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033.After Today

 アキラとミーナの教習は、トラブルも無く?順調に進んでいた。

 教官は米帝空軍の担当に変わっているが、気さくな人柄で有名な女性教官である。


「ミーナちゃんはいつでも基本に忠実だし、アキラ君が操縦桿を握ってると何も教える事が無いように感じるわね」


「褒め殺しですか?」


「私も新兵教育は長いけど、ベテランに教えてるようでこっちが恥ずかしくなる時があるよ」


「はぁ」


「乱気流に始まり、エンジンと無線のトラブルでしょ?

 それなのに驚いた表情一つ見せないで、なんで冷静に対処出来るのかな」


「……」


「それに滑走路の大穴なんて、普通は気が付かないでしょ?

 君も他のプロメテウスの先輩パイロットと一緒で、シックスセンスでも持ってるのかな?」


師匠(シンさん)やユウさんには料理は習ってますけど、操縦は教えて貰ったことは無いですね」


「そういった意味では、伝説のレイ中将に似た能力があるのかもね。

 どっちにしてもミーナちゃんのトラブルを肩代わりしてくれて、こっちも大助かりだよ」


「シンさんのお名前は良く拝聴するのですが、自分はお会いした経験が無いので」


「Tokyoオフィス所属なのに、忙しい人だからね。

 でも神出鬼没だから、ひょっこり顔を出しても誰も驚かないけどね」



                 ☆



 無事に計器飛行免許まで取得できたマイラは、ハワイベースでペースダウンしてのんびり過ごしていた。

 カーメリから教官をアサインできればジェットの教習も開始できるのだが、生憎と多忙である教官役のアサインは簡単には行かないのである。それに現時点でジェット教習は士官になるためのカリキュラムの一部であり、まだ未成年のマイラには早すぎると周囲は考えていたのであろう。


「マイラ、おめでとう!

 シンから頼まれて、お祝いを持ってきたよ」


「ああっ!ユウさん、わざわざありがとう!

 これって、アルトサックスのケースだよね?」


「マイラの知り合いの職人さんにメンテをお願いしたり、色々と手間が掛かってるみたいだよ」


「うわぁ、アメセルのマーク6じゃない!

 このモデルに憧れてたんだよね!!」


 マイラは軽く試奏をするが、艶っぽいロングトーンがこのサックスが並のヴィンテージで無いのを主張している。


「うわぁ……年代物とは思えない、素晴らしいコンディション!

 ねぇ、こんな凄い状態のセルマーを、どこから見つけてきたのかな?」


「シンもミュージシャンとしての人脈を使って探してたんだけど、良い状態のモノが見つからなかったみたい

。最終的にレイさんに相談したら、灯台下暗しでね」


「トウダイモトクラシ?」


「レイさんのアラスカベースの倉庫に、デッドストックの楽器類が山積みになってるんだけど。

 その山の中にジャズ系の管楽器もあってね。シンがそこから発掘したみたい」


「マイラは師匠(シンさん)に、本当に大事にされてますよね」

 ここまで黙って話を聞いていたアキラが、羨ましそうな表情でコメントする。


「ほら私は姉以外に係累が居ないから、将来はシンの子供を生むのが目標だからさ。

 アキラはすでに良い連れ合いを見つけてるから、私からすれば羨ましいよね」


 この場に居合わせたミーナは、不意打ちの一言に顔を真っ赤にしていたのであった。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「それじゃ夕餉の支度をしないと。

 ユウさん、たまにはここで一緒に食べませんか?」


 試験のプレッシャーから開放されたマイラが、ユウに進言している。

 彼女は長年ユウから料理を師事しているので、腕前もかなりのものである。


「ああ、それなんだけど。

 SID、例の店って予約が取れてるかな?」


「大丈夫ですけど、予約が取れたのは今日のディナータイムだけですね」


「ああ、平日のディナータイムじゃないと、直前の予約は難しいのかな。

 ジョンさん、マイラ、今夜は大丈夫?」


「ああ、いつもの恒例行事だね。

 急ぎの仕事も無いから、喜んで参加するよ」


 首を傾げているアキラに、ユウが説明する。


「ハワイベースのいつもの食事会でね、ウイングマークを取得したメンバーをお祝いするんだ。

 アキラとミーナは、Tokyoの支店にも行った事は無いよね?」


「そういう高級なお店は、気後れするので行った事は無いです」


「確かに高級っぽい店だけど、ショッピングセンターの中にあるしドレスコードも緩いから。

 レイさんの奢りになるから、いろんな米帝料理が楽しめるからオススメなんだ」



                 ☆



 ハワイベースのメンバーはほぼ常連なので、オーダーに迷うこと無くどんどんと皿がテーブルに並べられている。


「……こういう肉料理もあるんですね」

 切り分けられた骨付きのステーキ肉を、アキラは頬張っている。

 庶民のニホン食に慣れきっている彼は、これだけボリュームがある肉塊を食べるのは初めてであろう。


「これは米帝人のイメージする、ご馳走だからね。

 ほらニホン人の好きな、舟盛りみたいなものかな」


「どの料理も大味じゃなくて、とっても美味しいです。

 見ているだけで満腹になりそうですけど」


 長年の懸念事項であったウイングマーク取得は、マイラにとって大きな達成感がある出来事だったのであろう。笑顔でナイフを動かす彼女は、アキラにもとてもリラックスしているように見えたのであった。


お読みいただきありがとうございます。

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