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012.Wonderful Maker

「本物のお寿司屋さん?で、どう注文したら良いのかわからないです」


 つけ場にユウと一緒に立っていたエイミーは、戸惑っている新兵達に優しく言葉を掛ける。

 この辺りはTokyoオフィスで行われている『寿司の日』では、あり得ない状況であろう。


「寿司はニホンで発明された、元祖ファストフードだから。

 難しい作法みたいなものは、無理して覚える必要はないんだよ」


「すいません、私、生のお魚すら食べた事がなくて」


「ここに並んでいるお重は、火が通っているネタだけで作ったチラシ寿司だから安心して。

 まずレンゲを使って、気楽に食べてみてね」


「生の魚介類は、全く入ってないんですか?」


「うん。煮穴子とか海老、錦糸卵、蟹とか、ぜんぶ火が通ったネタばかりだから。

 もし気に入った具材があったら、握りでも食べられるけどね」


 好奇心も相まって、何名かの新兵はお重をレンゲで食べ始める。

 作務衣を着て湯呑を配膳しているジュンは、それでも首を傾げている子に丁寧に食べ方?を教えている。


「ぜんぜん生臭くなくて、美味しい!

 ビネガーの風味が爽やか!」


「ピラフやチャーハンよりもさっぱりしていて、食欲が出てきた!」


「あの……生魚の握りで、食べやすいオススメはありますか?」

 果敢にも先にカウンターに腰掛けていた新兵は、エイミーの優しい雰囲気に安心したのか素直に質問している。


「それなら、ニホンの子供たちの好みが参考になるかな。

 特に人気があるのは、サーモンとかマグロの赤身、イクラかな」


「イクラって、魚卵ですよね?」


「そう。魚卵を醤油漬けに加工したものだね。

 ニホンの子供が好きになるのは、見掛けがゼリーみたいで綺麗な点が大きいかな」


 つけ場に戻ったエイミーは、会話を続けながら手際よく3種類を一貫ずつ握っていく。


「あの……お寿司って、こんなに綺麗なものなんですか?

 私が今まで食べていたゴチャゴチャしたのは、一体何だったのでしょう」


「すべて煮切りで味がついてるから、そのまま口に入れてね。

 箸を使わないで、素手で口にいれるのも正しい作法になるから」


「うわぁ、美味しい!

 シンプルだけど、魚の旨味を強く感じます!」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎



「ねぇキャスパー、なんで居るの?」

 シンがTokyoから運んでくれたのは当然であるが、入国管理局の責任者がブートキャンプに顔を出すのはかなり珍しい。


「最近ユウが握る寿司を食べてないからさぁ。

 赤身追加ね!」


「アリゾナに来てまで、マグロばかりの注文?」


「ああ、やっと片付けが終わったよ!

 あれっ、キャスパーさんいつの間に?」


「正式な出張です。アキラの事が心配だったので」


「ははは。

 ユウ、蛤ってある?」


「あるよ。……はい、お待たせ!」


「あっ良いなぁ、自分には小柱の軍艦を頂戴!」

 同じカウンターに並んでいるリサは、追加で注文を入れる。

 ネタの有無を聞かないのは、ユウが自分の好みを熟知しているのを知っているからである。


「リサさんは、あいかわらず渋いネタが好きだよね」


「ユウみたいな江戸前の技術を持った職人は、この近所にはほとんど居ないからね。

 滅多に無いご褒美は、楽しまないと」



                  ☆



 新兵達が一人また一人と帰宅する中で、隊員食堂では引き続き教官達の反省会が行われている。


「ドローンの件以外は、順調に進行してたんだけどね。

 次回はもう少し防空に気をつける必要があるかな」

 キャンプ全体の進行を担当したルーが、総括する。


「やはりシンの参加は、不意打ちに備えるために必須だな」


「リサさんは、シンの作った食事が食べたいだけですよね?」


「さっきの『寿司パーティ』を含めて、新兵達には大好評だったじゃないか。

 食事が良いから参加してみたいって、思って貰えるのも重要だぞ」



「ねぇ、アキラ。お疲れの中悪いけど、炒飯を作って貰えないかな?」


 ドローン残骸の処理を終えたシンとアキラは、余ったチラシ寿司を食べていた。

 急なリクエストに驚いたアキラは、シンと目を合わせて不思議な表情をしている。


「あの……師匠(シンさん)が居るのに、自分がですか?」


「そう。

 最近はマリーが、アキラが作る炒飯が一番美味しいって言っててさ。

 良い機会だから、自分の舌で確認したいんだ」


「はぁ。調理するのは別に構いませんが、そんなに違いはありませんよ。

 師匠(シンさん)から教わったレシピから、何も変えていませんし」


「私もシメで、あの牛肉炒飯を食べたいなぁ」

 健啖家であるルーは、寿司を摘むだけでは足りなかったのであろう。


「あの、私も出来たら食べたいです」

 後片付けで清掃中だったジュンも、ここで控えめに発言する。


「ジュンは自分の食事よりもお手伝いを優先してくれたから、アキラ頼むよ」


テン・フォー(了解しました)

 司令官のお願いに、即座に頷いたアキラであった。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 大皿に盛られた炒飯は、人数に合わせた分量である。

 最初に取り分けられたジュンの皿は、アキラ手づから彼女の目の前に配膳されている。


「いつもの味です!この炒飯、好きなんです!」

 

「ああ何でだろう、僕が作ったよりも、明らかに美味しいね!」


「……」


「もしかしたら、アキラは調理に関してすごい才能があるのかも。

 うちの母さんに、匹敵する異能なのかも知れないなぁ」


 ユウの一言は周囲を頷かせる一言であったが、当のアキラは首を傾げるばかりなのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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