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008.Over My Head

 隊員食堂。


 しっかりとした足取りで入ってきたコピンは、厨房に向けて元気に注文を入れる。


「アキラ、カツ丼大盛りで頂戴!」


「コピン、もう大丈夫?」


「ジュンねぇ、心配してくれてありがとう!

 でもいつかジュンねぇをノックアウト出来るように、私も精進するから。

 覚えておいてね!」


 コピンは食欲はしっかりとあるようで、レンゲを使ってカツ丼を掻っ込んでいる。

 このレンゲを使った食べ方は空腹だったジュンが新兵の間に広めたもので、あまり上品とは言えないであろう。


「うん。その日を楽しみにしてるよ」

 


                 ☆


 翌朝。


 大型の輸送ヘリに搭乗した新兵達は、短いフライト後に何も無い荒野に着陸した。

 何も無いとは言っても、ここから先は私有地であると明記した立て看板が、唯一目立っているのであるが。

 

 機長としてヘリを操縦していたシンは、いち早く機外に出てタラップを降りてくる新兵達に一人一人声がけしている。


「ジュン、これを持っていって」

 最後にタラップを降りてきたジュンに、シンが片手で持てる小さな包みを手渡す。

 頑丈なストラップと金具が束ねられたその包みは、カーキ色なので軍装品には間違い無さそうである。


「シンさん、これは?」


「必要にならなきゃ良いんだけど。

 それじゃ!GoodLuck!」


 首を傾げていたジュンは、そのまま分隊長にこの包みの正体を尋ねることにする。


「……分隊長、これをシンさんから渡されたんですが?」


「大尉から?

 ジュン、それが本当に必要にならないと良いんだけど」


「???

 何なんですかこれ?」


「Congoh謹製、負傷者を運ぶ背負子。

 米帝陸軍すら採用していない、我が義勇軍独自の特殊装備」


「……あの、行軍は実弾演習じゃないんで、負傷者は出ませんよね?」


 分隊長と呼ばれた彼女は、ジュンと会話をしながらも持参して来たGPS内蔵の電子地図を操作している。冷静だったいつもの表情が、現在位置の確認が進むに連れどんどん険しくなる。自分たちが置かれた状況を、この瞬間に把握したのであろう。


 最終試験の行軍には、特別なイベントは存在しない。唯一の課題は明朝までにゴールに到達することであり、一見とてもシンプルに見える。

 だが現在位置からゴールまでは100Kmを超える距離があり、駆け足とまで言わなくてもかなりの速度で行軍する必要がある。もちろん休憩や睡眠を摂る時間的な余裕も無い。


「ジュン、コピンを良く見ていてくれるかな?」

 囁くような小声は、ジュン以外には聴こえていない筈である。


「毎日の行軍では、特に問題ありませんでしたけど?」


「距離が違うし、体が出来ていない彼女の体力が、これから明朝まで保つとは思えないんだ」


「はぁ……」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「全員傾聴!

 我々の現在位置は、現在ベース(基地)から100Kmは離れている。今回の任務は明朝の日の出0545時までに、全員無事にベース(基地)に帰還する事である。

 よっていつもの行軍と違って、休憩時間は一切無い。

 何か質問はあるか?」


 特に小隊内で反応が無いので、分隊長はコピンに直接声がけする。


「そうだ、コピン」


「はい。分隊長どの!」


「お前が持っているジャベリンは、ジュンに預かって貰え」


「分隊長どの、自分は他に分隊装備を持っていませんので、大丈夫です」


「いやこれは分隊長命令だ。

 さっき全員無事に戻ると宣言しただろう?

 お前も分隊の一員なら、命令に従ってもらうぞ」


「……了解しました」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 早足の行軍が開始されると、殿(しんがり)のジュンがさっそく何かに気がつく。

 まるで痩せたハスキーのような4本足の動物が、行軍についてきているのである。

 アリゾナベースで放し飼いされているのを新兵たちには周知されていたが、首輪がなければ大騒ぎになっていたであろう。


「あれっ、ワイリー。お散歩中?」


「キャウ!」


 なぜかワイリーはジュンの側から離れないので、周りは怪訝な表情でカイオーテを見ている。

 以前にもシンのジャンプでアリゾナベースを訪問した事があるジュンは、この人馴れしたカイオーテと仲良しなのである。ジュンの野戦服にくんくんと鼻を近づけるのは、ポケットに入っているお手製ジャーキーを狙っているのであろう。


「相変わらず、食いしん坊だな。

 はいっ!」

 

 ジュンが宙に放り投げた乾燥牛肉の塊を、ワイリーは器用にキャッチする。


「アキラさんに言われたなら、しっかり道案内を頼むよ!

 後でジャーキーをいくらでもご馳走するからさ」


「キャウ!」



                 ☆



 ベースの司令室。


「そんなに心配なら、同行すれば良かったのに」

 シンは最終日も近いので余裕があるのか、司令室でルーの様子を眺めている。


「それじゃ新兵達のためにならないだろ?

 それにGPSをジャミングする、役目もあるしね」

 ルーは新兵達を監視?している、上空で待機している無人機の制御システムの前に座っている。

 モニターには鮮明では無いが、分隊の様子が写っている。


「それは仕事じゃなくて、意地悪なのでは?」


「GPSが使えなくなった位で、パニックになる子は居ないでしょ。

 それに星空が見えれば、自分たちのポジションも分かるだろうし」

お読みいただきありがとうございます。

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