031.Legacy
学園の校長室。
授業の合間に呼び出されたアキラは、いつも通り摩訶不思議?なジュースを勧められていた。
ペットボトルに入った飲料?はブドウジュースがくすんだ用な色合いで、とても危険な香りがする。
ノエルから勧められてもいきなり飲まないように注意されていたので、蓋を開けずにまずラベルを眺めるだけにしておく。ファン●ブランドなのに、聞き覚えがないザクロ(Pomegranate)という果実が使われているようだ。
「車の運転は覚えたかな?」
美味しそうにファン●・ザクロをグビグビと飲みながら、校長はアキラの近況を尋ねてくる。
この惑星の果物について知識が殆どないアキラは喉の乾きを感じているが、自ら地雷を踏みに行く無謀さは持ち合わせて居ない。
「はい。ノエルが空き時間に、Tokyoオフィスの敷地内で教えてくれたので」
「それで今日来て貰ったのは、ハワイベースに出張して欲しくてね」
「ハワイですか?」
「ほら、車の運転が出来て、セスナを操縦出来ないのは可笑しいだろ?
ミーナちゃんも、たまには海外旅行に行きたいだろうし」
「……」
「いや今のは冗談だけど、学園ではセスナで操縦を覚えると、単位取得になるんだよね。
ライセンス取得の費用も掛からないし」
「はぁ、なるほど」
「実はそれが主目的じゃなくてね。学園の生徒がやっと正規に単発機のライセンス取得できる年齢になってね。とっくに滞空時間はクリアしてるから、本人の希望を優先してあげたくてさ」
「そういうケースは、ライセンスを所持している師匠とかノエルが同行すべきですよね?」
「普通ならね。
二人とも今ちょうど忙しくて、このまま行くと同行できるのが数カ月後になっちゃうんだよね。
その生徒は長い間我慢して来たから、このタイミングを逃したく無いと思うよ」
「それで、学園生って誰なんですか?」
「ほら、君も良く知ってるマイラなんだけど」
「ああ、なるほど。
そういう事なら、お引き受けします」
「あれっ、名前を聞いたとたん即決?」
「師匠の妹分ですから、弟子としては当たり前かと。
それに彼女は、僕にとっても数少ない同胞ですからね」
「なるほど。
往路はワコー・ジェットを使えるから、スケジュールが決まったら連絡してくれる?
学園は正規の取得単位になるけど、バイト先との休みの交渉もあるでしょ?」
☆
ナリタ。
プライベートジェットの機内で、アキラはマイラと雑談している。
今回の機長はユウであるが、ハワイベース到着後には即Tokyoオフィスに帰還予定である。
「アキラ、同行してくれてありがとう。
居てくれると、とっても心強いよ」
マイラはここ数年で、姉のフェルマそっくりの美少女にクラスチェンジしていた。
初対面でマイラに合った時のミーナは、あまりの美麗さに挨拶すら満足に出来なかったほどである。
「ユウさんに聞いたんだけど、ペダルに足が届いた幼少時から操縦してるんだって?」
「うん、シミュレーターだけど。
出来そうな事は何でもチャレンジするのが、我が家の信条だからね」
「今はサックスプレーヤーとしても、活躍してるんだよね。
マイラは僕の一番身近な目標かな」
「アキラは制限が多くて大変だよね。
スポーツとか格闘技の世界なら、すぐにナンバーワンになれるのに」
「出自が違うのは、ある種のズルだからね。
それに興行で有名になって、表を歩けなくなるのは嫌だなぁ」
「その点は、顔出ししないで活躍できるミュージシャンは得だよね。
あっ、朝ご飯を食べてきた?お握り作って来たから、よかったらどうぞ」
「ミーナ、飛行機酔いしないようにご馳走になったら?」
プライベートジェットが初めての彼女は、緊張のあまり朝食を殆ど食べていなかったのである。
「……ご馳走になります」
「へえっ、ユウさんのお握りと、区別がつかないな。
もしかして握り寿司も習ってるの?」
「うん。ふっくらと空気を入れて握るのは、結構難しいんだよね」
「お、美味しいですっ。私もこんなお握りが作れるように、精進しなければ」
「ミーナちゃんはアキラが食べてくれるから、すぐに上達するんじゃない。
食べて貰いたいって願ってると、絶対に上達するからね〜」
☆
ハワイベース。
「それじゃ一旦Tokyoに戻るから。
試験の当日まで、のんびりしててくれる?」
「はい。羽を伸ばしすぎないように、気をつけます」
「ミーナちゃん、アキラ、マイラはハワイにとっても詳しいから案内して貰うと良いよ」
「でもユウさん、アキラも居るし、このメンバーなら外食しなくても大丈夫だと思いますよ」
「そうだね。ジョンさん、ひさしぶりに中華料理を満喫できますよ」
「ああ、アキラ君はシンの一番弟子って聞いてるよ。
それでセスナの操縦訓練はどうするのかな?」
「あれって校長の冗談かと思ってましたよ」
「ニホン国内じゃ役に立たないけど、ハワイで空域を使える時には便利だよ。
最初は体験飛行でもやってみたら良いんじゃない」
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