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039.Only Takes A Moment

「アキラ、ジュン(あの娘)は格闘技の基本は出来ているし、かなり手強いと思うぞ。

 いきなりスパーリングして、ミーナは大丈夫なのか?」


 会長はミーナが那須山をKOしたのを目撃しているが、ボクサー以外の相手という事で心配なのであろう。


「ええ。彼女のボディバランスから、初心者じゃないのはすぐに分かりました。

 でもミーナもここ数ヶ月さらに鍛えていますから、怪我するような事は無いと思いますよ」


 ジムの備品であるオープンフィンガーグローブと、ヘッドギアを装着した二人は早速リングに上がっている。二人の違いはミーナ本人が不要という事で装着していない、レッグガード(すね当て)である。


「時間制限無しで、ノックアウトかタップでスパーリング終了ね。

 ジュン、ミーナ、二人とも何か質問は?」


 リング内で立ち会う会長は二人に尋ねるが、何も返答が無いのでリングサイドのアキラがゴングを鳴らす。


 ミーナの不安そうだった表情が、ゴングが鳴ると瞬時に冷徹なものに変わる。

 まるで日常生活から、戦闘モードに切り替わったようである。


 ジュンはテイクダウンを狙って、予備動作しのローキックを連発している。少しでもアキラに好印象を持たれたいのか、ペースなど考えていない激しい動きである。

 ローキックの連打は、レッグガードをしていないミーナにはかなりの衝撃がある筈だが彼女は全く動じていない。逆に蹴りを出しているジュンの方が、微妙に顔を顰めている。


 繰り返されるローキックに全くバランスを崩していないミーナは、ここでタックルを狙って突進してくるミーナの顔面にスローなパンチを放つ。

 腰が入っていない形だけのパンチと判断したジュンは、懐に入ろうと突進してくるがこの判断は大きな間違いである。


 パンチがジュンのヘッドギアに正面から当たると、瞬時に意識を刈り取られた彼女は崩れ落ちるようにダウンする。

 まるでコントのような不自然なダウンだが、会長がカウントするまでも無く完璧なノックダウンになっている。


「あの軽いパンチがこんなに威力があるなんて、那須山の件もそうだけど何度見ても信じられないなぁ。

 おいアキラ、彼女には後遺症は残らないよな?」


 大の字にダウンしたジュンの様子を確認しながら、会長がアキラに心配そうに尋ねる。


「肉体的には大丈夫だと思いますけど、トラウマにならないとは保証できないかも」


「ああ、かなり鼻っ柱が強い子みたいだから、それは大丈夫かな。

 それじゃ目覚めるまで、そこのベンチに寝かせておこうか」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 数分後。


 ジムの室内は一般会員が帰宅したので、閑散としている。

 ようやく意識を取り戻した彼女は、不思議そうにベンチから起き上がっている。


「ああ、目が覚めたか。

 アキラ、状態をみてやってくれないか」

 

「私は……あのスローなパンチで、ダウンを?」


「うん。ちょっと不躾だけど、身体に触らせてね。

 僕はこのジムのトレーナーだから、状態を確認しないと」


 頭部から頸部にかけてアキラが触診すると、彼女の意識はさらにはっきりしてきたようだ。

 ここで彼女の胃袋が大きく鳴って、彼女は思わず赤面してしまう。

 トレーニング前に胃をからっぽにしていたので、かなりの空腹状態なのであろう。


「この後は何か予定があるのかな?」


「いいえ。特には」


「それじゃ夕食を一緒に食べない?

 ミーナも君が来てくれると、嬉しいと思うよ」


「はい、せっかく知り合いになれたので、来てくれると嬉しいです」


「……」



                 ☆



 アキラのタワーマンションの豪華さに驚いた彼女は、室内に入ると続けて声を上げる。


「こんなに大勢の女性と?」


 居室に入るとそこには、ノエルの家族がすでに揃っていた。

 美女3人?がロングソファで寛いでいるのを見て、ジュンはアキラに対して訝しげな表情を浮かべている。どうやらアキラを、ホスト紛いの危ない人と誤解しているようである。


「ううん。僕は正真正銘男だよ。

 僕の彼女と姉さんも、いつもアキラの作る料理が大好きだから一緒に夕食を食べてるんだ」

 ここでノエルが、分かりやすい誤解を解くために弁明している。


「ミーナの新しい友だち?」

 ティアがいつもの台詞を発して、ジュンの誤解はようやく解消されたようだ。


「中華料理は大丈夫かな?」

 出来上がった大皿をテーブルに並べながら、アキラは彼女に声を掛ける。

 ミーナの手伝いもあって、アキラの調理時間は本職の中華料理人と同じ位素早いのである。


「はい。好き嫌いはありませんので。

 でもこんな食事をしていては、カロリーオーバーになりそうです」


 格闘家としての自覚が強いのか、彼女は食べ物に対する意識が高いようだ。


「殆どがタイワン料理なんだけど、野菜がメインだから見掛けよりロー・カロリーなんだ。

 僕の食事をずっと食べ続けているミーナが、オーバーウエイトに見えるかな?」

 自分の名前が出たので、ミーナ本人は不思議そうに首を傾げている。


「私よりは筋量は少ないですけど、引き締まった綺麗な身体だと思います」

 彼女はミーナを見ながら、控えめに発言している。

 

「君はうちのミーナと年も同じだし、まだ身体が出来上がっていないよね。

 きちんと食事をしないと、今以上に強くなれないと思うけど」


「……そうかも」


「それに発勁のこもったパンチを打つには、バランスの取れた身体が必要だよ。

 野菜もご飯も、きちんと食べないとね」

 

お読みいただきありがとうございます。

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