035.Get Over
午前中のフライトを終えた二人は、教官に連れられて隣接したレストランに来ていた。
基地内にももちろん隊員食堂はあるが、格式が高そうなこの店は学生が二人で利用するには敷居が高そうなイメージである。
「ハンバーガーの味はどう?」
バーガーのプレートランチと、注文したアラカルトでテーブルの上は料理で一杯である。
プロメテウスの新兵でもある二人を将官である彼女が歓待しているのは、アキラの優秀でありながら謙虚な人柄に好感を持ったからであろう。
「牛肉の味が、とっても濃厚な感じがします。
ソースの味も一味違いますね」
「此処のバーガーのパティは、冷凍肉を使ってないからかな?」
「トーキョーでは食べ歩きはしてませんけど、今まで食べたバーガーの中では2番目くらいに美味しいです」
「へぇ、ニホンにも美味しいバーガー屋さんが身近にあるんだね」
「いいえお店じゃなくて、Tokyoオフィスのマリーさんの作ったバーガーです」
「ああ、あのマリーちゃんに料理の特技があるとは意外だね。
でもあれだけのグルメなら、不思議じゃないかも知れないな」
「ご自分で作るのは、唯一ハンバーガーだけらしいですけど。
あの万能料理人のユウさんが、Tokyoオフィスの『ハンバーガー番長』だと絶賛してましたよ」
「へぇ〜。
ミーナちゃんは、クラムチャウダーがお気に入りだね」
「ニホンのファミレスで食べるのと違って、ボリューミーで美味しいです。
なんかアサリの身が大きいような?」
「もしかして貝の種類が違うのかもね。
ニューイングランド風のクラムチャウダーは、ここでは大きめな貝を使ってるみたいだし」
「なるほど」
「ニホンのファミレスって、メニュー構成とか量が違うんだってね。
●ニーズも米帝と同じメニューが一つも無いとか」
「こんなに美味しいシュリンプは、ニホンの高級レストランにも無いと思いますよ」
「ハワイのシーフードレストランは、どこでも美味しいんじゃないかな
流通経路がシンプルだから、新鮮だしね」
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今日は午後のフライトスケジュールが無いので、雑談はコーヒーを口にしながら続いている。
「今回は免許取得以外に、何か目的はあるのかな?」
「観光とか全く考えていませんでしたけど、タイミングが合えばマウナケアには行ってみたいですね。
ハワイベース滞在経験のある人は、かならず勧めてきますし」
「対空時間もクリアできそうだから、ツアーに申し込んでおいた方が良いかもね。
アキラは、ハワイベースで受ける単発ジェットの講習はどうするの?」
義勇軍の内情にも詳しい彼女は、パイロット教育のカリキュラムも知っているのだろう。
「体験飛行なら複座の機体があるんですけど、講習は教官資格者の調整待ちです。
カーメリの人達も、何か忙しいみたいで」
「カーメリまで行けば、問題無いんでしょ?」
「はい。でも学園も編入したばかりなので、いきなり長期休暇は避けたいので」
☆
夕食時のリビング。
「なんかいつもと違うメニューが、多いみたいだね」
ジャンプで様子を見に来たユウが、ふだん見慣れない大皿料理を見て感心している。
アキラの師匠であるシンが作る場合もそうであるが、あくまでも炒めモノの主役は野菜なので肉類を潤沢に使った料理は珍しいのである。
「環境が違うのもあるんでしょうけど、此処で手に入る豚肉って味に雑味が無い気がするんですよ。
だからでしょうか、普段あんまり多用しない豚肉メインの料理が多くなるんですよね」
「回鍋肉とか青椒肉絲なら、トーキョーなら町中華で食べられるもんね。
でも同じメジャーな料理でも、アキラが作ると一味違うかな」
ルーは、大蒜の葉を使った回鍋肉を美味しそうに頬張っている。
食べ歩きが趣味で味の守備範囲が広いルーは、アキラが作る台湾料理ももちろん大好きである。
「街の中華屋さんで食べた事が殆ど無いので、僕のレシピは師匠に忠実なので。
なんでも街の中華料理屋さんの回鍋肉は、キャベツとかピーマンが入ってると聞きましたけど」
「シンはニホン風の中華も良く作ってるけど、アキラの教わったのは伝統的な台湾風なんだね。
たぶんこれからちょっとずつ、アキラ風の中華料理に変わっていくのかもね」
アキラにニホン料理を教えているユウが、実に的確な発言をする。
さすがに世界屈指の料理研究家の愛娘である。
「アキラが作るものは、何でも美味しいです!」
すっかりアキラの料理に馴染んでいる(餌付けされている)ミーナは、力強い口調で言い切ったのであった。
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「二人とも、滞空時間はほぼクリアしたんでしょ?
計器飛行のライセンスまで取得したら、後はどうするの?」
「私は特に予定してません。
パイロットとして活躍する気は無いので、まず自動車を運転できるようになりたいです」
「ミーナちゃんは、セスナの操縦が先に出来るようになったのは素晴らしいよね。
アキラはどう?」
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