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029.I Want To Get Lost

 夕食時のアキラ宅。


 いつものように、アキラとミーナはゲストと一緒に夕食の席を囲んでいた。

 ノエルの家族が一緒なのはもはや当たり前であるが、今日は中華では無くミーナが作った煮物やアキラが調理した刺し身が並んでいる和食寄りの献立になっている。


「アキラは、この惑星の葬式って出た事があるの?」

 ミーナ謹製の肉じゃがを頬張りながら、ノエルの表情はとても幸せそうである。

 長期に渡るニホン暮らしで、もはや味覚もニホン人寄りになっているのかも知れない。


「葬式って、死者を悼む儀式だよね。

 この惑星ではまだ無いかな」


「この惑星でも、国や宗教によって儀式が違うんだけどね。

 僕は何十回もあるんだけど、母さんの葬式だけはやってないんだ」


「……」


「メトセラが亡くなるのは事故とか戦場だけだけど、友軍である知り合いの葬式には頻繁に出てたよ。

 あとは保護した子どもたちが、巻き添えで犠牲になったのは本当に悲しかったな」


「……ノエルの年齢で、そういう経験を積んでる人は珍しいよね」


「ああ、エイミーにも同じ事を言われたよ。

 まぁ幸いに校長(ジー)の域には、達していないみたいだけどね」


「あの人は、僕の知るヒューマノイドでもかなりの長命だよね。

 それに波乱万丈の日々を過ごして来たのが、見る人が見れば解っちゃうから」


「戦場では涙が枯れて出てこないとか、感情が凍りついてしまうとか言う人もいるけど、僕はいつまで経っても慣れる事はなかったな」


「そういう話は、ナマモノ()を食べながらする話じゃない!」

 ティア(お姉ちゃん)の一言に、ノエルは恐縮するように謝る。


「ごめん、ごめん。

 デザートにレアチーズケーキを出すから、機嫌を直して」


「ん」


 いつも通りの食卓の風景である。

 



                 ☆



 学園の校長(ジー)の授業。


 宗教学から文化人類学まで、校長(ジー)の授業はカバーする範囲が広い。

 それに雑談を絡めた面白い話が多いので、校長(ジー)の講義はとても人気が高いのである。


「葬式かぁ……ブッキョウの風習は宇宙規模で見ると変わってるかもね。

 そういえば、こんど希望者にニホンの風習の一つである『遠足』に参加して貰おうと思ってるんだけど」


校長(ジー)、遠足って徒歩で移動するんですよね?」


「いや、バスで移動してちょっとだけ徒歩が入るかな。

 大体イケブクロから徒歩だけだと、移動出来る範囲が限られちゃうからね」


「誰が引率するんですか?」


「現在調整中だけど、皆忙しいからなぁ。

 多分アンと、ルーになるんじゃない」


「あれっ、お二人ってまだ生徒じゃないんですか?」


「いや、二人とも今は講師枠だね。

 実際にいくつかの授業を受け持ってくれてるし」



 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 数日後。


 バスツアーの集合場所に利用される駅前では、ニホンでは珍しい大型のツアーバスが停車していた。

 バスの前には、まばらに参加者達が集まっている。


「うわぁ、すごいバスですね。内装もすごい豪華だし。

 でも大人数だと、ソファしかないから逆に窮屈かも」


「今回は参加人数が少なかったから、自前のこいつの出番だったんだ。

 年に数回しか使わないから、コスパがえらい悪いんだけどね」

 運転手役のアンは、リラックスしたジーンズ姿である。


 実は悪ノリしたフウによってバスガイドの制服が用意されていたのであるが、さすがに運転しずらいというアンの一言でお蔵入りになったのである。ルーが着用を断ったのは、同じく何かあったらタイトスカートでは護衛にならないと主張したからである。


「もっと大人数だった場合は、どうするつもりだったんですか?」


「その場合は、大手のバス会社からチャーターする予定だったんだ。

 狭くて窮屈だから、参加人数が少なかったのに感謝しないと」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 定時?に出発したバスは、目的地を明らかにせずに一般道を走り始めている。

 居住性を追求した高級なツアーバスなので、乗り心地は抜群である。


「なんか炊飯の匂いがすると思ったら、Tokyoオフィスから炊飯ジャーを持ってきてるんだ」

 食べ物に関しての嗅覚が鋭いルーが、真っ先に指摘する。


「だってお昼は、バーベキューだからね。

 ご飯も欲しくなるんじゃない」

 運転しながら、アンが指摘する。


「あれっ、それならユウさんが居ないのはなんで?」


「他の業務があるから、バーベキューの時だけ合流するって」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 11時をまわった頃、広い駐車場にツアーバスは停車した。


 一行は炊飯ジャーと大量の食材を抱えて、予約していたバーベキュー場に向かう。

 この施設は屋根や上水道が付いているので、天気が崩れても何の問題も無い。


「ノエル、料理はしないと聞いてたけど、準備の手際が良いね」

 昼食時の助っ人で、ジャンプで駆けつけたユウがなぜか関心している。

 このバーベキュー場を選んだのは、ユウが知っている施設という理由が大きい。


「戦場で食事の用意は、兵站の仕事ですから。

 シンプルなバーベキューなら、なんとかなるんですよ」


 大量の牛肉は、ユウが事前にタレに漬け込んであるモノを持ち込んでいる。

 炭火のバーベキュー金網は備え付けの使い捨て品では無く、Congoh謹製の特注品である。


「なんかこの金網、肉がくっつきませんね」


「特殊加工してあるCongohの特注品だから。

 ルー、あまり火力を上げないでね。焦げやすくなるから」


「了解。肉をモリモリ食べたい人は、そろそろ食べごろだよ!」

お読みいただきありがとうございます。

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