って、普通?のねぎまを食べても旨味が凄いよね!」


「大将、うちの新入生がここの鶏肉が美味しいって褒めてるよ。

 特に『とりかわ』がお気に入りだって」


「どうも。今後ともご贔屓に」


「ねぇ、コピンは食わず嫌いが本当に無さそうだよね」

 焼き鳥の盛り合わせの中でも残りがちな『とさか』や『もみじ』を使った珍味を、彼女は笑顔で頬張っている。


「うん!母さんがユウさんの母君から教わって、私の食育を頑張ったんだって。

 上質な鶏肉って、食べれない部分がほとんど無いから嬉しいよね」


「その口ぶりだと、鶏の仕分けを相当やらされたでしょう?」


「うん!鶏肉専門店でアルバイトできる位の、腕前かな」


 店の大将はコピンの呟きに、とても嬉しそうな表情である。

 仕入れている地鶏は知られているブランド品では無いが、自らの舌で探しだした自信の一品である。『とさか』や『もみじ』などの珍味がメニューにあるのは、命は無駄なく全ていただくという大将個人のポリシーをしっかりと反映しているのであろう。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「ねぇ大将、ちょっと厨房借りて良いかな?」


「ユウちゃん、何か作ってくれるの?嬉しいなぁ」

 大使館の寿司の日に招待されたこともある大将は、ユウの料理の腕前を良く知っている。

 時折厨房に立って従業員のまかないを作ったり、新しいメニューのヒントを与えてくれる彼女を決して邪険に扱ったりはしない。


「ちょっと思いつきで、オムライスをね。

 今日は台湾醤油を持ってきたから、これでご飯の味付けをしてみたいんだ」


 厨房に入ったユウは、フライパン2枚を同時に操りながら、あっという間にケチャップを使っていないオムライスを完成させる。


「うん。やっぱりここの鶏肉と卵だと普通のケチャップの味付けだと負けちゃうから、丁度よいバランスかな。大将も食べてみてよ」


「……洋食屋のケチャップ味と違って、鶏肉の旨味が感じられるかな。

 店のメニューに採用しても、良いくらいだよね」

 ここで大将は真剣な表情で、ユウとメニュー構成を相談し始めている。


「ユウ、私も食べたい!」

「わたしも!」


「ごめんね。大将が正式なメニューにするまで、この店では我慢してくれるかな?

 Tokyoオフィスの厨房でなら、いつでも作ってあげるからさ」

お読みいただきありがとうございます。

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