024.The Redeemer
昼食を曰く付きの店?で済ませた二人は、車で山間部に向かっている。
キャンプ場が複数隣接しているこの地域は、かなり山奥まで道路が整備されているようである。
「もうすぐ目標地点だね。
そういえばこの辺りは、DDが頻出する地域かも知れないなぁ」
過去の収集レポートに目を通しているノエルは、独り言のように呟く。
「場所まで特定できるなら、地元の駐屯地にでも頼めば良いのに」
ノエルと居る時にはアキラは口数が多く、普段ではまず見られない否定的な意見も口にする。
この惑星での最初の友人であるノエルに対しては、本当に気を許した信頼関係が築けているのであろう。
「いや、今回は特別。
複数の観測機器で探知できたから、場所を特定できたんだよ」
「それで、持参してるこの機器は?」
「オゾン濃度で位置を割り出す、Congoh謹製の多目的探知機。
此処に駐車して、あとは徒歩かな」
「……」
⁎⁎⁎⁎⁎⁎
二人が歩き始めて僅か数分で、探知機が反応する。
「あらら、随分と簡単に!」
二人の足下には、まるで黒曜石のような直方体の物質が転がっている。
いや、転がっているというより、柔らかい地面に半分埋もれていると言ったほうが正しいであろう。
「反応から言ってこれなんだろうけど、また随分と小さいよね。
放射能反応は無いから、触っても大丈夫かな」
ノエルはDD収集時の規則通り、用意したあった手袋を装着する。
ごく普通の作業用軍手に見えるが、ケブラーを使用した耐刃、対BC兵器用の特殊なものである。
「うわぁ、こんなに小さいのに、すごい質量だな。
ぜんぜん持ち上がらない、これはシンさんにお願いするしかないかも」
非力に見えるが、ノエルはデッドリフト200Kg以上を持ち上げる力持ちである。
「ノエル、あのステーションワゴンって、荷室の搭載量はどれ位かな?
この近くまで、寄って来れる?」
「4WDだし、出来ると思うけど。
もしかして荷台に積み込むつもり?」
「うん。
車のサスペンション次第だけど、二度手間になるから放置しないで持って帰りたいよね」
小走りで駐車してあるステーションワゴンに戻ったノエルは、バックしながら現場に戻ってきた。
サスペンションを強化しているので、なんとか整備していない道でもギリギリ走行可能なのであろう。
リアゲートを開放したノエルは車の横に立ち、お手並み拝見といった仕草である。
手袋を取ったアキラは、光沢のある漆黒の墓石のようなものに両手で触れる。
数秒の沈黙の後、彼はそれをまるで発泡スチロールの塊のように簡単に持ち上げて見せた。
「うわっ、まるで重さが無くなったみたいだね」
ステーションワゴンの荷室に『それ』を横たえると、ズシンという鈍い音とともに突然重量が戻ってきたように車体が沈み込む。
「この程度の沈み込みなら、なんとか運転できそうかな?」
「まるでシンさんの重力制御を見てるみたいで、吃驚!」
「ははは。シンさんとは違って、手品の一種だと思ってくれれば。
それじゃ帰還しますか」
「いつもこれだけ探索時間が短ければ、楽な仕事なんだけどね」
☆
Tokyoオフィス。
ワゴン車からの積み下ろしに苦労したが、なんとか地階にある爆発物処理室に『それ』を搬入する事が出来た。戦術核にも対応できるこの部屋であるが、実際に爆発物を扱った実績は皆無である。
「これは……本国の地下にある墓石と似てるな。
あれっ、アキラが居なくなったけど、どうしたの?」
フウはモニター画像を見ながら、ノエルに尋ねる。
「ジムのバイトがあるんで、帰っちゃいましたよ。
これは爆発物じゃないし、自分が出来る事はもう無いからですって」
「アキラがそこまで言い切ってると、現実味が高いな。
アン、透視画像はどうだ?」
「内部は全く何も写りませんね。
たぶん亜空間テクノロジーを使ってるんじゃないですか」
「そういえば、ボナが休暇中でTokyoに来てる筈だよな。
自称墓守のあいつなら、何か分かるかも知れないな」
「SID、ボナさんは今何処にいるの?」
『……シンと一緒に、食べ歩き中ですね。
たぶんカンダの辺りかと』
「忙しいシンを連れ回すなんて、彼女らしいな」
⁎⁎⁎⁎⁎⁎
「いやぁ、美味しかった!
またあのとんかつ定食が食べれるなんて、来た甲斐があったね」
「ジンボチョウの店が閉店する前には、一緒に食べに行きましたからね。
暖簾分けの支店がまだやってるなんて、最近まで気が付きませんでしたよ」
「本国の地下都市に居ると、グルメサイトを見る頻度がどうしても増えてさ。
しじみの味噌汁も健在で、とっても満足だよね」
ここでコミュニケーターにSIDの音声連絡が入る。
『シン、フウさんから至急戻ってくるように連絡がありましたよ』
「ええっ、せっかくのデートに横槍を入れてくるなんて野暮だなぁ。
知らんぷりして、次の店に行っちゃおうか!」
「ははは。
後が怖いんで、止めときましょう。
ほらジャンプで戻りますから、失礼しますね」
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