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030.Turn On The Lights

 グリルの前で肉を焼き続けているアキラに、ユウから声が掛かる。


「ねぇアキラ、ちゃんと自分でも食べてる?」


「はい、大丈夫です。

 タレの味がちゃんと入っていて、どの部位も美味しいですよね」

 参加者の箸が伸びない焼きすぎになる直前の肉を、アキラは別皿に避けて自らつまんでいるようだ。

 ミーナは甲斐甲斐しくアキラやユウの補助をしているが、参加メンバーはどうやら料理下手が揃っているようでかなり忙しそうである。


「ユウさん、あとでこのタレのレシピを教えて貰えますか?」


「これって、定期配送便で手に入る市販品だけどね。

 焼くのが一段落したら、手間を掛けさせて悪いけど炒飯を作ってくれないかな?」


了解(ラジャ)

 

 2つ返事で応えるのは、普段からユウとの間に信頼関係が築かれているからであろう。バーベキュー用品とは別にバスに積み込まれていた中華鍋や調味料は、どうやらアキラの為に用意されていたようだ。


「こき使ってゴメンね。

 持ち帰ると、マリーがすごく喜ぶからさ」


 炭火の火力を調整して、アキラは使い慣れた中華鍋を振るっている。

 慣れないコンロでの調理だが、火力も十分に強く見ていて不便さは感じられない。

 牛肉をふんだんに使った炒飯は、タイワン料理では定番のメニューなのである。


「ユウさんには下拵えもやってもらってますし、マリーさんにもお世話になってるのでぜんぜん大丈夫ですよ。それに僕の炒飯をいつも美味しいって言ってくれるんで、作り甲斐もありますし」


「彼女はアキラが作る炒飯が、ことの他気に入ってるからね」



                  ☆



 炭火などの後始末はバーベキュー場が請け負ってくれるので、手早く後始末を終えた一行は自由行動になっていた。本来の遠足としての行事は、ここからが本題であると言えるだろう。

 ちなみに多忙なユウは、既にTokyoオフィスにジャンプで戻っている。


「それじゃコミュニケーター無しで散策に向かう人は、忘れずにGPS端末を持っていってね。

 あと座禅の体験希望者は、私についてきて」


 アンに同行した体験希望者は、アキラとルーの二名だけである。

 今日の遠足にはノエルは参加していないが、ティアやセーラは座禅には興味が無く、ミーナは仲良しの二人と一緒に近隣の散策を選んだようだ。

 

「へえっ、ルーは座禅なんて興味が無いと思ってたのに」

 バーベキュー場の側にある寺院は、本堂以外にも複数の建物が隣接する立派な造りである。


警策(きょうさく)だっけ?

 あれで一回ピシリと叩かれてみたくってさ」



「先生、今回の希望者はお二人ですか?」

 前回の体験会もアンが引率していたので、住職にとってアンは雫谷学園の教師という認識になっているらしい。


「はい、お願いします。全くの未経験者なんで、基礎からご指導下さい」


 体験希望者のお世話をする僧侶は、二人に細かい作法をレクチャーしている。

 体験者の集中を乱さないように大きな衝立の背後に居る住職とアンは、ささやき声で会話をしている。


「ほほう、彼女は気配を散らすのが上手ですな。

 まるで聖僧堂の中に、同化しているように見えますな」

 

 ルーが長年培ってきたアンブッシュの技術は、座禅の技術にも通じる部分があるのかも知れない。

 だが義勇軍の部外者である住職に、それを説明しても困惑されてしまうであろう。


「……」


「お隣の彼は、どこかで瞑想の修行をした事があるようで。

 おおっ、これは凄い」


「……さすが和尚はお分かりですね」


「調息の技術は、簡単に身につくものではありませんからな。

 知り合いにも気功の達人が居ますが、ここまで凄い方とお会いするのは初めてです」


 しばらくすると、アキラが座禅している周囲に、野鳥が大勢集まってくる。

 それだけでは無く、縁側には近隣の小動物や鹿まで姿を見せはじめた。


「……なんか聖僧堂の外に、動物が集まっているような」


「彼の発する気の、おこぼれに与ろうと集まっているのでしょう」


(この距離に居ても、なんか体が熱くなってくるな。

 これは校長(ジー)の治療に立ち会った時と、同じかも知れない。

 スポーツトレナーとして商店街で活躍してるのは、伊達じゃないって事だよね)


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 帰路のバス車内。


 散策に疲れた参加者は、ロングソファでは無く巨大なダブルベットの上で熟睡している。

 そんな中、運転席の近くの席に腰掛けたルーとアキラは、穏やかに会話を続けている。


「座禅を終えたら、なんか肩が軽くなったような気がするな」


「ルーさんほどの健康体でも、そういう事があるんですね」


「Congohのネットワークなら、世界中のエンタメを見れるからさ。

 暇だとつい連続ドラマを見過ぎちゃって」


「これが姐さん(マリー)が絶賛してる、アキラの炒飯?

 僕が食べちゃって大丈夫かな」

 ユウが持ち帰った分の残りが、大きなタッパウエアに残されている。


「シンさんに教わった通りの、普通の作り方なんですけどね。

 備え付けのレンジで、温めた方が良いですよ」


「卵が満遍なく混ざっていて、すごく美味しい!

 冷めても油っぽく無いなんて、アキラの炒飯は凄いなぁ」


 空芯菜と牛肉が具材の炒飯を、ルーもとても気に入ったようである。

お読みいただきありがとうございます。

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