004.Best News Ever
Tokyoオフィスのリビング。
「ブートキャンプですか?」
「ああ。
ジュンも新しい環境に慣れてきて、参加できる頃合いかと思ってね。
それに視野を広げるといった意味でも、アリゾナに行くのは良い経験になるんじゃないかな」
「そういえばフウさん。
自分もブートキャンプには未参加なので、当然参加するんですよね?」
「お前がか?
アキラはヒッカム基地で飛行訓練も受けてるし、今更新兵扱いは無理じゃないかな。
今回参加する事で、准尉に昇進という段取りだな」
「はぁ、功績も無いのに特別昇進ですか。
それで今回の自分の任務は、何なんでしょうか?」
「まぁ基本的には、体術とか食事準備のお手伝いだな。
炊事はシンが担当だから、やりやすいと思うぞ」
「ちょっと待ってください!
師匠の階級は大尉だと記憶してますけど、義勇軍では尉官が炊事兵をやるんですか?」
「それを言われると辛いんだが、義勇軍は慢性的に人材不足でね。割り当てられる人材がそんなに居ないんだ。昔は各拠点の食事担当からアサインしてたんだが、持ち回りは味のレベルがまちまちで評判が悪くてね」
「軍隊の食事ですよね?別に星を競うわけじゃないし、食べられないものが出なければ大丈夫じゃないんですか?」
「それがシンが担当するようになって、ダントツの評判を得ちゃったからさぁ。それにシンの参加はアリゾナベースの司令官のご指名で、選択の余地がないんだな」
「なるほど。
リサさんは、師匠の昔からの知古だと聞いた記憶があります。
人気者は、モテモテで大変ですね」
「本人に聞けば分かるが、参加するのを実は楽しみにしてるみたいだぞ」
「……」
「戦闘とか血なまぐさい事は起きないし、多少ゴタゴタがあっても余興程度だからな」
☆
数日後、ナリタの駐機場。
ワコージェットに搭乗したアンは、機長席に座って航路の気象状態をチェックしている。
コパイ席ではルーが、LCD画面を操作して機体のチェックリストを実行中である。
「今日はお世話になります」
アキラがブートキャンプ参加者のジュンを伴って、機内に入ってくる。
定員8名のワコージェットはコンパクトなので、機内に居れば乗員の声はすべて筒抜けである。
「今回は、アキラがブートキャンプのアシスタントなんだって?
豪華な人選だよね」
乗り込んだ2人を確認して、ルーが機体のドアをロックする。
小型のプライベートジェットなので、このあたりも副機長の役目になるのである。
「いいえ。ジュンの引率みたいなものなので、単なるお手伝いですよ。
あれっ師匠の姿がありませんね?」
「シンはいつも通りの現地合流だから」
「なるほど」
ジュンは現地合流の意味が分かっていないようで、首を傾げている。
☆
アラスカベースに到着後、アキラは唯一の現地隊員であるドナに基地内を案内されていた。
ジュンはブートキャンプ参加者用の控室で、待機中である。
ここで、どこからともなくシンの姿が現れる。
ドナはシンのジャンプに慣れているので、特に驚いた様子も無い。
「ああ、アキラ丁度良かった。荷降ろしを手伝ってくれる?」
「師匠、おはようございます。
あれっ、配送トラックでも来てるんですか?」
「ううん。
ノーナから貰ったこれがあるからさ」
「ああ、亜空間収納ですね。
そのブレスレットを持っているという事は、師匠はあの惑星では国賓待遇ですね」
「国賓というよりは、ノーナ専任の雑用係みたいな扱いだけどね。
まずこれをハウス冷蔵庫に入れてくれる?」
亜空間収納から取り出した寸胴のスープや、米袋の山はシンがTokyoオフィスから持参したものである。大量のアルミ番重は、仕込み済みの食材各種であろう」
「了解です。師匠と一緒に仕事が出来るのは、とても光栄です」
「僕もアキラと一緒なのは、とっても嬉しいなぁ。
夜とか飲み会が出来ると、もっと良いんだけど」
シンは引き続き冷凍された食材を取り出しているが、Congohの定期配送便よりも明らかに分量が多いであろう。
「用意した食材も、かなりの分量ですね」
「ブートキャンプではかなり豪勢な食事が出るって、評判になってるからさ。
それに参加者が食事の苦労をしないように、偏食の子でも満足できるように考えてるんだ」
シンは脇腹に抱えている参加者全員の分厚いファイルを、アキラに見せる。
「もしかして、抜き打ちの点呼とかあるんですかね?」
軍隊関係の映画を何本も見ているアキラは、どうやらステレオタイプにブートキャンプとはそういうものだと思いこんでいるらしい。
「今回の責任者はルーだから、そういう無駄な事はやらないんじゃない?
彼女は実に効率的に、カリキュラムを進めるから」
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数時間後。
兵舎の前には、集合時間に揃った新兵達が整列している。また迷彩服を着用しているシンとアキラも、教員側に一緒に並んでいる。
新兵達の中には雫谷学園で見たことがある生徒が含まれているし、顔が広い?シンは参加者から盛んに目配せやウインクを受けている。
ジュンはかなり緊張した表情で列に並んでいたが、知り合いと顔をあわせる度に緊張がほぐれて来たようである。
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