023.The Dream
テミは親しくなったミーナと、頻繁に会うようになった。
夕食にお邪魔するだけでは無く外食に同行する事も多くなり、テミの人見知りもすこしづつ改善されているようである。
二人で入店した須田食堂で、ミーナは『いつもの定食』を食べている。
テミも同じものを注文しているが、ミーナの定食の方が当然ながら盛り付けがかなり多い。
「ここの食堂は、何を食べても美味しい。
いままで来なかったのが、悔やまれるくらい!」
揚げたての唐揚げを頬張りながら、テミは満面の笑顔を見せている。
『いつもの定食』は盛り合わせ定食であるが、ウインナー炒めやカツ煮などが気まぐれで追加される学園関係者用?のメニューである。
「ここはTokyoオフィスの人達も常連だからね。
ねぇ、テミはアキラにだけは人見知りしなかったよね?」
「うん。だってアキラはケイローンだもの。
あ、おばちゃん、お新香盛り合わせ追加で!」
「あいよ!」
「???」
「子供の頃から知っていたケイローンは、とっても優しくて私を可愛がってくれたから。
アキラもあの人と同じ雰囲気だし、一目で信頼できると分かったんだ」
「そういえば、アキラがテミのことを多分同胞の知り合いだと言っていたよ」
「それにケイローンは、いざという時に頼りになるから。
アキラの側に居るミーナは、きっと分かると思うけど」
「はい、おまたせ。
テミちゃんは、うちのお新香気に入ってくれてるんだ」
「うん、大好き!
他の店じゃ食べないけど、おばちゃんが漬けたお新香は最高だから!」
☆
翌日、アキラはノエルが運転する車中にあった。
ちなみに今日乗車しているのは連絡車であるセダンとは違い、荷物運搬用のステーションワゴンである。サイタマの県境から、車はどんどんと秩父方面は進んでいく。
「校長より手伝うように言われて来たけど、久しぶりの大きな反応ってどういう意味?」
「全国に設置されているオゾン観測機器が、複数箇所で反応しているみたい。
スパコンの計算だと、かなりの質量の物体が発現した可能性が高いって」
「そんなに大騒ぎする事例なの?」
「数年前に、現役で稼働する惑星破壊兵器もどき?が発見された事があってね。
その時は、大騒ぎになったみたいだよ」
「それって、自律稼働してたって事?」
「そう。高度なAIを内蔵していて、発電所から勝手にエネルギー補給をしていたんだ」
「それで実害は?」
「Tokyoオフィスのメンバー総掛かりで対処したから、特に実害は無かったみたい。
今回は大きな反応は確認されてるけど、同じような自律稼働の個体ではなさそうなんだけどね」
「そう明言できる根拠があるんだ?」
「だって送電網に異常があるとか、発電量がおかしいとかの報告が何も無いもの。
オゾン反応が大きすぎるから僕らが派遣されたけど、緊急事態では無いと思うよ」
「なるほど」
⁎⁎⁎⁎⁎⁎
「あっアキラ、ここで腹ごしらえして行こうか。
丁度開店時間みたいだし」
店の駐車スペースから、二人は店舗に向かう。
地元の人気店らしく、店の前には既に数人の行列が出来ている。
古民家風の店舗には、『うどんそば』の暖簾が出されている。
ノエルが知っている店なので大外れの懸念は無いだろうが、アキラは男性ばかりの客層から何やら一癖ありそうな印象を受けている。
4人掛けのテーブルに落ち着いたノエルは、メニュー表を見ずに注文を行う。
「お姉さん、僕は週替りの定食セットでご飯少なめで」
「……じゃぁ僕も『全く』同じもので」
危険を察知したのか、アキラは無難に注文する。
店員さんがテーブルを離れると、アキラが小声で呟く。
「なぁんだ、引っかからなかったのか。
つまらない」
「ここって有名なデカ盛りの店だよね」
「そう。
須田食堂と遜色ない味だけど、ちょっと味のゆらぎが大きいかな。
まぁそんなに酷いものは出てこないから、大丈夫だよ」
ゆらぎが大きいと言う事は、何度か利用して経験しているという事なのであろう。
定食を注文したにも関わらず、飲み屋のお通しのように注文していない小鉢が3ついきなり配膳される。
「ちょっと味が濃いけど、どれも美味しいよ。
これってカントウ風の味付けなのかな」
おでんを頬張りながら、ノエルが呟く。
アキラも箸をつけるが、たしかにどの小鉢も味付けが濃いめのような気がする。
「お待たせしました」
ここで二人が注文していた、週替りの定食が配膳される。
キツネ色のフライが山盛りされた、ミックスフライ定食である。
ご飯少なめを指定したのにも関わらず、どんぶりご飯はてんこ盛りである。
「食卓の上が、茶色でいっぱいだね」
須田食堂のフライも濃い目の揚げ色だが、ここは更に衣が固く揚げられているようだ。
ノエルは卓上のウースターソースを、チキンカツの上にしっかりと掛けている。
モモ肉の厚手のチキンカツには、やはりウースターソースが相性抜群なのである。
「ミニたぬきが付いているのは、暖簾に偽りなしという事なのかな」
アキラはうどんに手を付けるが、彼にはうどんの良し悪しを付ける評価基準は皆無である。
立ち食いうどんよりははるかに本格的な狸うどんを、彼は美味しそうに啜り上げている。
「そういえばセーラもここのうどんが気に入ってたなぁ。
一回本格的なうどん屋さんに、行ってみるのも良いかも知れないな」
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