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028.Message

お読みいただきありがとうございます。

 世界中を飛び回っているエイミーが、Tokyoオフィスに戻って来たのは数日後であった。

 いつも通りシンとのコンビで現れた彼女は、事前説明を聞かずに玄関前で墓石(モノリス)をじっと見つめている。


「もしかしてこの墓石(モノリス)の来歴も、わかるのかな?」

 セキュリティカメラで来訪に気がついたフウは、挨拶もそこそこにエイミーに尋ねる。

 彼女の能力で過去に何度も助けられているので、慎重派のフウとしても信頼度が高いのである。


「はい」


 立体映像の猫?はここ数日でさらに鮮明度を増し、まるでバステト像のように気品のある立ち姿をしている。


女王(ノーナ)の、母星に譲り受けたいという申し出は聞いてるかな?」


「これがヒューマノイドの(モノリス)ならば、たらい回しするのは止めたほうが良いと思いますけど。どうやら立体映像で投影されているのが、鎮魂されている本人?のような気がします」


「こんなに手の混んだ墓石を作るなんて、よほど愛されてたんだろうなぁ」

 小声で呟いたのが聞こえたのか、エイミーは首を横に振りながらシンに応える。


「……そんなシンプルな理由だけなら、良かったんですけどね。

 これはシンの経験した、あの惑星での体験と同じケースですね」


「テュケの惑星と同じって、もしかして滅びゆく惑星に残された相棒(ペット)の墓標という事?」


「ええ」


「ということは、惑星が破壊されたタイミングでDDになったのかな?」


「これだけ小さくても超科学の結晶みたいですから、破壊を免れて別の宇宙に顕現したのかも」


「……フウさん、移設は僕が引き受けますけど、一つだけお願いしたいことがあるんですけど」

 数秒の沈黙の後、エイミーのアイコンタクトに応じたシンは、フウに意外な進言をしたのであった。



                 ☆




 来客が殆ど無いプロメテウス大使館は、いつも閑散としている。

 住宅地にある広い敷地は、巨大な地下施設の存在を知らない者にとっては土地の無駄遣いにしか見えないであろう。ごくまれにバーベキュー等の催事はあるが、普段は外来者の出入りも無く、遊休地として地上げ屋から目を付けられている。


 そんな大使館の入り口付近に、白の軍用礼服を着た一団が集合している。

 参加者は一様に真剣な表情で、まるで軍隊式の葬式がこれから行われるのかのようである。


「こちらの都合で移設するなら、その前にきちんと礼を尽くすべきでは?」

 シンの一言になるほどと納得したフウは、大使館や義勇軍関係者に簡素ながら鎮魂祭を行うと通達したのである。


「総員、敬礼」


 一同が敬礼する中、立体映像の猫?もなぜか後ろ足で立ち上がっている。

 偶然にも前足を毛づくろいする姿がまるで答礼しているように見えて、一同の意図しない微笑を誘っている。


「シンお願いします」

 墓石(モノリス)に触れていたエイミーがシンに呟くと、定礎ごと墓石(モノリス)はシンのブレスレットの亜空間に収納された。その瞬間から立体画像は徐々に薄くなり、数秒後にはまるで蜃気楼のように消えてしまった。


「それじゃ行ってきます」

 挨拶とともに、長距離ジャンプしたシンの姿も地表から消え去ったのであった。



 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 シンを見送った一同は、リビングで休憩している。

 ほぼ全員が礼装を着替えているのは、窮屈というよりも純白の礼装を汚さないためであろう。


「持ち帰らなかった方が、良かったのかな」

 勝手知ったるリビングで、ノエルはカプセルマシンでコーヒーをドリップしている。

 先にドリップしたカップをアキラの前に置くと、自分用のカップを持ってロングソファに腰掛ける。


「いや、あんなに人目に触れる可能性が高い場所じゃ、大騒ぎになるのも時間の問題だったでしょ。

 近くに人気の無い、たとえばアマゾンの原生林とかに現れれば良かったのにね」


「なるほど。気象観測機器が設置されていない国なら、DDが現れても観測されないものね」


 ここでリビングで焼団子を齧っていたマリーが、脈絡無いリクエストを叫ぶ。

「アキラ、台湾風の焼きビーフンが食べたい!」


「アキラさん、シンが戻るのは最短でも1ヶ月後ですから、ぜひお願いします」

 アンは申し訳なさそうな表情だが、料理上手の他メンバーは中華料理はレパートリー外なのである。


「私も手伝うから。

 今日の昼食は焼きビーフンだね」


「ユウさん、学園寮にあるような、巨大な中華鍋ってありますか?」


「もちろん。寮のコンロよりも火力が強いから、らくらく使えるよ。

 それにこの間の定期配送で『虎牌新竹』が来たばかりだから、在庫は潤沢にあるよ」


「わくわく。アキラが作る台湾料理は絶品!」


シンさん(師匠)に手間を掛けさせてる以上、弟子は恩返ししますか」


 ユウと一緒に厨房に向かうアキラは、何故か上機嫌に見えたのであった。

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