027.All I Have
Tokyoオフィスのリビング。
「天使というよりは、ポルターガイストだな」
SIDが撮影した編集画像を、アキラやノエルを含めた関係者が見入っている。
死角が無いように複数アングルで撮影された画像には、光の軌跡が不規則に飛び交っているのがはっきりと写っている。
「実害は無いけど、心臓の弱い人が見たら卒倒するかも」
アンは来客用のエスプレッソを、立て続けにドリップして忙しそうである。
「ここの関係者には居ないんじゃないか。
これだけ見ると、座敷童子案件に思えるが」
フウはエスプレッソに、ブラウンシュガーを大量に投入している。
彼女は特に甘党では無いが、長年の習慣は変えられないのであろう。
「ちょっと思うんだけど、誰かの発言でまたフラグが立ってない?」
ルーは留守番の戦闘要員として、今日はTokyoオフィスに詰めている。
遠慮の全く無い口調は、この件についての本質を突いているかも知れない。
「「……」」
「数日の内に、ポルターガイストから姿が変わりそうな気がするんだけど」
「あの造花みたいな花々はともかく、作り物を動かすだけのリソースがあるかなぁ。
所詮はホログラムみたいな立体映像だし、あんまり騒ぐと逆効果のような気がする」
アンはあくまでも冷静だが、造花のような作り物の花々を現実に見ているので説得力がイマイチである。
「アキラはどう思う?」
「こちらが敬意を持って接していれば、おかしな悪戯は無くなると思いますけど。
僕が責任者ならば大使館入り口のセキュリティを強化して、外部に情報が漏れないように注意するだけで済ませますね」
「東ス●ならともかく、おかしな週刊誌とかに掲載されるとやっかいだからな」
「ははは。実際に載った事もありますしね」
☆
「しばらく留守にしたら、何か大事が起きてたみたいですね」
「大事というか、予想外の事態の連発だな。
あくまでも悪戯の範疇だから、実害は何も無いがな」
ユウのお土産であるマラサダを一心不乱に食べていたマリーが、リビングの広い空間で光輝にじゃれついているピートを指差す。
「ピートだけは、遊び相手が出来て嬉しがっている」
「ねぇフウさん、何かあの光ってホログラムみたいにぼんやり姿が見えているような」
「そうだな……メンバーの誰かがフラグを立てたお陰で」
「別の世界の猫の姿?
あれが並行世界の猫の姿だったら、類似点が多すぎて吃驚ですよね」
二人が注目?したお陰なのか、立体画像は鮮明さを増したようだ。
アビシニアンのように手足が長く、その姿はまるで古代バステト像のようにとても精悍に見える。
「この宇宙でも、猫の姿っていうのはヒューマノイドと同じように安定して同じだからな。
別の世界でも遺伝子が収束すると、似たような姿になっているのかも知れない」
ピートやリッキーを見ていれば、フウの一言が現実であると理解できるであろう。
彼女達はこの惑星産とは言えないが、この惑星の猫科との違いはごくごく僅かなのである。
ここでユウは、瞬きもせずにじっと立体画像を見ているキャスパーの姿に気がつく。
普段の柔らかい雰囲気と違い、彼女の表情は険しくかなり真剣な表情をしている。
「キャスパー、どうしたの?」
「これは……女王に連絡しないと。
あとシンのスケジュールも押さえないと」
小声で呟く彼女は、ユウの姿も目に入っていないようである。
「SID、あの姿の画像を女王宛に至急送ってくれる?
緊急事態だから、管理局の通信機を経由して構わないから」
『了解です』
管理局の亜空間通信機は、短い通信でも膨大な量の電気(代)を消費する。
予算に厳しい官公庁としては気楽に使えないレベルなのであるが、今回は本当の非常事態であると彼女は判断したのであろう。
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数分後。
「墓石を引き取りたいって?」
「ええ。これは私の判断では無く、女王の決定事項です」
「それでシンのスケジュールを確認してたんだね」
「女王曰く、別の宇宙でもバステトと所以のありそうなモノなので、母星に安置させて貰いたいし、それが相応しいと感じるそうです」
「……自分は構わないと思うが、これは発見者の二人にも意見を聞いてみたいな。
特にアキラに」
コミュニケーターを設置してあるとは言え、頻繁に呼び出されるアキラも迷惑な話である。
すでに夕方の時間帯なので、彼は厨房で鍋を振るっているようである。
「僕では墓石と会話は無理ですけど、それならエイミーさんにお願いするのはどうでしょうか?」
「なるほど」
「彼女なら行く末も予想できるでしょうし、適任だと思いますけど。
それにどんな方針になるとしても、女王も納得してくれると思います」
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